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追放通告




 一族が集まる年中行事を行うため分家を集めたのは、ウォード本家の当主アドルフ・ウォードであった。そのため大人たちは会議へと駆り出され、俺を含めた子供たちの多くは、親睦会問名前の子守を押し付けられていた。




特に俺は、魔力はあるものの魔力を扱うために必要とされる能力である魔眼がない。だから俺はウォード一族の中でも冷遇を受けていた。


 子供の面倒を見ることに疲れ、少し休憩をしていると……




「流石没落したとはいえ、この国の魔術師を束ねる宮廷魔術師団団長を長年務めてきた魔術の宗家だな……」




 そう呟いたのは、真っ赤な赤髪を三つ網に編み込んだヒモで、無造作に纏めた少年……悪友のデーヴィッド・アダム・スミスだった。




 コイツは親父が開いている魔術治療院の患者であり、諸事情で数年単位の経過観察が必要なため、都会の親元を離れて家に住みながら暮らしている。そのため時々家の手伝いもしてくれる気のいいやつだ。




「そりゃそうだ。何せ今だに名前だけは有名で、歴史の教科書には絶対に名前が出る。大魔術師ランドル・ウォードの一族だぜ? それはそうと今夜は行くんだろ?」




「あぁもちろんだ。こんな面倒な事やってられるか」




 二人で雑談をしていると、突然。




「悪魔憑きのデーヴィッドに出来損ないのイーノスか……神聖な聖十三家に連なるウォードの屋敷には、到底相応しくない早々に立ち去れ……」




 そう俺達に言い放ったのは、俺と同い年のカーティス・ベニントン。


 よく目立つ緑髪の少年であり、一族の少年少女達の中でも特に強力な魔力を持つ魔術師でありそのため、当主の孫娘マーティナの【使い魔】として最有力の存在であった。




 使い魔。それは魔術師にとって、相棒やパートナーと言われる存在であり、古くは人間や犬猫等の動物や霊的存在である魔獣が使われてきたが、近年では魔術人形が主に使われている。使い魔は、魔術師にとっての手足にして盾とでもいうべき存在であり、近接戦闘が苦手な現代魔術師にとっては、自身が対応できない物事への補助などを意味する存在だ。


 だから古い魔術師の家系であるウォード家では、分家の人間を使い魔とする風習が今も根付いており、俺の父マイケルも次期当主チェイスの使い魔をしている。




 本家の一人娘マーティナの使い魔候補筆頭のカーティスの言葉に、周囲の大人や同年代も便乗したように口々に不満の言葉を吐露した。




「魔力の見えないお前なんぞ居ない方が一族のためだ。そっちの汚らわしい悪魔付きなど一族の物ですらない……ご当主様も、チェイス様も何を考えて居られるのか……」




「全くその通りですよ……」




「悪魔付きなど、このウォードの門をくぐらせることすら憚られると言うのに……マイケル様もおウォードの為を思うのなら、封印を強固に感情も縛ってしまえば楽なものを……」




 こ、コイツ! 危険だからと言う理由だけで、感情を無くさせるような封印をしろと言うなんて! 許せない! デーヴィッドが悪いわけじゃない。事故に巻き込まれて偶然生き延びてしまった……そうしたら今度は死ぬよりも辛い。生き地獄とも言うべき差別に苦しんだコイツに、感情を消せと言うなんて!




 俺が怒りのあまり全身が震えて、今にも飛び掛かりそうになった時。背後からしゃがれた声や地の底から響くような低い声が聞こえてきた。




「貴様ら何を騒いでおる……」




 声のする方を見ると、共を連れ立った老人達が表れた。




 老人たちは、ウォード一族の意思を決定する大老と呼ばれる。分家の代表者で全員が一流の魔術師としての技量を持つ怪物共だ。


 先頭に立っているのは、分家筆頭アラスター・ターナーだった。




「アラスター大老……」




「お嬢様の使い魔候補筆頭のカーティス・ベニントンではないか? 揉め事か……」




 そう言うと俺達の方を横目でチラリと見ると、長い顎鬚を親指と人差し指で数回。摘まむようにすくき目を閉じて、数秒思考した。




「イーノスと悪魔付きの少年よ……我らウォード一族はただでさえ、分家のブラックウッドめに辛酸を長年舐めさせられている……一族の縁者に悪魔付きが居ることが判れば、彼奴らが宮廷魔術師団団長の座を我ら、ウォード一族から奪い取られ、碌な役にも付けていなんだ……」




