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「……は?」
シオンは呆けた声を上げる。
「ほら、早く行きましょう」
呆けるシオンの横を通り過ぎ、そのまま数歩進んで振り返ってオワリはシオンに早く来るように促す。
それはあまりにも自然で、まるで成るべくしてそうなったかのような錯覚すら覚えさせた。
「…………いや。……待て。おかしいだろ」
「……?」
「だって……おかしいだろ? ……なんで、出ているんだよ。お前は牢の中で、僕はまだ牢を開けてなんか……」
「……あぁ。こんなところ、その気になればとっくの昔に抜け出ることは出来ていましたよ。そういうわけにもいかない理由があったからしなかっただけです」
懐から牢屋のものと思わしき鍵を取り出し、シオンは信じられないというように言葉を紡ぐ。
そして、それに対してやはり変わらぬ笑みを浮かべたまま何でもないことのようにオワリはそんなことを答えた。
「…………」
「……?」
シオンは思わず黙り込んだ。
理解の及ばないことが多すぎて脳が処理しきれなくなったからだ。そんなシオンを見てオワリはどうしたのかと首を傾げてみせる。
「……聞いていいか?」
「シオンはせっかちですね。話しますからまずはここを出ましょうよ。さすがの私もこんなろくに光も届かない所にはもううんざりしているんです。一秒でも早く太陽の光を浴びたいんですよ」
「違う。いや、それについても詳しく聞くけど、そうじゃなくて。……お前はなんでここに居たんだ? だって……これまでずっと出られるのに出られないふりをしていたってことだろ?」
「…………あぁ。そういう感じですか」
「……何が?」
聞きたいことは、聞くべきことは、聞かなければならないことは、それこそ両手両足の指だけでは数えきれないほどにあったのだ。
けれど、シオンが何よりも優先して聞いたのは極々個人的なオワリという一人の人間についての事だった。
オワリという罪人に関心が沸いたとかそういう話ではない。そんな個人の関心を任された仕事よりも優先するほどシオンという人間は不真面目にはなれない。
しかし、では一体なぜ他を差し置いてまでそれを聞いたのかと問われてみれば、それは本人ですら答えることができない。
シオン本人にすら自覚できない何かがシオンにそんな質問をさせた。
それを受け、少し考えるように黙り込み、二人の間に一定の静寂が流れたのち、何かに納得したかのようにオワリは一言呟いた。その声はどこか底知れない冷たさを帯びていて、それがシオンの問いかけをほんの少し迷わせる。
「あぁ、いえ、何でもないですよ。それでえっと、私がここを出なかった理由ですよね。まぁ、実際のところは出るわけにいかなかった理由と言った方が正しいような気もしますけど……」
しかし、そんなシオンの戸惑いを嘲笑うかのように次に返された声はこの一時間にも満たない時間の中でシオンが見てきたオワリと何ら変わらないそれだった。
「私は……そのですね……えっと……」
そして、言葉を続けるオワリ。
しかし、その様子はこれまでの会話でシオンが見てきたそれとはまったく違い、どこか言うことを躊躇うかのようなそれだった。
そんなオワリの様子にシオンは何かしらの秘密があるに違いないと確信に似た何かを覚え、聞き逃さないように耳を澄ませる。
「その…………実は…………どうしても守りたい子が居まして。それで……脱獄したらその子を殺すと脅されてしまったので。だから、大人しくしていたのです」
「…………は?」