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 無詠唱でサーチを発動してエンデは感知できないオワリにそのありえない仮説が正しいことを理解してしまった。

「…………ない、ですか」

 困惑を隠しきれない。もっと言えば自分の見たものが信じられない。それを隠しきれずに言葉を紡いだエンデとは対照的に、それを受けた本人であるオワリの反応は淡々としていた。

 そもそも、それがどれほど異常な事なのかすら分かっていないのだから、このオワリのこの反応も仕方がない。

「……そうだ。少ないとかではなくて、お前には全く魔力がないんだ。……こんな奴は初めて見た」

「……転移者だから、ですかね?」

「……分からない。だけど……これから先、お前は間違いなく苦労する」

「……」

「……」

 オワリとて魔法がこの世界でいかに需要家ということはこの数時間で十分理解していた。魔法が全てと言ってもいい程にこの世界は魔法によって成り立っている。

 そんな世界で魔力を持たないということが、魔法が使えないということが一体どんな意味を持つか。簡単に想像がついた。もしかすればその想像よりもよほど現実は酷いものなのかもしれないとすら思った。

 黙り込むオワリにいずれは言わなければいけなかったであろうこととはいえ、言うべきではなかったかもしれないとエンデは後悔した。しかし、もはや後の祭り。言ってしまったその言葉を覆すだけの何かをエンデは持っていなかった。

 嫌な沈黙が二人の間に流れた。

「……魔法が使えないなら、何か魔法が使えなくてもできることを探すしかないですね。言葉で言うほど簡単ではないと思いますけど」

「……っ」

 エンデは目を見開いた。

あらゆる面で魔法が全ての世界で魔法が使えない。そんな残酷な現実を知ってしまい、意気消沈しているものだとばかり思っていた。しかし、実際はどうだろうか。オワリはまるで落ち込んだ様子なんてものは全く見せず、考えるような様子を見せたのち、そんな前向きなことを呟いたのだ。

 魔法が使えないことを気にしていないわけではない。ただ、それを嘆いたところで何も始まらない。だったら、無いものを嘆いていないで今の自分にできることを探すべき。オワリはそういう人間だった。

「……そう、だな。とにかく、当分はこの世界に慣れるの待ちながらゆっくり考えよう。俺も手伝うからさ」

「ありがとうございます。なんか、面倒ばかりかけてしまってすみません」

「気にするなよ。同郷のよしみだ」

 本人が前を向こうとしているのにその周りの人間が勝手に同情してどうする。そんな風に自分に活を入れてエンデは前向きかつ現実的な提案を投げる。最後に自分も協力するというのを忘れないように付け加えて。

 ご飯を食べる。この世界の常識を聞く。お風呂に入る。

 そんなことをしているうちにあっという間に空は完全に暗くなり、よい子は眠る時間になった。

「今日は疲れたろ? そろそろ寝た方が良いんじゃないか? この世界の事なら明日にでも続きを教えてやるからさ」

「……そうですね。興奮しているせいかあんまり眠くはないですけど、たぶん体は疲れてるんだと思います。では、お言葉に甘えて」

 見知らぬ世界での初日。劇的な何かは特になかった。魔法が全ての世界において魔法を使えないというある意味衝撃的な事実はあったがそれだけ。

 元居た世界では体験できないような手に汗握る戦闘も初めて食べる味も特にないままオワリの異世界での初日は終わった。

 ……そうであればどれだけ良かったか。

 そんな話だったのなら、もしかすれば今のオワリはなかったのかもしれない。

 終わらない。オワリの異世界生活初日はこんなことでは終わらない。

 むしろここからが本番だった。

 オワリを救った異世界からの転生者、エンデ・ルワード。


 彼は、人殺しを生業としていた。それも並の暗殺者ではない。


 国王が作った表向きには存在しない部隊の隊長。それがエンデ・ルワードという男の正体だった。

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