敗北
あと2話程度更新させていただきます
「あれ……可笑しいな少し前までは、ここにいたハズなのに……」
俺が辺りを見回すが、先ほど見かけた銀髪の女性はの影はなかった。
身を隠せるような大きな樹木はおろか花などの園芸植物さえ生えていないような裏庭には、大人の女性の身体をすっぽりと隠せるような大きなものは屋敷をおいて他にないハズなのだが……
「魔術でも使ったのかな……」
魔術の中には身を隠したり、空を飛翔するモノもあるそうだからな。
そう言いながら辺りを見回していると……
「おい! このグズ!」
そう言って声をかけてきたのは、カーティスだった。
どうやら俺を追ってきたようだ。
「何か用か?」
「もしかしてまだ諦めてないのか? 使い魔になる事をよぉ!」
「だとしたら?」
俺はマーティナの使い魔になりたい。だが、今ここで使い魔になりたくないと言えばカーティスからの暴言は、少しは落ち着くであろうがそれは自分に嘘をつくことになってしまうそうしたら、ただでさえコイツのせいで逃げ腰な生活になってきている……今逃げたらきっと後悔する。
それに俺はマーティナのことを憎からず思っている。
「お前のようなグズが、マーティナ様の使い魔になれるわけがないんだよ! 分かったならさっさと失せろ!」
「諦めるつもりはない」
「失せろ! 無能が! 目障りなんだよ、お前もあの悪魔付きも!!」
「お前に指図される理由はない!」
「この魔眼無しの無能野郎がぁぁぁぁああああああッ!!」
刹那――――。
人の頭程の大きさの火球が瞬き程の速さで生じると、カーティスの怒りの感情に呼応するように、熱量を上げて俺の方へ飛来する。
これが魔術。
世界を騙す選ばれた人間にしか使えない御業であり、俺が本来できなければならないモノ……
まるで世界が止まったかのようにゆっくりと見える。
あ、俺ここで死ぬんだ……
そう覚悟を決め目を瞑ろうとした瞬間。
白銀の長髪に黒を基調とした古い軍服を着た長身の女性が、俺とカーティスの間に割って入っていた。
「はッッ!!」
女が声を発すると、魔術によって生じた火球はまるで何もなかったかのように霧散した。
「誰だよお前!? 何をしやがったッ!!」
カーティスが驚いたように叫ぶが、その表情には余裕がなく、明らかに動揺していた。
それも仕方ないだろう。何しろ突然現れた女性が何をしたのか、カーティスの技量では全く分からなかったのだ。
「ウォード一族の末席に古くは名を連ねた者とでも言いましょうか……まぁ相談役とでも考えてください……」
「ふざけるなッ! 古い軍服何か着やがって! お前なんか見たことないぞ! それに相談役は大老達だ!!」
カーティスの言葉を聞いて思い出したが確かに女性の服装は、確かに古めかしいデザインをしていた。
黒を基調とした色合いに腰にはサーベルとリボルバー式の拳銃、それにポーチがぶら下げられており、カーティスの言う軍服に俺には見えなかった。
「おや、ご存知ありませんか? 私を?」
女性は首を傾げながらそう言うと、カーティスの顔を見て不敵に微笑む。
確かに一度見れば忘れないような美人であり、自信満々のドヤ顔で言う物だからもしカーティスが、知らないとでも言えばただの痛い人である。
「知らないね! そんな奴!! どけよ、そこを退けぇえ!!!」
カーティスが再び魔力を集め始めるが、女性は一切動こうとはしない。それどころか、まるで興味もないような素振りを見せていた。
「あなた程度の人間が私の道に立ち塞がるとは……片腹痛いですね……」
女性が冷たく言い放つと、カーティスが顔を真っ赤にして再び魔術を行使しようとする。
しかし、今度は発動すらしなかった。
「なんで……どうしてだ……? こんな事今まで一度も無かったのに……!」
カーティスは自身の身に起きている事が理解できず、牙を剥いて威嚇するが、それを気にも留めずに女性はカーティスに近づいていく。
そして目の前まで近づくと、カーティスの額に手を当てた。
「哀れなものですねぇ……いいでしょう特別に見せてあげます……」
次の瞬間。
眩く白い光が周囲を包み込み、思わず腕で顔を覆う。
やがて光が落ち着くとそこには……。
「はい、これで大丈夫ですよ」
先ほどまでの険しい表情とは違い、満面の笑みを浮かべた女性が立っていた。
「なんだこれ……どうなってるんだ?」
カーティスが自分の手や身体を確認して呆然と呟いていた。
「ふぅ……久々に魔力を使いましたから少し疲れてしまいました今のは、ただ君の魔力より濃密な魔力で君を多って君の魔力を握り潰しただけです。」
そう言って額の汗を拭う仕草をするが、別に疲労している様子はなかった。
「どういうことだ、お前一体何者なんだよ!!」
カーティスが吠えるが。
「私は通りすがりの軍人ですよ、ではさようなら」
そう言って颯爽と立ち去ろうとするが、俺は見逃さなかった。
スカートの裾から見えた太ももにホルスターが見えていたことを……
「待ってくれ!」
女性は何も言わないままこの場を後にした。
その後はカーティスの取り巻き対俺一人という、数の暴力と普通の喧嘩へと発展して数人を道連れにして、すごすごと屋敷のある山を降りて街へと繰り出しデーヴィッドとのディナーの約束の時間まで暇を潰すことにした。