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「魔力、ですか」


 顎に手をやりオワリは考える。考えると言えるほどに材料はないためほとんど既存の知識から導き出される憶測でしかないわけだが、そこからおそらく魔力とは魔法を使うために消費する人間の体内に存在する燃料のような物なのだろうと推測した。


「そう、魔力だ。詠唱によって体内の魔力を放出することによって魔法は発動する。魔力はそのための燃料だな」


「……試しに何か魔法を使ってみて良いですか?」


 自分の考えがおおむね間違っていなかった。それを理解したのなら次は実践。とはいえ、オワリは魔法に必要な要素である詠唱を何一つ知らない。

 だから、簡単な魔法の詠唱を教えてほしいという意味をのせてオワリはエンデにそう尋ねた。


「あぁ、いいぞ。そうだな……最初はサーチ辺りが妥当か。変に攻撃魔法を教えて家を消し飛ばされたらたまったもんじゃないしな」


「サーチ?」


「簡単に言うと自分の周りにいる魔力を持った存在を感知することができる魔法だな。視界と違って死角がないから隠れてる奴を見つけたり、奇襲を防ぐのに使える」


「……なるほど」


 エンデの説明に納得したというようにこくりこくりとオワリは二度頷く。


「詠唱は……ほら、もうこの魔導書、俺は使わないからやるよ」


「……ありがとうございます」


 詠唱は何か。それを口にしようとしたエンデだったが、何かを思い出したかのように振り返り本棚を漁ると一冊の辞書のように太い本をオワリに投げ渡した。

 それに礼を言いつつも口頭で教えてくれればいいのにと思ったオワリだったが、その考えがいかに馬鹿げたものだったのか開いた魔導書の中身に理解した。とても一度聞いただけでは覚えられそうにない複雑さと長さが詠唱にはあったのだ。


「では……」


 とはいえ、決して発音が難しいとか詠めないといったようなことがあるわけではない。魔導書に目をやりながらゆっくりではあるもののオワリは詠唱をただの一度も噛むことも詰まることもなく終えた。


 そしてその結果――何も起こらなかった。


「……あれ?」


「……」


 オワリは魔導書を見直した。何か自分が詠唱を間違えたのではないかと考えたからだ。

 しかし、何度読み直しても少なくともオワリの気付く範囲では読み間違えたと思える箇所は一つも見つからなかった。


「あの、エンデさん。今の俺の詠唱何か間違っていましたか?」


「……っ」


 オワリはこの問題は自分一人で解決するのは無理だと結論付けた。そして、この問題に関しての解決法を知っていそうな男に助言を求める。

 しかし、向けられた言葉にエンデが答えることは無い。ただ、黙って何かを考えるような仕草を見せるだけ。


「……」


「……」


 二人の間に沈黙が流れる。オワリとしてはこの世界の先輩であるエンデの助言を早く仰ぎたいところではあったが、その本人が何かを考えているようなので、その邪魔をするわけにはいかない。だから、黙ってエンデが口を開くのを待つしかなかった。


「…………そうだな」


 おそらく一分も経っていない。しかし、オワリの体感という意味ではそれなりに長い時間が過ぎた頃、エンデがそう切り出した。

 その声にはどこか迷いのようなものが滲んでいた。


「まず、お前の質問に答えると、詠唱には何一つ問題はない」


「……けど、何も起きませんでしたよ?」


「あぁ、そうだ。何も起きなかった、みたいだな。こんなことは初めてだ。文字が読めて言葉を発することができれば誰だって魔法は使える。それこそ喋ることを覚えて間もない子供でもな。……でも、お前の詠唱で魔法は発動しなかった」


 詠唱に問題はない。それは魔法を使い慣れたエンデにとってはわざわざ改めて魔導書を見返すまでもなく明白な事実だった。そして、そうであれば何も問題なく魔法は発動するはずだった。

サーチは使っている個人以外にはその魔法を使っているかどうかが分かりにくい魔法だ。ゆえにエンデは魔法に関しては問題なく発動していて、そのうえで自分の目には何も起きていないように見えるだけだと思っていた。


 しかし、そんなエンデの考えと現実は大きく異なっていた。

 詠唱を終えると困惑するような表情をオワリが見せた。初めての魔法に戸惑っているのだと思った。しかし、オワリは続けてこう言ったのだ。今の俺の詠唱何か間違っていましたか?と。まるで魔法が発動していないとでも言うように。

 ふざけているわけでないというのは表情を見れば分かった。本気でオワリにとって何も起きていないのだということも分かった。


 なぜか。なぜ、そんなことになったのか。オワリの詠唱に誤りがあったのだろうか。振り返り、それを否定する。間違いなく、一言の狂いもなくオワリの詠唱は正確だった。にも関わらず魔法が発動しない。

そんなことはありえない。ありえないが目の前でそれは確かに起こった。

 エンデは考えた。通常ありえないであろう出来事が起こる可能性を。

 考え、考え尽くして、そして一つの仮説に辿り着いた。その仮説だって十分にあり得ないことではあるのだが、それ以外の可能性は考えられなかった。


「……オワリ、お前には魔力がない」

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