ぼくと隣のお姉ちゃん
ランドセルをしょって、挨拶して玄関を出るとお姉ちゃんがいた。
「おっはよー、今日も元気か~少年」
「おはよ、お姉ちゃ――ってなんで頭ぽんぽんすんの~!?」
お姉ちゃんが手を離すと、ぼくは痛むこめかみを抑える。
「小さい小さい。もっと大きくなれ」
「ぐぬぬ……大きくなったらぽんぽんし返してやっかんなー!」
「期待してるぞ~」
お姉ちゃんはそう言うと、コートを翻して学校に向かう。
コートからのぞく制服がすごく大人に思えた。
「というわけで大人になろうと思うんだ」
「がんばれ」
友人に話すと励ましてくれた。
「大人になるってどういうこと?」
「さあ?そのうちなるじゃん。のんびり行こうぜ」
ゆっくり話す友人に見切りをつけ、隣の席にいた女子に聞いてみる。
「格好いいことよ」
「カッコいいか!よし、カッコよくなるぞ!」
ぼくはみんなの前で宣言した。
「このかっこつけがー」
「どの辺が?」
言われるたびに聞き返し、言われたところを修正する。
「昨日お姉ちゃんが男の人と歩いてた……」
「恰好いい人ってそういうこと気にするかな?」
「そうか!」
うつむいていた顔を上げ、隣の席にいる女子にお礼を言う。
ぼくは努力する。
自分がカッコいいと思えることを。みんなから格好いいよと言われることを。
お姉ちゃんが通っていた学校に入学した翌年、おねえちゃんは着物を着ていた。
「今日成人式なんだ~」
「つまりぼくよりおばさ……?」
「せめて年上って言え~!」
お姉ちゃんはぼくのこめかみに握りこぶしをあてると、ぐりぐりしてきた。
「わかった!わかった!ぼくより年上の着物を素敵に着こなせるお姉さん!」
「なら、よし」
急に手を放すと、お姉ちゃんはなぜか顔を赤らめてそっぽを向く。
数年後、ぼくは高校の入学試験の結果を見に行く。
「あった!」
親に携帯で連絡をし終え、校門を出るとお姉ちゃんがぼくを褒めてくれた。
「ふふ~ん。背も追いついたし、今までの分お返しするからな!」
「なんなら今やってみる?ぐりぐりとか」
急に近づいてきた姉ちゃんに、なぜかドキドキししてしまう。
「ホント大きくなったね~、ってどうしたの?顔背けて」
お姉ちゃんは昔と同じ笑顔で笑っていた。