お守り
ルディアスの言う通りにヒースの家に戻ると、ホットミルクを出された。
隣に座る彼の顔が見れない。
取り乱した自分を思い出して穴があったら入りたい気持ちだった。
今までの積もり積もった怒りや不安などが溢れたのだろうとは思うけど、あれではまるで幼い子供だ。
「ふふ、アリシアさん。僕しか見てないんですから気にしないでください。僕たち家族でしょう?」
「気にしないなんて無理だわっ……」
ぶんぶん首を振って耐えきれず机に突っ伏した。
「じゃあルディさんに慰めてほしかったですか?」
「ヒースがいいわ!」
考えるまでもなく答えが出た。
勢いよく顔を上げた先のヒースが嬉しそうに微笑むものだから、恥ずかしさで顔を両手で覆った。
「あ、あの、ルディアスさんが嫌なわけじゃなくて……」
「はい。僕がいいんですよね?」
「…………ヒース、意地悪しないで」
消え入りそうな声で呟くことしかできなかった。
◇
橙色の空の色をゆっくりと夕闇が染め変えていく。
鍋をかき混ぜてからスープの味見をして問題ないことを確認していると、オーブンのタイマーがちょうど良く鳴った。
グラタンを取り出して仕上げてヒースに運ぶのを手伝ってもらう。
食卓に並べている間もルディアスが戻るのではないかとソワソワと玄関を気にするが、戻る気配がないため諦めてふたりで食事を始めた。
「アリシアさんのご飯は美味しいですね。あと半月もしたら食べれなくなるのが残念です」
その言葉にスプーンを持つ手が止まった。
忘れていたわけではないけど、すっかりここでの生活にも慣れてきていた。
魔法が完成した後、ヒースに会えなくなるなんて欠片も考えていなかった。
「全部、……全部終わった後はヒースに会いに来たらダメなの?」
「アリシアさんが僕を忘れないならいつでも来てくださって構いませんよ」
「忘れるわけないじゃない! 私そんなに薄情じゃないわよ。ちゃんと会いに来るわ」
「はい、待ってますね」
まるで信じていないような口ぶりだ。
拗ねたような気持ちでグラタンを口に入れた。
「邪魔するぞー」
食後のコーヒーを飲んでいると少し疲れた様子のルディアスが姿を見せた。
「ルディアスさん!」
大股で空いてる席に腰掛ける。
冷たい飲み物のほうがいいかと思って水を出すと一気にグラスを呷った。
「アリシア、心配すんな。リズリーには納得してもらったし、これからも様子見に行くから」
「良かった……不安だったんです。お姉ちゃんがあんなこと言って、ルディアスさんがもう見てくれなくなったらどうしようって」
「途中で投げ出したりしねぇよ」
「きゃあっ」
大きな手が私の頭をワシワシと雑に撫でられて鳥の巣のようにひどく髪が乱れた。
「あんまりだわ……」
「辛気臭い顔してるからだ。俺が大丈夫っつったら安心して笑ってろ」
余裕な態度でくつくつと喉を鳴らして笑う姿は頼もしくて心から信じてみようと思えた。
「俺の飯は?」
「はいはい、待っててください」
ヒースがキッチンにご飯を取りに行くと、ルディアスが私を手招きする。
「アリシア、これやるよ」
緑の石の付いたネックレスを渡されて首を傾げる。
「これは?」
「すぐ付けろ。服の中に隠せ」
真剣な声色だったので、逆らう事なく即座に言う通りにする。
「いいか。肌身離さず付けてろ。ヒースには言うな。それはお前を守るものだ。感知できないようにしているから他の魔法使いにバレることもない。絶対に誰にも見せるな」
小声で早口で伝えられる言葉に首を傾げる。
「ヒースにもなの?」
「そうだ。わかったな?」
コクコクと何度も頷くと、「いい子だ」と先ほどの乱暴な撫で方とは打って変わった優しい手つきで頭を撫でられた。
「ルディさん、何してるんですか?」
「ぉお!?」
底冷えするような声に私とルディアスはふたりしてビクリと肩を揺らした。
「な、何怒ってるんだ?」
「何触ってるんですか?」
「頭撫でただけだろ。さっきもしてたじゃないか」
「僕のいないところで? 隠れてコソコソと? アリシアさんは僕の家族って言いましたよね? 手を出さないでもらえます?」
「いや、ヒース、待ってくれ。誤解だ」
「誤解? 触れたことは事実です」
口元に笑みは残したまま平坦な声で詰め寄るヒースに耐えきれずルディアスが大きな声で叫ぶ。
「あ〜〜っ! 俺はリズリーに惚れてるからアリシアは妹みたいなもんだ! 手を出すわけないだろ!」
真っ赤な顔を隠しもせず堂々とヒースに告げるルディアスを呆然と見つめる。
徐々に言葉の意味を理解するとクワッと威嚇するように目を吊り上げた。
「いくら恩人でもルディアスさんにお姉ちゃんは渡しませんっ!」
「今度はお前か! 面倒くせえ!」




