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歪み

「……私のことも、面白かった? 滑稽だった……?」


 気付いたらそう口にしていた。

 答えなんて聞きたくもないのに。


「面白そうって言うのもありましたけど、アリシアさんはとても可哀想だったので、つい手を貸してあげたくなったんです」


「可哀想……?」


 想定していた答えと違って訝しんで聞き返す。

 ヒースはぐいっとこちらに一歩近づくと愉しげに口元を歪める。


「ねえ、アリシアさん。何でリズリーさんの記憶を消したいって僕に頼んだのかわかりました?」


「……っ!」


 ついっと指先で頬を撫でられた。

 その恍惚とした笑みにぞくりと悪寒が走る。


「ふふ、気付いた瞬間に居合わせたかったなぁ。残念です。ねえ、どう思いました? ご自分のこと」


 口をはくはくと無意味に開いては閉じて、動揺を隠せず狼狽える。

 愉悦が滲んだ紫の瞳に囚われて身動きができない。

 喉を鳴らして唾を飲み込むと、戸惑いを隠さぬまま口を開く。


「ひ、ヒースは気付いてたの……? 気付いていて私を……」


「はい、アリシアさんみたいな子が壊れる瞬間が見れたら楽しいかなって思いました」


 そんな自分を知られたくなかった。

 自分ですら知りたくなかったのに。

 それ以上に私が傷つくのを楽しみにしていたというヒースの言葉に一番打ちのめされた気持ちになった。


「酷い……っ」


「はい、よく言われます」


 むしろ褒められた、と言わんばかりの笑みに悲しみと共に苛立ちを覚える。

 体の震えが抑えられなくて嗚咽が零れる。


「なら、もう満足したでしょう……っ?」


 涙を浮かべて睨みつけるとヒースが困ったように笑いながら目尻の涙を拭おうと手を伸ばしてくる。

 それを乱暴に払いのけて椅子から立ち上がるのをヒースが可笑しそうに目で追う。


「うーん、まだまだ全然ですね。だってアリシアさん思ったよりも元気そうですし。もっともっと壊れてくれるかと思っていたので残念です」


 本心からそう思っているのだろう。

 その瞳には落胆の色があった。


「っ、あなた最低だわ!」


「あはは。はい、それもよく言われます」


 まるで世間話の延長のように、なんの緊張感もない声だ。

 私ひとりだけが取り乱している。


 そう、思っていた。


 ヒースが笑みを消すまでは。


「ーーでも、何ででしょうね。アリシアさんにそう言われると嫌な気分になります」


 途方に暮れたようにぽつりと呟くと、ヒースは胸元のシャツをクシャリと握り締めて俯いた。


「…………ヒース?」

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