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「サーチには、反応なんて……今だってこの近くには誰も……」


 何でもないように変わらぬ態度でどうでもよさそうに呟くオワリとは対照的にシオンは動揺を露わにする。


「ほらほら、シオン。ボーっとしてないで動きますよ。こんなところで立ち止まっていたらいい的ですからね」


「……おかしい。おかしいんだよ! だって、サーチには何も……」


「はいはい。分かりましたから。とにかく動きますよ」


「あっ、ちょ、おまっ、離せよ!」


「はいはい、そうですねー」


 そんなシオンを動くように促すオワリ。

 それでも動こうとせず何かを訴えようとするシオンをため息交じりでオワリは米俵でも担ぐように担ぎ上げる。


 そして、そんなオワリの行動に不服を唱えるシオンの言葉を適当にいなしてオワリは駆けた。


「……右、前方すぐ。……そのおよそ三秒後に全方位。あー、やだやだ。面倒くさいですねぇ」


 右へと降り注いだ衝撃の余波を避けるために一歩左にオワリは跳ぶ。

 そして、その直後前方に落とされた攻撃が落ちるよりも一瞬早く速度を上げたオワリは通り過ぎる。

 ちらりと後ろを振り返ると本来オワリが居たであろう場所は逃げ道一つ残さないとでも意思表示するかのように徹底的に破壊され尽くしていた。


「こんな攻撃、いくら撃たれたところで一生当たる気はしませんが……さすがに防戦一方というのは気分が悪いですね」


「お、おい! 早く降ろせよ!」


「暴れないでくださいって」


「だから降ろせ!」


「今降ろしたら一瞬で骨まで蒸発しちゃいますよ?」


「僕を舐めるな! このくらい魔法障壁を展開して防げば」


「それはやめておいた方が良いと思いますよ」


 全方位。逃げ場のない攻撃。避けようのない攻撃を心底鬱陶しそうに僅かに攻撃の存在しない地点を通過して躱しながらオワリはシオンの言葉を否定する。


 魔法障壁。

 シオンの口にしたその単語は決してその魔法の正式な名称ではない。サーチと同じように世間一般でそう呼ばれているというだけのものだ。


 その正式名称が一体どんなものだったか。何か長ったらしいものだったという程度にはオワリはそれのことを覚えているがそれでもその程度にしか覚えていない。

 重要なのは魔法の持つ効果、名前に意味などない。そう言ってしまえばそれまでの話ではあるもののシオンが口にした魔法に少しばかり自身の知識の欠如を反省した。

 とはいえ、その魔法の効果まで忘れるほどオワリは落ちぶれていない。

 ありとあらゆる衝撃から術者を守る魔法。とりわけ魔法による衝撃には何よりも効果的に術者を守る魔法。原理は例によって解明されていない。障壁なんて形容されているがほんとのところそれは壁なのかすら判明してはいない。


 しかし、たしかにそれはそこにあって術者を守る。

 今行われている攻撃は確かに疑うべくもなく魔法によって引き起こされているものでそれに対しての対処として魔法障壁はおおよそ正しい対応だ。

それもサーチと同じように術者の魔力に応じてその強度を変えるそれをザハード家のシオンが使えばあらゆる魔法は通用しない。

 それでも、それを理解したうえでオワリはシオンの提案を否定した。


「シオンはいったいこれがどういう類の攻撃か分かっていますか? ちなみに私には分かっていません。もしかしたら炎とかそういう類のものかもしれませんし、風とかかもしれません。どちらにせよ当たったらあの床みたいになるのは間違いないですけどね」


「それがどうした!? 僕の魔法障壁は……!」


「シオンの魔法障壁が凄く優れたものだとして、この攻撃があらゆる防御手段を無視して攻撃を通すような魔法だったらどうするつもりですか? 私はあまり魔法に聡いとは自分のことを評価できませんが、少なくとも正体の分からない魔法は避けるに限るのではないですか?」


「……」


 魔法は深い。

 オワリが知っている魔法だけでも何千種類と存在している。

 似たような効果を持つ魔法も数多く存在するがどれをとっても全く同じ魔法というのは存在しない。どの魔法にも詠唱の長さであったり魔力の消費量であったり威力の程度であったりと一長一短は必ず存在している。


 ゆえに魔法は底が知れない。全ての魔法を知り尽くした者などきっといない。そもそも魔法に全てという概念があるのかすら怪しい。

 オワリは魔法が使えない。


 だからこそ、それの持つ力と可能性に憧れ恐怖し評価している。

 そんな彼が正体の分からない魔法を対策は取っているとはいえ受けることをよしとするはずもなかった。

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