感傷
後一話投稿します
「すごいな……」
俺、イーノス・ウォードは感嘆の声を上げていた。
町のレストランで料理が出て来るまでの間の時間つぶしの為に、読んでいた新聞には魔術師達の活躍が書かれていた。
内容を要約すれば、剣聖オウェン・ウィリスと言う大魔術師が、王都に現れた魔獣を討伐したというものだった。
魔獣とは変質したオドによって生まれ。オドとは大気や万物に満ちた万能エネルギーの事であり、常に揺蕩たゆたい揺らぎながら全体としての偏りはありつつも、安定している。
ところが時として、オドの揺らぎが極端に偏り著しく均衡を欠いてしまった時オドは、生物にとって有害なオドである【瘴気】へと性質を変え、更にその偏りを極端なものへと変えていく。
そして、自然界が持つ拡散・放出作用の限界を迎えた時、瘴気によって汚染された生物――魔獣が生まれる。それを討伐する事が宮廷魔術師団の主な任務だ。
俺が街の新聞売りから買った新聞を読んでいると……
「どれどれ……王都にて大魔獣発生するも、宮廷魔術師団の活躍によって浄化……今回大活躍したのは、剣聖オウェン・ウィリス。彼の正体に迫る! って……どこの三文記事だよ……イーノスも大衆紙じゃなくて、ジャストタイムズとか貴賓紙を読んだほうがいいぜ」
「ちょっと返せよ……デーヴィッド!」
デーヴィッドは、カラカラと笑い「ほらよ」と言って新聞を投げ返した。
「剣聖オウェン・ウィリス。王国において数少ない一級の魔術師……英雄みたいな存在だからな……おまえも知ってるだろ?」
「あぁ魔術師は国家の戦力として、そして王都などに現れる魔獣討伐のため大勢いるがその中でも、国家認定魔術師一種の認定を受けた魔術師は、死没者含めて百人ちょっと……まさにエリートだよ……」
「マスコミや民衆は賢人ワイズマンなんて呼ぶけどな」
そんな話をしていると、店員が料理を配膳していく……テーブルの上には貝と乾燥キノコのクリームスパゲッティとシーザーサラダ、Tボーンステーキ、バゲット等の料理に、赤ワインのボトルとグラス二つ並べられており、豪勢な夕食となっていた。
「じゃぁ食べますか」
「そうだな」
暫くすると小食のデーヴィッドは食後のコーヒーを楽しんでいたが、俺はまだスパゲィが半分ほど残っていた。
「最近この手の新聞が多いな……」
「まぁ仕方ない……火事と喧嘩は王都の花と言うが、百年前の出来事のせいで、王都もすっかり変わってしまった……そのせいで、魔獣と魔術師の死闘が王都の花になったからないい意味でも、悪い意味でもな……」
「……まぁ王都近辺以外は平和なもんだがな」と、デーヴィッドは小さいカップの中に並々と注がれた濃いコーヒーを一気に煽り、自分の失言を大げさにせず他意があると受け取られない様に、精一杯平静を装った。
「なんだ? おばさんが心配なのか?」
「別に俺を捨てた母親の事なんぞ今更どうでもいいだろ?」
「……」
「まぁこっちのぬるま湯みてぇな平和な生活も悪くはないしな……」
「嘘くせぇ……札付きのマフィア予備軍だったデーヴィッドが、平和な生活も悪くないって何の冗談だよ」
イーノスはツボに入ったのかゲラゲラと、腹を抱えて笑い息が苦しくなってきたのか目の端には涙を浮かべていた。
「うるせぇなぁ~~さっさと食えクリームスパは、冷めるとチーズのせいか? はたまたクリームのせいかゲロ見てぇな匂いするからよ」
「それを食ってるやつの目の前で言うな! って言うか店の中で言うな! 食い物屋だぞここは! ってかどっちも乳製品だし」
「はいはい」とナマ返事返しながら、デーヴィッドは窓の外を眺めていた。
夜空にはそれは美しい満月が見えた。