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5

 オワリは発言が終わるや否や「ひゃー」などとどことなくわざとらしい様子を醸し出しながら喚いて顔を抑える。

 一方シオンは言葉の通り「は?」といった様子である。


「……お前……本気か?」


「な、なななんですかその呆れた顔は! いいじゃないですか! 死刑囚にだって大切な人くらいはいますよ!! 今のシオンの顔は私のそんな限られた当たり前の権利を踏みにじる極悪非道な行いですよ!!」


「いや、だって……」


 オワリは死刑囚である。

 それも一刻も早く刑の執行を行うことを他でもないこの国の主たる国王が要求している極悪人である。

 どういう訳かオワリの刑の執行はことごとく失敗に終わるため、まだオワリは生きているわけだが、それでも、本当ならばとっくに死んでいてもなんらおかしくない、むしろそれが普通であるほどの大罪人である。

 そんな男が可能にも関わらず脱獄をしない理由。

 シオンはそれには何かしらの彼自身のための利益があるのだと踏んでいた。だというのにこの返答である。


 オワリの照れた表情を見るにそれが嘘とはシオンには思えない。つまりは真実。


 オワリという人間は。

 オワリという罪人は。

 オワリという国の歴史上でも最悪の事件を起こした大罪人は。

 オワリという血も涙もない冷血で残忍で醜悪な極悪人は。

 ――誰かのために自らの境遇を受け入れていた。


 オワリの言葉から、状況から、それをシオンは理解した。

 そして、思う。


「そんなのまるで……ただの人間じゃないか……」


 シオンはオワリに会うためにオワリを調べていた。

 調べれば調べるほどにオワリは人ではなかった。

 何か別次元に存在する得体のしれない化け物のようにすら見えた。


 だって、彼の行動はあまりにも狂っていたから。

 だって、彼の行動の結果はあまりにも残酷だったから。

 だって、彼の所業は到底信じることのできる類のものではなかったから。

 だって、彼は彼自身の存在がどう考えてもどれだけ考えてもどう考えなおしても、幻じみていたから。

 だからこそ……まるでただの人間かのような動機で動くオワリにシオンは怯えた。


「もぉ、話は全部上に出てから聞きますから早く行きましょうよぉ」


 現国王の息子、つまりは次期国王候補である王子を一人残らず虐殺し、そんな狂人の抹殺を試みた前ザハード家当主をも殺した歴代最凶の大罪人。他にも挙げだせばキリがない残酷な所業の数々。

 それらを全て、魔法が全てのこの世界において全く魔力を有しない圧倒的弱者の身で行った歴代最弱の大罪人。


「……あぁ、分かった。今行く」


 それは本当に外に出して大丈夫な存在なのか。

 そんな言葉にできない不安を抱えたまま、シオンはオワリの後に続いた。


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