忠告
◇
「戻ったぞー」
夜ご飯をテーブルに並べているタイミングで玄関の扉がまた勢い良く開いてルディアスが姿を現す。
「おかえりなさい、ルディさん」
「ルディアスさん、おかえりなさい! お姉ちゃんはどうでした!?」
「起きてたから口説いてきた」
「はい?」
くどいてきた? え、なんて?
言葉の意味を飲み込めず、固まってしまう。
そんな私にはお構いなしでルディアスは話を続ける。
「今はやつれてるけど、リズリーはかなり美人だな。なかなかいい女だった。とりあえずしばらく通うわ」
「えっ、えっ? あの、すみません、口説いたって?」
「まあ、リズリーのことは気にするな。俺が面倒見るからには死なせねぇよ」
「あ、はい……お願いします」
『口説く』という部分が引っ掛かるが素直に頭を下げる。
死なせないと魔法使いが断言するのだ。
違う意味では心配だがルディアスに任せるしかない。
「めしー」
ルディアスはどかっと普段ヒースが座る椅子に腰掛けてご飯の催促して来た。
「はいはい」とヒースが仕方ないなぁと笑いながら用意していく。
食事をしながらルディアスがヒースに話しかける。
「魔法は相変わらずか?」
「ええ、変わりなく。役立たずなままですよ」
「……ふーん?」
ビーフシチューを口に掻き込んで口元を拭うとヒースに挑戦的な目を向ける。
「なんかやってみ?」
「えー、じゃあそうですねぇ」
ぽんっと白い小さな花が空中からぽとりと机に落ちてきた。
「わ。かわいいお花ね!」
「あはは、ルディさんには似合いませんね」
「はん、俺は花なんぞいらねー」
ガタイの良いルディアスにこの可憐な花は確かに似合わない。
隣に並んで座るのも窮屈なため、ヒースが私の隣に座ったくらいだ。
ちょうど食事を終えたので花をコップに生けようかと席を立とうとすると腕を引かれた。
首を傾げて名前を呼ぼうと口を開こうとした時、そっと私の耳元に先ほどの花を差し込まれ、間近で微笑みかけられる。
「アリシアさん、似合いますね。かわいいです」
不意打ちすぎて、かあっと耳まで赤くなった。
「おいおい、女たらしが」
「あはは、アリシアさんは僕の家族なので特別です」
「家族? 結婚するのか? お前が?」
「いえ、期間限定の家族です。一般家庭の家族っていうのを教えてもらってるんですよ」
「ふーん?」と何か言いたげな顔で私とヒースの顔を見比べる。
「まあ、お前がマルティナにそんな甘い対応したことはないわな」
「マルティナ?」
「同僚だよ。昔っからヒースに惚れてる。そのうちここに来ると思うから覚悟しとけよ」
「覚悟、ですか?」
「この家にかかってる魔法は全部あいつが手を出してるんだがな、ここを『愛の巣』って呼んでるんだ。そこに入り込んだ女をあいつが許すわけがない。なあ、何で4部屋もあると思う?」
「え、普通に部屋が沢山あった方が便利だからでは?」
「将来の子供達の部屋だそうだ」
「………………うわぁ」
恋人ですらないのにそれはちょっと……
「なんかそんなこと言ってましたねぇ」
「お前、もうちょい気にしてやれよ」
「興味もないのにどうやってですか?」
心底不思議そうににこにこ問いかけるヒースに緑色の頭をガシガシと掻きながら大きく溜息をつく。
「ああ、お前はそういう奴だよな……」
気怠げにルディアスが指をスッと動かすと酒瓶が10本程机に並んだ。
「今日は飲むぞ、ヒース!」
「はいはい、お付き合いします。アリシアさんは早めに寝てくださいね。多分明け方まで飲んでますので。音が部屋に届かないように魔法もかけてもらうので大丈夫ですからね」
「わ、わかったわ」
お姉ちゃんからお酒を飲んだ男の人に近づいてはダメって言われてるもの。
後片付けを終えて、ふたりに挨拶をするとさっさと部屋に引き篭もった。
◇
翌朝、騒音も何も気にすることなくぐっすり眠れた私はいつも通り起き上がる。
ダイニングを覗くと机に突っ伏しているヒースとルディアスの姿を見つけた。
酒瓶が机の上にも床にも倒れてぐちゃぐちゃだ。
「ど、どうしよう? とりあえず片付けなきゃ」
足元に転がる瓶を踏まないように1本1本拾っていると、酷い酒に焼けた濁声が聞こえた。
「あ"〜……アリシアか。置いとけ。片付けるから」
腕を枕に伏せたままこちらに目を向けると手を軽く払う。
一瞬で酒瓶も机の上のおつまみも全て消えた。
目を瞬かせていると、自身に何らかの魔法をかけたのかルディアスが淡い光に包まれる。
先程までの気怠げな様子から一変してスッキリした顔をしていた。
大きな欠伸をして首をボキッと何度か鳴らすと、音を立てて立ち上がる。
「じゃあ俺帰るわ。ヒースによろしく言っといてくれ」
「あ、はい。姉のこと、ありがとうございます。よろしくお願いします」
ルディアスは片手を上げて答えると、ふと思い出したように私を振り返った。
「なあ、アリシア」
「はい?」
「お前、ヒースに惚れるなよ」
「えーと、あの人外レベルの美形相手に恋愛感情持てる村娘がいると思います?」
「顔だけで恋に落ちるわけじゃないだろ。悪いことは言わないからあいつはやめとけ。痛い目見るぞ」
哀れむような、気遣うような色が込められた目を向けられる。
「そんなことにはならないですよ」
「……俺は警告したからな。じゃあな」
軽く返した私にルディアスは溜息混じり告げて、あっさりと光に包まれて消えた。
私の胸にモヤモヤとした違和感を残して。




