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「ま、そう落ち込むなよ。この世界だって住んでみればそう悪いもんじゃない。すぐに良さが分かると思うぞ?」


「……いや、別に落ち込んではいないんですけどね。なんというか……本当にわけの分からないことに巻きこまれてしまったんだなって……」


 王都から少し離れた場所に建てられた一軒家。

エンデの家らしいそこでオワリは頭を抱える。今更と言ってしまえば今更な話ではあるが、訳の分からなさの度合いが違った。

 家を出たら森に居た。これも十分わけが分からない出来事だが、家を出たら元居た世界とは違う世界に居たのと比べればどう考えても後者の方がよっぽどわけが分からない。


 しかし、そのわけの分からないことはたしかに起こったのだ。

 頭では理解していても心は残念ながらそれに追いつかない。


「……頑張って、慣れるしかないですね」


「こればっかりは俺にはどうにもしてやれないからな」


「いえ、ここまで面倒見ていただいているだけでも十分ありがたいです」


「気にするな。俺も一人暮らしに飽きてきたところだったからな」


 とはいえ、心が追い付かないなんて泣き言は言っていられない。

 そう心を入れ替え軽く自分の頬を両手で叩くと自分に言い聞かせるかのようにオワリはそう口にする。


「……さて、それじゃあ魔法の説明でもするか」


「あぁ……たしかにこの世界で生きていくなら必要そうですね」


「この世界は魔法が全てと言ってもいいくらいに魔法が重要だぞ。」


「この文明レベルを見るに魔法が使えないと生きていくだけでも苦労しそうですね」


 森を出て、町を出て、この世界を見て。元居た世界とこの世界では文明のレベルに酷く差があるとオワリは理解していた。そして、その差を『魔法』によって埋めているのだろうということも。

 それらをふまえてオワリはエンデに言葉を返す。


「ま、そういうことだ。最悪魔法の才能が無くても使い捨ての魔法具を買えばそれで足りない分は補える。だが、それを買おうと思うと金が必要だ。そして、そのための金を稼ぐためには働かないといけない。働ける仕事を探すためには魔法が使えないと苦労する。要するに結局は魔法ありきだ」


 オワリの言葉に同意するように頷くとエンデはそう続けた。


「でだ、そんなこの世界で生きていくうえでめちゃくちゃ大事な魔法なわけだが、こいつを使うには絶対に必要なものが二つある」


「はい」


「一つは詠唱。魔法を発動させるための合言葉みたいなものだ。魔導書が手元にあるならそれを詠めばいいわけだが、いつもあんなごつい本持ち歩くのは邪魔だからな。基本的に覚える必要がある」


「詠唱……。さっき俺に魔法を見せた時、そんなのしてましたっけ?」


「俺レベルになると簡単な魔法なら『無詠唱』、つまりは詠唱無しでも使えるんだよなこれが」


「なるほど。転生者の補正ってやつですか」


「……否定はしない。ま、他にも色々あるけどな。努力なしではどうにもならないものだってある」


 詠唱。それが具体的にどんなものなのかオワリは見たわけでないので知識としてしか知らない。

 しかし、それでも大体それがどんなものなのかということは予想がついていた。むしろ問題となるのは詠唱によって引き起こされる結果。これに関しては森の中でエンデに実演して見せて貰っているので何となくは理解していた。


 だからこそ、エンデが少し自慢げに『無詠唱』と口にしても「あぁ、そうなんだ」といった程度の反応しか示すこともなかった。


「それで、もう一つの必要なものは?」


 むしろオワリにとって今必要となる情報はエンデの言った二つの必要なものの片割れについての話。

 無詠唱という技術やそれに必要なものについても気にならないわけではなかったが、どのみち今の自分には不可能であることは手に取るように分かっていた。

 この世界で生きていくためにはどちらの話を優先して聞くべきか。オワリはそれを理解していた。


「……あぁ、そうだな。魔法を使う上で必要な要素の一つは詠唱、そして、もう一つは……魔力だ」


 一方、エンデはオワリがもう少し無詠唱というものに喰いつくと思っていた。自分が同じ立場だったら間違いなく喰いついてあれこれ聞き出そうとするだろうという自信があったからだ。


 事実、エンデは幼少期、前世でこういった魔法が日常に存在するファンタジー世界への憧れが強かったことも手伝い、その好奇心に任せて幾度となく無茶をしたことだってある。そんな彼であったからこそ、同じく異界から突然この世界に来てしまったオワリならば、この世界に転生した頃の自分と同じようにあらゆる魔法や文化に興味を持つに違いないと思っていた。

 それがこの淡白な反応である。これまで出会って来た転生者が揃いも揃って自分と同じようにこの世界について興味津々だったこともあり、それと比較するとあまりにも淡白な反応にエンデは拍子抜けした。


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