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家族だから

 ヒースが笑っていないところを初めて見た。


 驚いた拍子に涙も止まって、少し冷静な部分が戻ってくる。


「ヒースは私に……嫌われたら悲しいの?」


「……どう、なんでしょうね」


 弱々しく見えるのも演技かもしれない。


 疑おうと思えばヒースの全てを疑えた。

 でも。

 自分の気持ちすら理解していないようなヒースが悲しくて。

 それでも、さっきの言葉が腹立たしくて。


 ひとつ心に決めて深く息を吐ききると徐ろに彼に向けて両手を伸ばす。


 ヒースは警戒することなく、まるで撫でてもらおうとするかのように頭を下げてくる。


 それがちょうどいい位置まで来たところでーー


 パンッと乾いた音が響いた。


「っ!? アリシアさん、痛いです……」


 両頬を勢いつけて手の平で挟んだ私に潤んだ瞳で抗議してくるのを頬から手を離さぬままキッと強く睨みつける。


「ヒースが悪い事をしたら叱るって言ったわ!」


「でも僕は楽しんでただけで誰かを害したわけではありませんよ?」


「私はとても悲しかったわ。ヒースに酷いことを言われて裏切られた気分だった」


「ふふ、それはすみません」


 頬に触れる私の手を上から包むように掴むと顔を擦り寄せてきた。


「全然悪いと思ってないのね」


「はい、ちょっと喜んでます」


 声を低くして眉間の皺を更に濃くするとヒースは顔を綻ばせた。


 本当に捻れた性根をしている。


 頬をつねってやると「やめてください」と言いながらもむしろ喜んでいるヒースを見て絆され始めている自分に呆れてしまう。


「でも私がヒースを嫌いになったら嫌な気持ちになるんでしょう?」


 そう問いかけると途端に不機嫌そうに目を細めた。


「…………嫌いになるんですか?」


「それはこれからのヒース次第よ。人を大切にしてくれないと嫌いになるわ」


「大切に、ですか?」


「そう。知らないのならこれから覚えていけばいいの。誰かをわざと傷付けたり、悲しんでるのを楽しんだらダメ。わかった?」


「えぇー、僕の楽しみが……」


「ヒース?」


「………………わかり、ました」


 一段と声を低くして名前を呼ぶと渋々ながらも頷いた。


「あと半月で1ヶ月経つわ。その時のお姉ちゃんの状態次第では予定通り記憶を消してもらう。それまでは今まで通り家族として一緒に過ごしましょう」


「はい、そういう約束ですからね。もしアリシアさんが出ていくって言っても閉じ込めておくつもりでした」


 笑顔で告げるヒースに若干引いた。


 もしかしたら今が最後の逃げるチャンスだったのかもしれない。

 逃げられるだけ逃げろと言われていたのに自ら捕まりに行った私を、未来の私はどう思うだろうか。


 それでもきっと後悔はしない。


 例えこの限られた期間だけの家族だとしても私はヒースを大切に思ってる。

 私に見せてくれた優しさは嘘じゃないって信じてるから。


 これから先、ヒースが心から大切だと思える人に出会えた時に傷つけないで済むように私が力になりたいと思った。

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