 大老達はうんうん。と頷きアラスターの言葉を重ねるようにして、他の大老も言葉を紡いでいく……




「あぁ今年は中興の祖にして国家への反逆を行った。かの大魔術師ランドル・ウォードが一族内に転生して十五年……」




「憎たらしいことに貴様も転生者候補である故……今まで飯を食わせてやったがよりによって、悪魔付きのゴロツキとつるむなど……言語道断! 貴様らを一族から除名し追放するように……我ら長老集が進言するつもりだ……貴様が若君の使い魔の子と言えど我らの忠言をご当主様が無視するとは思えんのでな……」




「なッ!!」




「……」




 俺とデーヴィッドは言葉が出なかった。




「ワシが断言しよう。イーノス貴様は魔術師には絶対に成れん! 何故なら魔力を視て操るために必要不可欠な魔眼を持っておらぬからだ。マーティナ姫の使い魔になど絶対に成れぬよ……分不相応な夢は諦めウォードの御名は捨てるのだな……」




 俺は無茶無謀であるという事は、わかっていた。わかっている。積りだった……「俺はマーティナの使い魔にはなれない」その事実を、実力を持った魔術師に面と向かって言われたことで、心に来るものがある。




「そうだぞ、不相応に剣術や体術などを磨いたところで、魔術を使えぬ使い魔などただの木偶の坊にしか過ぎないんだよ! あはははっはははは」




 カーティスが何かを言っているが、耳が遠くなったかのように何を言っているのかボンヤリとしか聞こえない。否、聞こえてはいるのだが意味が理解出来ない。




「ふざけんな!」




しかし、その一言で我慢の限界に達したデーヴィットは同時に立ち上がり、カーティスや大老に向かって叫ぶ。




「コイツがどれだけ一生懸命武芸に励んだと思っている! 手には豆が潰れた跡が残っているぐらいだ」




「それがどうした?」




「ふんっ……事実を言ったまでだ何が悪い?」




「何だとこの野郎!!」




そして、そのまま殴りかかろうとするデーヴィッドであったが……




「何があったんですか?」




その言葉を聞き、俺とデーヴィットは慌てて振り返ると、そこには呆れた表情を浮かべている一人の少女の姿があった。彼女は、当主の孫娘マーティナ・ウォード。




 マーティナは、興味深そうな視線をこちらに向けている。


 即座に今まであったことを何となく理解したのか。




「まったく……貴方たちは少し落ち着きがないところがありますね……少しは使い魔候補としての自覚を持ってください」




 マーティナは、そう言って俺たちを諌めた。


 その言葉で大老の意向は、当主の孫娘によって潰された形になった。


 彼女の後ろでは、苦笑いをしているもう一人の男が立っていた。


 それは俺の父マイケル・ウォードだった。


 そしてその背後に居た男性は……




「すみません旦那様。私の息子たちが粗相をしてしまって……」




「構わんともマイケル。それにしても珍しいじゃないか? 普段は仲の良いイーノスとデーヴィッドたちが言い争うなどとは……」




「いやぁ〜ちょっとした冗談ですよ〜」




そう言ってへらへらと笑うデーヴィッドだが、目が笑ってなかった。




 まぁ当然だよな……先に喧嘩を売ってきたのはカーティスだ。それに少し言い返したからと言って、コチラが悪いと言われてしまうのは腑に落ちない。




 そんなことを考えていると……




 旗色が悪いと考えたのか大老達はその場を後にした。


 暫く。他愛もない会話をしではという事になり、俺、デーヴィッド、マーティナ、カーティスでお茶会をすることになった。




 暫く気まずい雰囲気の中、突然「あら?」と、声を上げたのはマーティナだった。


 彼女は何かを見つけたのか窓の外を見ており、それを見た俺も同じように視線を向ける。すると、そこに居たのは見慣れぬ軍服を着た白銀髪の女性だった。


 その姿はとても美しく、思わず息を飲むほどだった。




 だからだろうか? 彼女のことが気になった俺は、無意識のうちに椅子から立ち上がると玄関の方へと向かっていた。


 デーヴィッドが突然立ち上がった俺の行動に、疑問を持ったのか声をかける。




「おい! イーノス! どこに行くんだ!?」


「トイレだ!!」




俺はそう言うと部屋を出ていき、その後ろ姿を見てデーヴィッドがため息をつく。




「ったく……相変わらずガキみたいなやつだな……」


「……」




 カーティスはイーノスのことをジッと見ていた。




「それにしてもあの女性は一体誰なのかしらね……? 随分と古風な軍服を着ていらっしゃったようだけど……」




 マーティナだけが、不思議そうに首を傾げるのであった。







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