坂本龍馬がしていたかもしれない話。
龍馬。われの言うことはまるで夢のようじゃな」
中岡と坂本龍馬は囲炉裏を囲んでいた。
「中岡。われは頭が硬い。もっと勝先生のようにやりこうせんいけんぞ」
中岡にはやはり龍馬の言うことが理解できん。外国におっても会話のできる手持ち板か。
「乙女姉さんやおりょう。それどころか世界中の人と離れながらも顔を見ながら会話できる。スマートじゃろ?スマートベルなんて名前はどうじゃ?わしは絶対作って見せるぞ」
「わしはイングリッシュはようわからん」
「中岡。大政奉還をなし得た今。どんな未来も想像し放題じゃ。明るう考えろ」
「未来か。未来とは明るい物ばっかりではなかろう?」
「ほうか。例えば?」
「コロリ(コレラ)の様な疫病がまた日本に蔓延するとか?」
「向こう150年は大丈夫じゃろう。似たような名前かもな。なーに。『疫病に効く薬』もわしが作っちゃる!これで未来の若者も安心ぜ。はっはっはー!たまるか!」
(この男は)
スマートベルの中の世界の掲示板。キャメラを使うた動画なる物の投稿で生活する者。カエルの卵のような食べ物タピオカ。銭さえあったらどんな人間でも天の先にも行ける乗り物。
中岡は龍馬の言う未来。そのどれもが全くピンと来なかった。だが龍馬の想像力に呆れながらも感心していた。
「そがな未来が来るとええな」言うのが精一杯やった。
「幸いにはわしは明治新政府には関係ない。近い内に世界を回って勉強する旅に出る。まさに世界の海援隊じゃ」
(うむ)
龍馬ならやるかもなと中岡は本気で思っている。
薩摩と長州を繋ぎ大政奉還という誰も成し遂げるどころか想像も出来ん事を龍馬はやってのけたのだから。
「わしらが生きちゅー間にスマートベルと万能薬をおんしに見しちゃる」
「待っとるわ」
(万能薬か。それがあったら高杉も死なんかったやろう。ふふ)
坂本龍馬が作る未来に中岡の胸も弾んだ。
丸窓の障子を開けて中岡は空を見た。何と美しい星空か。龍馬の言う未来が実現したら自分もあそこに行けるのかとしみじみ思う。
「うん?」
何やら一階が騒がしい。使いに出いた峰吉か思ったが、どうやら龍馬の用心棒の藤吉の声だ。
ぎゃあぎゃあとやかましい。
「おい。龍馬。われは家来の躾がなっちょらんな」
中岡が龍馬に言うと龍馬は照れ臭そうに頭をボリボリとかいておーいと呼び掛ける様に一階に向かって
「ほたえな!」言うた。
・
・
・
慶応3年11月15日(1867年12月10日)の出来事であった。