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「……分かっただと? 僕はまだ話の半分も終わらせてはいないのに?」
「えぇ、まぁ、はい」
言葉の通り、シオンの話にはまだまだ続きがあった。
ここまでの話は話のメインですらなく、これからメインに入っていこうというところでしかなかった。
だというのに、オワリはもう大丈夫だと言ってのけた。これ以上の説明は必要ないと。
一を聞いて十を知る。なんて言葉があるが、実際のところその多くは一を聞いて十を知った気になっているに過ぎない。全く違う解釈をしてしまうことだって起こり得る。
今回のオワリは一を聞いてというほどに少ない情報ではなかったものの、それでも三を聞いて十を知ったと言っているようなもの。
そんなことが本当に可能なのか?
そんな疑問がシオンに意図せず疑うような態度をとらせる。
「……僕がこれから話そうとしていたのは。……ザハード家の僕ですらこれまで知らされていなかったようなこの国の秘密だ。だというのに、お前はそれを聞かずに僕の話を理解しきったと言うつもりか?」
国家機密。
朝起きて、働き、食事をとり、夜になったら寝る。そんな生活を送っているただの国民には決して知り得ないであろう秘匿された情報。
それもこの国の支配者たる王族と近い距離にあるザハード家のシオンにすら知らされていなかった情報。それはこれまでにそのことを知っていた者が王族以外にはほとんど存在しなかったということを意味している。
それもまたシオンにとってオワリが全てを理解したということに納得がいかない要因になっていた。ザハード家の者ですらないオワリがそれを知っているとはとても思えなかったから。
「……人間に魔族の心臓を移植して作る魔人。大方、今回の戦争での戦力不足を解消するためにその研究の結果を急いだ結果、失敗してそいつらが暴走したとでもいうところでしょう。そして、失敗作である魔人たちの駆除のために私に声を掛けた。まぁ、もっとも私に限らず国にとって死んでも何ら問題のない死刑囚には自由を餌に同じ話を今頃持ち掛けている頃でしょうかね?」
「……っ!? なぜ……お前がそんなことを……?」
だから、口を開いたオワリのこれからシオンがするはずだった説明と寸分違わぬ推測に驚きを隠せず目を見開く。
「やはりそうでしたか。いやぁ、でもあっていてよかったです。あれだけ自信ありげに「大体は理解できましたから」なんて言っておいて全くの的外れだったら当分はこの汚い牢の中で顔を真っ赤にして寝転がってジタバタする羽目になるところでしたからね。「いっそ殺せ~」とか言いながら」
シオンにとっては信じられない事態。
しかし、オワリの様子は何ら変わりなく、大したことではないとでもいった風。強いて言うのなら自分の推測が正しかったことに多少の安堵は見せているもののそれ以上は何もない。
それはいっそうシオンを困惑させた。
「お、前は……一体それをどこで知った? お前の話しぶりは僕のように数時間前に知ったとかそういう類のものじゃない。もっと早くから、まるでずっと前から知っていたような、そんな言い方だ。……一体いつどこでどうやってそれを知った?」
シオンは一歩進み、鉄格子に手をかけてそう尋ねた。そう尋ねなければならないと思った。
「それを説明しようと思うと私は私の事を一から十まで説明しなければならなくなってしまいます。……まぁ、シオンがそれを望むというのなら私にそれを拒否する理由もないわけですが。……話の続きはひとまず外でということにしませんか?」
鍵が外れた。
ガチャリと音を立て地面に落ちて騒々しい金属音を奏でた。
錆び付いた音を立てながら固く閉ざされていたはずの牢は解放された。