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「……と、まぁこんな調子で私は師匠に教えを乞うたわけですね」


「なるほど。その師匠の教えでお前はこんな尋常じゃない強さにまでなったんだな」


「……それは……どうですかね? そうとも言えますし、そうでないとも言えます」


「……? どういうことだ? 魔法を使わない闘い方を教えて貰ったんじゃないのか?」


「いえまぁ……それはそうなんですけどね。…………でも、私には、ほんと笑ってしまうくらい全く人を殺す才能がなかったんです」


「……は?」


◇◆◇◆◇


 三ヶ月が経った。

 エンデは強かった。本職の限りではそもそも標的と真正面から向き合うことすらなかったが、仮に正面から向き合っての戦闘であったとしてもおそらく世界でも指折りの実力者だった。

 そして、そんな彼の教育はたしかに辛く厳しいものではあったが、決して理不尽なものではなかったし、自身の技術を伝える教師という点で見てもエンデは非常に優れていた。

 それが分かっていたからどれだけ厳しい鍛錬であったとしてもオワリは泣き言の一つも吐かずに、そんな時間すらもったいないとでも言うように懸命に鍛錬に打ち込んだ。


「……オワリ」


「はい師匠。なんでしょうか?」


「……なぜ、その距離で外すんだ?」


「どうしてでしょう?」


 しかし、努力が必ずとも身を結ぶとは限らない。どれだけ努力を重ねたとしてもうまくいかないことはある。どれだけ優れた指導者であったとしてもどうにもならない場合はある。


 人を見立てて作られた人形。それの人間でいうところの首にあたる部分には赤い印がつけられていた。そこを狙えということだ。そして、実際にナイフが刺さっていた箇所はそこから大きく逸れて腕にあたる部分。これが本物の人であれば当然傷は負わせられる。もちろん少なくないダメージを与えることができるだろう。だが、それではダメなのだ。エンデがオワリに教えているのは一瞬で、一撃で、確実に人を殺すための技術。それが止まった的相手に正面からナイフを振ってこのザマでは話にならない。魔法が使えないという無能の身において一撃で相手を殺すことに失敗するというのはそのあとに待つのは死だけであることを意味する。動かない的を相手にまともに狙った箇所に当てることのできないオワリではどうしようもないことは火を見るよりも明らかだった。


「……」


「……もっと努力すれば」


「いや、無駄だな。お前には致命的なまでに才能がない。……死ぬまで努力し続けても動かない的に当てるのが精一杯というところだ。……悪いことは言わない。もうやめておけ。なにも全てにおいて才能がないってわけじゃないんだ。例えば、表情を作ることや感情を表に出さないことに関しては鍛えればかなりのものになると思うぞ。だからそれを生かして人の心に入り込むような仕事を」


「それは嫌です。というか無理です。魔法が使えないってことがバレたらその時点で見下されます。そうなれば誰も俺の言葉に耳を貸したりはしません。下手なことをすれば殺されてしまうかもしれません。だから、俺にはこの世界で生きていけるだけの強さが絶対に必要なんです」


「……」


 ただ、人を殺すための力が欲しいと言うのなら、いくらでもオワリを説き伏せる言葉をエンデは持っていた。しかし、オワリにとってエンデが教える技術は仕事のための能力で収まるものではなかった。ここまでの数ヶ月、オワリはこの世界で生き、この世界を観察してきた。そして、どうあっても力は必要になると結論付けていた。オワリにとってエンデの教える技術は生きるために必ず必要なものだった。


 オワリの出した結論は概ねエンデにとっても異論の無いものだった。魔法が使えないならば生きていけないかと言うとそんなことはない。やり方次第ではうまく生きていくこともできるだろう。ただ、力がないということは常に危険が付きまとうということだ。長生きはできないかもしれない。それを知っていたからオワリの言葉にそれ以上何も言い返すことができなかった。


「とにかく、もっと頑張ってみます。じゃないと自分の命も守れませんから」


「……そうか」


 オワリは諦める気は毛頭なかった。諦めるということはすなわち毎日誰かに虐げられ殺されるかもしれない恐怖と共に生きていくことを意味しているからだ。

 とはいえ、エンデはオワリがどれだけ努力を積み重ねてもどうにもならないほどに才能がないことを理解していた。アドバイスや鍛錬のメニューどうこうでどうにかなるというものでないことも。それこそ、死ぬまで努力を積み重ねたとしても今のエンデの足元にも及ばない、それどころかそこらのチンピラにすら敵わないかもしれないということを理解していた。


 そして、だからこそ、迷っていた。そのどうしようもない決まりきった未来をどうにかする方法。それをオワリに教えてしまっていいものか。下手をすれば、彼を殺してしまいかねないそれをやってもいいものか。

 その苦悩が、どうにもならないと半ば理解しながらも努力し続ける道を選んだオワリを止めることを拒ませた。

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