姉とヒースの攻防
ハーブティーからふわっと薔薇の香りがする。
ルディアスにしてはオシャレなチョイスに姉への心遣いが見えて、嬉しい反面、姉を取られそうで少しの嫉妬と感じた。
しかもこれ絶対お高いやつだわ。マルティナ様ご愛飲のものかしら。
平民ではなかなか手を出せそうもない品だ。
味わって飲まなければ、と香りを楽しみながらゆっくり口に含む。
「なあ、アリシア」
「はい?」
「ヒースと結婚とかは考えてないのか?」
思い切り咽せた。
飲み込んだ後で良かった。ルディアスの顔に噴き出すところだった。
「は、え、いや、何言って……?」
「いや、思った以上にヒースとうまくやってるみたいだし、この際お前たちふたりが結婚してもいいんじゃないかと思ってな。不安要素はあるが、アリシアが手綱を握ってくれれば全部いい方に転がりそうだ」
「そ、それは! さすがに付き合ってもいないのに考えることではないです!」
「あはは、そうなったらリズリーさんとの約束は守れなくなっちゃいますね」
「ふふふ、いえいえ。まだ妹は幼いので嫁にはやりません。約束通り帰して頂きますよ」
「幼いと言っても成人はしてるじゃないですか。子を産んでる人もいますよ」
「ひっ! ま、まさかアリシアに手を……!?」
小さく悲鳴を上げて慌てて私をヒースから引き離す。
いや、そうしようとしたが手が繋がれているため中途半端な体勢になる。
「アリシアの手を離してください!」
「お断りします。アリシアさんが絶対に離さないでと言っていたので」
「わ、私には妹を守る義務があります!」
「アリシアさんは僕を守ってくれると約束してくれました」
見えない火花がヒースと姉の間に見えるようだ。
「え、なにこれ」
「何だろうなぁ……」
姉の肩越しにルディアスの苦笑が目に入った。
「アリシアさん、長居しないで早く僕たちの家に帰りましょう? リズリーさんも元気そうですし、ね?」
「え、でももう少し……」
「帰るならヒースさんだけお帰りになったらいかがです? アリシアの家はここです。この子を3週間ほぼひとり占めされてたでしょう? 1日くらい私に返して下さってもいいのでは?」
威嚇して毛を逆立てる猫のように警戒しながらじりじりと距離を取ろうとするが、ヒースもそれに合わせて距離を詰めてくる。
どちらも表向きは笑みを浮かべているが、譲る気はないようだ。
どうしたらいいのかと決めあぐねているとーー
「ねえ、僕のお願いはなんでも聞いてくれるんですよね? アリシアさん」
すうっ、と目を細めて声を低くしたヒースにびくりと体を揺らす。
姉からパッと体を離してピースのそばに寄る。
「え、ええ、そうね! 私ヒース帰ろうかしら!?」
それを見て満足げに頷き、不敵な笑みを浮かべると、サッとローブを羽織り私の手を掴む。
「そういうわけで、また来週お会いしましょう?」
どこか挑発的な勝者の余裕すら感じる物言いに姉が怒りに肩を震わせていた。
その姿から目を逸らして逃げるように家を出た。




