閑話休題:領主としての采配と信頼
「この二人を休ませてあげて」
ループスに殿を任せ、私達はメイン広場までたどり着いた。
そこで待ってくれていたサンにレオン、今も歩けているのが不思議なアビのことを任せることにする。
「いい、あたいはまだ――」
「まだ、何かしら?」
未だ気が確かなアビは強がってはみたものの、何もないところでよろけてしまう。
どうして変に強がるのかしらね。
支える形で視線の高さが合い、真っすぐと蜜色の双眸を覗き込む。
「急激な魔力消費による意識の低下よ、休まないと身体にまで影響が及ぼすわ。……最悪、命を削って――」
「その辺で」
「……そのようね」
サンに肩を叩かれ、私は遅れて気づく。
既にアビの意識は途切れて、しな垂れる形で肩に顔を埋めてくる。
それを支えてあげて、ゆっくりと背中を摩る。
「貴女のような領民がいることに、いくら感謝してもしきれないわ」
「みんな、なんだかんだ言ってここでの生活が好きですから」
「サン、貴方もいい人ね」
どこか厳つくも、ニルヴァには引けをとるが強面のサン。ループスよりもリーダーっぽさがあって似合っていると思うが、当人はどうしてか『グズ男』に付き従っている。
バツが悪そうに照れる姿は、どこか不釣り合いながらも可愛らしかった。
「さて、私もそろそろ行動を起こさないとね」
あの場での私は誰よりも戦力外で、領民達の前で胸を張って立てるほどじゃない。それでも気丈に振舞うことで、少しでも不安を拭えればと考えていた。
だけど今は、ようやく役に立てる。
このディストラー領地の中では一番広くて賑わう場所で、もしもの備えを潜ませてきた。
そんなもしもの時に直面してしまい、夢であってほしい何度思ったか。
「それで領主さま、ここからはどういった作戦でいくつもりですか?」
こそばゆくて慣れない『さま』だったけど、後でいい。
「白兵戦よ」
シンプルかつ、荒事に慣れている者であれば適している。
それでも訓練を受けた国の兵士と、端くれの領地にいる荒くれ者では差はあって当然。
であれば、それを埋めるだけ。
広場の中央にある噴水に近づき、ごつごつとした石造りの縁に触れる。
「け、煙?」
「正確には水蒸気よ。長年溜め込んだ魔力で噴水に働きをかけ、周辺一帯を覆うくらいはできるわ」
「この視界の悪さに乗じて?」
「ええ、各個撃破していくわ」
「それは確かに、俺達のホームが適してますね」
私の意図を察してくれたのか、サンの不敵な笑みが心強い。
まったく、貴方のお仲間さんたちはどうして血の気が多いのかしらね、ループス。
「さあ、反撃にでるわよ」
野太くも威勢のあるかけ声には、さっきまでの疲労を感じられなかった。
さぁ、早く戻ってきなさい私の執事。