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詰問

 ヒースとの会話でいつもの調子を取り戻すと好奇心から部屋を見渡す。


 いつもヒースの部屋に入る時は起こしにくるだけで、そんなにまじまじと中を観察するわけではなかったのだ。

 もう数えるほどしか入れないのだからとソファに座ったままキョロキョロとあちこちに視線を向ける。


 全体的に緑を基調としていて魔法に関する本が並んだ本棚に小さなクローゼット。

 窓際にはプランターに観葉植物なのか魔法薬に使うものなのかよくわからない植物が飾られている。


 気になるものがあれば手に取って見てもいいと言われて、魔法の専門書を開いて見たが全く意味が分からずパラパラ捲ってすぐに閉じた。


 振り返るとヒースはこちらの様子を眺めていたようで目が合うと何が楽しいのかにこにこと機嫌よさそうに微笑む。


「どうしました?」


「ねえ、ヒース。魔法使いって普段お城に住んでるでしょ?」


「そうですねぇ」


「ヒースみたいに他の人も外で暮らすことってできるの?」


「普通は無理でしょうね。僕は追い出されたので」


「あっ……」


 何も気にしていない風だが、悪いことを聞いてしまったかと顔を曇らせて俯く。


「ふふ、気にしていませんよ。他に何が知りたいんですか?」


 優しい声に促されて、おずおずと口を開いた。


「あの……ヒースは小さい頃からお城にいたんでしょう? あんまり魔法が使えなかったとしても、そんなにいきなり追い出されるものなの?」


「小さい頃はルディさんと同じように使えてたんですよ」


「そうだったの!?」


「それが13歳頃から年々魔力が減少して、数年後には底をつきそうなほどになったんです。魔力が足りなくて魔法もまともに発動できなくなっていって……まあ、そんな状態が続けば高いお金で僕を雇うのは無駄金だと叫ぶ方もいらっしゃいまして、めでたく追放となったわけです」


「め、めでたいの? 今まで使えてたのに魔法が使えなくなるなんて辛かったんじゃない?」


 幼いヒースのことを思うと不安だったのではないかと思って問いかけるが、ひらひらと手を振って「全く」と笑顔を返される。


「やっと城から解放されたんです。今の暮らしは天国ですよ。やることと言ってもルディさんに頼まれて魔法薬を作るくらいですし、のんびり暮らせてますからね」


「そう。それならよかったわ。ずっとここにいてくれるならいつでも会いに来れるもの」


 ヒースはそれに答えずにただいつもと変わらず微笑んだ。


 「どこかに行くつもりなの?」と喉元まで出かかったがそれをグッと飲み込んだ。

 それを尋ねたところで自分がどうしたいのかも分からなかった。

 



「雷少し遠くなりましたね。じきに雨も止みそうです」


「よかったわ……夜中まで続いたら眠れる気がしなかったもの」


 心の底から安堵して胸に手を当てる。


 もうじき夕食の時間だ。

 そろそろ準備もしなければいけないと思い、ドアの向こうに耳を澄ませるとやけに静かでもう酔い潰れたのかと思うほどだ。


 そうっと扉を開けて様子を伺おうとすると、僅かな隙間から手首をがしっと掴まれた。


「ひっ!?」


「つーかーまーえーたーわーよー!」


「ま、マルティナ様っ!?」


 扉を大きく開け放たれてマルティナに拘束される。

 間近で見上げると赤ら顔で目は半分とろんと落ちている。酷く酔っ払っているのが確認できた。

 吐き出された酒気が強く匂ってそれだけでこちらまで酔いそうだ。


「アリシアさんを離してください」


 後ろから伸びて来た手がマルティナから引き離そうとするが、なかなかに粘る。


「マルティナさん、いい加減に……」


「ヒースは小娘のことどう思っているの?」


 ヒースの言葉を遮って、舌足らずな口調でゆらゆら揺れながらマルティナが問い詰める。


「だってあり得ないじゃない。1ヶ月よ、1ヶ月。見ず知らずの他人を家に上げて尚且つ願いまで叶えてあげるですって? なに? まさか一目惚れでもしたの? この顔も中身も平々凡々な甘やかされた小娘に? はっ、ふざけないでよ」


 私を捕まえるというより支えにしながら、腕をのろのろ上げるとヒースを指差す。


「小娘はね、ただの村娘なのよ。ヒースのオモチャにしたらすぐに壊れるのわかってる? 何なら私とルディアスでこの子のお願い叶えてあげてもいいのよ。ねえ、その方が嬉しいでしょう、小娘? ほら、嬉しいって言いなさいよ!」


 私の頬を片手でむにむにと揉んでくるマルティナにされるがままになりながら、手の動きに合わせて口を開く。


「お、おきもちは、うれしい、のですが、ヒースのそばに、いたいので、このままで、いいです」


「はー? 何ですってぇえ?」


「うぅっ、やめてくださいぃ」


 鼻をぐいっとつままれて抵抗していると、マルティナの力が緩んだタイミングでヒースが私の腕を引き寄せた。


「アリシアさんに乱暴しないでください。大丈夫ですか? 痛くないですか?」


「だ、大丈夫……」


 鼻を指先で撫でられて気持ち痛みが和らいだ気がした。


「私もヒースに甘やかされたいわ! 小娘ばっかりズルいじゃないの!」


「いや、お前今さっき散々ヒースに喧嘩売っといてそれは無いわ」


 ルディアスの呆れた声につい大きく頷く。


「マルティナさんにこんな対応するわけないじゃないですか。アリシアさんにだけ特別に決まってるでしょう」


 何を当然なことをと言いたげな声音に、マルティナが涙を浮かべてわなわなと震える。


「ど、どうしてよ!? やっぱり小娘に惚れてるの!?」


「はい、好きですよ。とても」


 周囲の音が一瞬消えた。


 

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