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『グズ男』との会合

――◇――◇――◇――


「よぉ、目ぇ覚めたか」

「はぁ?」


 似た展開は、これで何度目だろうか?

 目が覚めると真っ白な空間に、見知らぬ男性が私の顔を覗き込んでいる。

 ……いや、見覚えがあるぞ。


「あ~悪い。心の声、駄々洩れだぞ」

「じゃあ、誰……ですか?」

「ループスだ」

「ああ、『グズ男』の」

「そっちで覚えてんのな」


 何が可笑しいのか、ループスは楽し気だ。

 男の割に長めの灰色をした髪を頭頂部から濃い目の色合いで、毛先にかけて薄く。目つきも良いわけでもなく、少しダウナー系に垂れている。藍色に深緑を混ぜたような双眸が弧を描いた。


「まあいい、時間がないから手短に済ませよう」

「時間がない?」

「端的に言ってお前……えっと~」

「瀬川深幸です」

「せ、せがわ……みさき?」


 ああ、言いにくそうにしてる。

 ループスの困惑が私にまで伝わってきた。

 確かに、ここでは私以外も心の声すら駄々洩れのようだ。


「じゃあミサキ、聞かせてほしいことがある。……今後、どうしたい」

「どうしたい?」

「ああ、このなにもない場所に留まるか。下界に戻ってミサキを必要とする人達と過ごすか、だ」

「私を必要とする人達?」

「ああ、心当たりがあるだろう」

「ないよ」


 黙ったループスが、何を考えているか伝わってこない。もしかしたら何も考えられず、私の返答に戸惑っているのだろう。

 だったら、言葉を続けるだけだ。


「だってそうでしょ。あそこには私の居場所がない。戻ったところでどんな目に遭うかわからない……いや、目にみえてる。退院しようが入院していようが変わらないなら、あの選択が正しかったと思う」

「ミサキが何を言ってるかわからないが、本当に居場所がそこだけなのか」


 だから、心当たりがないだってば。


「よく思いだせ、どうして俺のことを『グズ男』ってわかった」


 説くような、藍色と深緑の双眸が見据えてくる。


「わからないよ」

「いいや、覚えているはずだ。あの領地、ディストラーでのこと。それに俺の仲間であり家族、甲斐甲斐しくも世話を焼いてくる女達」

「ディストラー? 仲間に家族? それに最後、ループスってやっぱり【グズ】ですね」


 生まれてこの方、海外旅行や大切に思える人がいた記憶はない。両親のことだって思いだすどころか、もういないことすら忘れていた。


「何よりもソフィリア。領主であるユリム・M・ソフィリアに仕える執事として、そんな軽薄な態度でいいのか」

「……ソフィリア!?」

「いい反応だ」

「私、あの時兵士に囲まれて……えと、一人で相手取ったんだけど倒れちゃって……ループスの身体なのに傷つけて……」

「あ~剣の使い方がなってなかったからな。手の皮が擦り切れるくらい握るとか、そりゃあ~血まみれになるだろ」

「……ごめんなさい、私のせいで」

「何を謝ってるんだ?」

「だって、私がもっと上手く動けていれば命を落とすことだって――」

「いや、勝手に殺すなよ」

「えっ」

「あれはミサキの魂が向こう側に引っ張られたから起きた死に際の現象で、あの血だって身体の主である俺のだ。むしろ無傷でユリム家のベッドで寝てるぞ」

「はい?」

「だ~か~ら~ループスとしては無事。ミサキが気を止む必要はないってことだ」

「だったら私にどうしろと?」


 黙るループスから、言葉にならない想いだけが流れ込んでくる。

 それを私が受け取っていいものなのかと、首を傾げたくなってしまう。


「ミサキにお願いしたいんだ。アイツらのこともだけど、仕えると決めたソフィリアのためにも」

「どうして私なんですか」

「……これは俺の我儘なんだけど、疲れたんだよ。毎日を仲間達と一緒に過ごすのは退屈じゃなかったし、世話焼きの女達もまあ、色々とあるけどいい奴らばかりだ。

 だけどよ、今まで一人だった俺なんかには勿体ないくらい眩しい存在で不安なんだ。

 けどいつか、また一人になる。

 今までがそうだったように、大事なモノを手にするとすぐに零れ落ちていく。だからアイツ等のため、何かできないかと思って必死に頑張ってきた。

 ……それに疲れたんだ、と思う」

「だったらそのことを仲間に伝える事だって――」

「しようとしたさ。だけど、幻滅されるのが怖かった。

 どれだけ【グズ男】だって思われようが、これまでの行いに後ろ指刺されようがどうでもいい。

だけど、どうしても一歩が踏み出せなかった」

「だから私に、後をお願いするんですか」

「ちなみにミサキが助けた女の子、元気にやってるみたいだぞ」


 そこでその話題をだすのは、ズルいと思う。


「悪いな、それくらいミサキには俺の代わりを託したい」

「……私からも聞きますけど、向こうで何をすればいいんですか」

「なにも」

「はぁ?」

「特別何かをする必要はない。男として生きることになるのは申し訳ないが、自由に楽しく生きてくれ。

 ……それだけで構わない」

「けど私、ループスとしての記憶が無いんですよ?

 もしそれがバレたら、ループスが怖がっていた一人になるかもしれない」

「その辺は徐々に思いだせるよう頼んでみる。

 だから頼む、俺の我儘に付き合ってくれないか」

「ホント、自分勝手の【グズ】ですね」

「どうとでも言ってくれ」


 すると、私の視界が急に歪みだした。

 この【グズ男】……初めから私の意志なんて関係なしに……。

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