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閑話休題:幼いながらも、領主として……

――×――×――×――


「まったく、血の気が多いわね」


 ニルヴァがループスを置くと談話室をでて、何やら騒ぐ声がよく響いていた。それが遠ざかっていくのを見計らい、扉をそっと開けて廊下の窓辺に近づく。できるだけ姿を晒さないように注意して外の様子を窺った。

 でないとニルヴァのことだ、気配を察するに違いない。

 しばらくすると二人が屋敷からでてきてかと思うと、何やら話し始める。

 かと思うと、急にニルヴァがループスの襟元を掴みかかるではないか。

 さっきまでの友好的だった雰囲気が偽ったもので、ニルヴァはループスのことをここに連れてきた時点から快く思っていなかった。

 そんな彼の忠誠的な使命感には、領主として喜ばしいことだ。

 たとえあの時、本当に誰でもよかったと思えるほどに泣いて縋り、取り留めのない子供の戯言と真摯に耳を傾けたしがない旅人でしかなかった。

 今となっては日々の食事を預かってくれて、爺やとだけだった生活の助けになっている。

 ループスのことが心配で事の顛末を見守っていたが、何事もなく解放されたようだった。

 それを確認して、私は慌てて談話室に戻ってソファに腰かける。


「……お嬢?」

「見送りご苦労さま」

「てっきり寝室で休まれているかと思いました」

「ちょっとね……」


 驚いたように瞳を見開くニルヴァに、私は微笑み返して立ち上がる。


「どうかなされたんですか」

「まだあの時のお礼をいえていなかったと思ってね。アナタ……ニルヴァがいて本当に助かったわ」

「急にどうしたんですか」


 どこかぎこちなく照れた表情を浮かべたニルヴァの脇を通り過ぎ、談話室を後にドアノブに手をかける。


「今後の件も含めてまた迷惑をかけるから、その前に伝えておきたかったのよ」

「迷惑だなんて、そんな……」


 いつだって謙遜する彼は私には優しく、こうして勇気を必要とする決断ができた。

 だけどそれも、度が過ぎることもある。

 退室がてら、扉の隙間から見送るニルヴァと目を合わせる。


「お願いだから、仲良くするのよ」

「お、お嬢……」


 ここで誰をと付け加えなくても、ニルヴァのことだから心当たりはあるはずだ。

 それだけを告げて扉を閉め、私は寝室へと向かう。

 ……この生活も慣れたものだと思う。

 窓辺から射しこむ月明りは雲に隠れ、最初の頃は怖くて泣いていた。

 けど今となっては日常で、ランタンの明かりなんて必要もないくらいには歩けるようになっている。

 これも、負担をかけている領民のためだ。

 ユリム家の財を最大限に賭して今を、これからもあり続けるために振舞っていかないといけない。

 それは亡き両親のためでもあって、結局は私の独りよがりの我が儘だ。


「それにしても、ループスには困らされたわね」


 出来る限り領民を巻き込まずに穏便な方法を模索してきたが、それもあの瞬間に瓦解した為か、肩の力が抜けて非常に軽い。

 まさかあの場面で助けが入るなんて、微塵も期待していなかった。

 思いだす、誰も私だと知って助けようとしない哀れんだ視線。中にはほくそ笑んで、ざまあみろと感じた者もいただろうけど、当たり前か。

 だって私は、領民を苦しめながらも我が物顔で街を出歩く酷い領主なんだ。

 そうみんなが、私を陰で指差している。

 だというのにあの『グズ男』と噂のループスが、見返りの下心もなく無意識に、気づいたら身体が動いていたと聞いた時は、胸の奥が温かくなった。

 そして、私の考えに賛同して協力してくれる。


「まだまだ子供ということなのかしらね」


 定期的に顔をだす、元従者だった家を訪ねた際にも心配される。屋敷に住みこみだった家庭が多く、中には年が近い子供もいた故の親心か。近況報告も兼ねて話すたび、我が子と比べられると反応に困ってしまう。

 あれから顔を合わせていないが、元気にしていると聞くと嬉しくなる。

 もし叶うなら、このまま不自由なく生活してもらいたい。


「ん~っと、それにしても疲れたわね」


 部屋の前に到着して、大きく伸びをすると一気に身体が重くなる。

 あれだけ誰かと話したのが久しぶりで、どこか夢現だった理想論が現実味を帯びてきた。お陰で詰めないといけない計画もあって、考えることは山ほどある。

 だけど今は、この波のように襲ってくる微睡みに身を任せてベッドで横になりたい。爺やにバレたら怒られるだろうけど、寝具に着替えずベッドに潜り込む。


「おやすみなさい」


 ……今日の出来事が夢じゃないことを祈り、ゆっくりと瞼を閉じた。

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