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疑いの芽


「お邪魔するわ!」


 昨日の今日でまたマルティナは姿を現した。


「お帰りはあちらですよ」


「あ、マルティナ様だ。よければジャム食べます? スコーンもありますよ!」


 マルティナに近付こうとする私の肩をヒースが引き留める。


「アリシアさん、この方をもてなしてはいけません」


「えぇー……でもマルティナさん悪人じゃないと思うの。少なくとも私は何もされてないし、せっかくなら仲良くなりたいんだけど」


 片眉を跳ね上げてどこか機嫌良さそうにマルティナが視線を私に向けた。


「ふん? 小娘……あなた意外といい子じゃないの。ちょうどいいわ。今日はそこの小娘に聞きたいこともあるし連れていくわ」


 ぐいっと腕を引かれて、立派な胸に顔を埋める形になる。


「えっ? ちょっ!?」


「アリシアさん!」


 ヒースの珍しく焦った声が聞こえたが、光に包まれて気付けば村の入り口に立っていた。


 繋がれたままの手を見てそのまま顔を上げてみると、逃がさないと言うようににんまりと笑むマルティナと目が合う。

 

「ちょうどルディアスも来てるみたいだし覗いていきましょう。窓からこっそりとね」


 「それから」ともじもじと続ける。


「家に着くまでにあんたとヒースがどうやって出会ったのか、どんな生活をしているのかを教えなさい」


 高慢な態度の割にマルティナはただの恋する女の子のような命令を下した。


 それを可愛らしく感じながら、ヒースとの思い出をひとつひとつ語る。

 そんなに長い期間ではないのですぐに話し終えてマルティナの反応を伺ってみると据わった目が私を捉えていた。


「ひぃっ……!」


「……ねえ、それ母親じゃなくて新妻じゃないかしら?」


 怒気を孕んだ声に命の危険を感じて慌てて否定する。


「ち、違います! お姉ちゃんとしてたことをなぞっているだけです! 全く! お互いにそんな感情は一切ありません!」


「……見た目通りのお子様ってわけね。まあそうね、ヒースに釣り合っていないもの。心配するだけ無駄ね」


 だいぶ貶されているがマルティナと比べることすら烏滸がましいのは理解している。

 どうにか見逃してもらえたようで安堵した。


「仕方ないわ。用が済んだらすぐあの家を出ていくのよ? わかった?」


「もちろんそのつもりです!」


 その答えに満足そうに頷くと思案するように少し黙った後、マルティナは憐れむような目を向けてきた。


 ややあって静かに口を開く。


「可哀想な子。あんた魔法使いのこと何も知らないのね。

あと半月と言ったわね。逃げられるだけ逃げなさい。心に残る思い出を作るですって? ヒースも馬鹿げた事言うわ。イメージなんてなくても魔法なんていくらでも作れるわよ。私達」


「え……?」


「騙されてるのよ。ヒースに」


「どう、して……?」


「さあね。暇潰しじゃないの? 昔からよくそんな遊びをしてたもの」


 マルティナの言葉を理解したくないのに、頭の中で何度も繰り返される。


 ヒースが私を騙す?

 いつも優しくて、助けてくれる、私の味方のあのヒースが?

 あり得ない。


「信じられないです……」


「そう? それならそれでいいわ。あなたが決める事だもの。あ、あの家ね? ルディアスの気配がするわ」


 まるでどうでもいいことのように話を切ると私の手を引いたまま家へと足を進める。


 戸惑う私の心だけ置き去りにされたまま。

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