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「さて、シオン。そうは言ってもこれまで魔力や体力の節約なんてものは考えたことのなかった人に口で説明したところで理解はできても行動にはなかなか移せないものです」
そんなシオンの思いを察してかオワリは口を開く。
「正直、今のままではここから先はお荷物になりそうだなーなんて思っています」
続けたオワリの言葉にシオンは少し身を震わせる。
まるで足手まといだとでも言うような物言い。それでもたしかにその通りでシオンは感情に任せて怒ることもできないくらいには追い込まれる。
劣等感とは恐ろしいものだ。
とりわけそれとは縁遠い人生を送ってきた者ほどそれに襲われた時、対処を知らず引き込まれる。
今のシオンがまさにそれだった。
兄弟内で劣等感を感じることこそあれど、これまでザハード家以外のものに何かが劣っていると感じたことなど一度もなく、当然それを言語化されるようなこともなかった。
そんな彼であったからこそ、劣等感は彼を引きずり込む。誇りを砕き、闘争心すら奪うような冷たい闇の中へ。
「ま、私としてはこのまま私がシオンを守り続けるというのでも全然構わないのですけど……せっかくですからこの場で学習してください」
「……え?」
続けたオワリの言葉はそこからシオンを引きずり出した。
「なにアホみたいな顔しているんですか。しっかりしてくださいよ」
そして、呆けた顔を見せるシオンを一喝すると地面を蹴り跳躍、そのまま壁を足場代わりに蹴り出して更に上空を駆ける。
「せっかく手本を見せるのにうってつけの材料が揃っているんですから」
そして、軽やかに着地を決めると眼前に立つ男を見やり笑みを浮かべてそう言った。
「…………これは、どういう……」
「見た通りの意味ですよ。魔人に、それも失敗作にサーチから姿を隠す能力なんてありません。つまり考えられるのは相手がこれまでに出会ったのとは全く違う完成形に近い魔人、もしくは……そもそも魔人ではない、という可能性です」
眼前に広がる光景。
それを前にシオンは困惑した声をあげる。
理解できなかった。
目の前に広がる光景をシオンは理解できなかった。
けれども理解していた。
目に焼き付いたその光景はこれ以上ないほどに分かりやすくシオンに現実を理解させていた。
それでもなお理解できない。理解したくない。
そんな我儘は許されない。許さない。
目を背けることは許されない。
それを示すようにオワリの言葉がシオンを現実へと引き戻す。
淡々と、己の推測を事実であるかのように話すオワリの言葉にはどういう訳か重みがあった。
ただの憶測にすぎないと笑い飛ばせない気迫があった。
そしてなにより、シオン自身気付いてしまっていた。
自身に殺意を向けた者が、自分の兄であることを。