取り戻した笑顔
◇
「絶好の帰省日和ね!」
家を出ると降り注ぐ眩しい日差しに目を細める。
少し暖かさを感じるが、ヒースは顔を隠すためローブを羽織ってから私に手を差し出す。
躊躇いなく手を繋いで、3回目となる村へと続く薄暗い森を歩く。
残りあと1週間。
初めて森に足を踏み入れた日のことを思い出して、ここに住んでいたのがヒースでよかったと思いながら握る手に力を込めた。
村に入ると秋祭りの準備をしていて、いつもより人通りが多い。
ヒースはフードが脱げないように深く前に下ろした。
いつも以上にじろじろと不躾な視線を感じるが、受け流して家への道を急ぐ。
「うっかりしていたわ。もう祭りの時期だったのね」
「ああ、豊穣祭ですよね」
「そうよ。ヒース、はぐれないように気をつけてね。手を離したらダメよ」
握った手を持ち上げて、フードの下から顔を覗き込んで言い聞かせる。
「はい。アリシアさんが離さないでくれるならずっと握ってます」
「いいお返事ね。ほら、行きましょ」
ヒースの手を引いて行き交う人の間をすり抜ける。
あと少しで家に着くと言うところで後ろからぶつかられてヒースがたたら踏む。
「わっ……!」
その拍子にフードが捲れ、銀の髪が露わになった。
こちらに倒れそうになるのを踏み止まって、俯けていた顔を上げようとする。
「待って、ヒース! 顔上げちゃダメ!」
咄嗟に首に腕を回して無理矢理伏せさせると素早くフードを被せる。
周囲を見渡してこちらを見ている人はいない事を確認して安堵の息を漏らす。
「た、助かりました……」
「ふふ、ヒースの役に立てたわね」
フードを整えてあげると手をしっかり繋ぎ直して足早に家に入った。
「ただいまー」
「おかえり、アリシア」
玄関を開けてすぐ、リビングのソファに座る姉を見てポカンと口を半開きにして凝視する。
マルティナと窓から覗いた時よりも頬もふっくらとして、目の下のクマも薄まり顔色が良くなっている。
悲しみの影は薄くなり穏やかに微笑んでいた。
「おう、アリシアか。どうだ。リズリーも元気になったろ?」
姉の隣に座るルディアスに気付いて何か言おうとするが何も言葉が出て来なくて、息をただ吸っては声にならずに出ていくのを繰り返す。
「ああ、ルディさんも来てたんですね」
「まあなー」
「ほぼ毎日来ているわよね。そんなに無理しなくてもいいって言ってるのに」
「俺が会いたいから来てるだけだ。すぐに来れるしな」
隣に腰掛けるルディアスに困ったような顔を向けつつも嬉しそうな声をしている。
随分とルディアスとの距離が近くなったようだ。
新たな恋なのか友情なのかは分からないが、以前の姉に戻りつつあるのは喜ばしい事だった。
「アリシア、心配かけたわね。もう大丈夫よ。全部アリシアのお陰よ。私のためにたくさん無茶をしたって話を聞いて心臓が止まるかと思ったわ」
「だ、だって……お姉ちゃん、死んじゃうと思って……」
ぽろぽろと涙が頬を伝う。
ヒースの手を放して姉の膝に縋り付く。
「ごめんなさいね……」
泣きじゃくる私の髪を優しく撫でてくれるその手にようやく心から安心できた。
私が落ち着いた頃合いを見計らい、向いのソファに座るように促された。
ヒースと並んで座るとすぐに指を絡めてきた。
「ふふ。なあに、ヒース。寂しかった?」
「ええ、とても」
その甘えるような声にくすりと笑ってそのまま握り返す。
「うっわ……」
ルディアスが何か言いたげな顔で口元を押さえて顔を顰めた。
その横で姉が小さく咳払いをして繋いだ手をチラチラ見ながら話しかけて来た。
「もう私も元気になったし、アリシアも帰ってくるんでしょう?」
「来週帰るわ。ヒースとの約束だもの」
「……そう。約束したのなら守らなくてはね」
どことなく複雑そうに呟いた姉にきょとんと首を傾げる。
「ご心配なく。閉じ込めたりしませんよ。きちんと帰します」
「え、ええ。もちろん。心配などしていませんよ。ええ、ちっとも。帰して頂かないと困りますからね。信じますよ」
明らかに不安そうだ。
誤魔化す気もないのではないかと思うほど引き攣った顔だった。
そんなに心配しなくてもいいのに、と思いながらルディアスが魔法で出したハーブティーを口にする。




