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「……お前が、ヒイラギ・オワリだな?」


 硬く冷たい石と鉄でできた牢。

 薄暗く汚いその場所には不釣り合いにも思える光を錯覚するほどに明るい金髪に知的な色を宿す碧眼の持ち主。それが皺ひとつ見当たらない整えられた衣装に身を包み、牢に向かって問いかけた。問いかけた、というのは少しばかり語弊があるかもしれない。知っていた。知っていてそうやって言葉を紡いだ。だから、それはどちらかと言えば確認と受け取った方がいいのだろう。


「…………おや。……これはまた、随分と若いお客さんですね。そうですよ。私の名前はひいらぎおわり。木へんに冬と書いて柊。糸へんにまた冬と書いて終。合わせて読んで柊終。……と、まぁ、こんな事をこの世界の住人に説明したところで何ら理解は得られないのですけどね」

 牢の中から響いた声は少年のような若さに富んだ声のようにも聞こえ、同時に渋みを帯びた成熟した大人じみた声のようにも聞こえる。それどころか慈しみに富んだ女の声のようにも聞こえれば、それと同時に力を帯びた男の声のようにも聞こえる。

大人か子供か。女か男か。牢の前に立つ人物は少なくともそれを耳で判断することはできなかった。

「……僕の名は、シオン。シオン・ザハードだ」

 しかし、シオンにとって対話の相手が子供か大人か。女か男か。そんなことをいちいち耳で判断する必要はどこにもなかった。

 なにしろこの時の為にオワリという罪人について嫌というほどに調べていたから。

だから、オワリが男であり、自分より一回り年上であり、中性的な美しい顔立ちであり、これから先、永遠に国の歴史に名を刻むことになる最凶最悪の死刑囚であることをシオンはよくよく理解していた。

「…………へぇ。ザハード家の方でしたか。しかし、だとすればおかしいですね。私の記憶の限りでは、ザハード家と言えば最強の魔眼を生まれながらにして持つ一族だったと思うのですが……一体全体、その眼帯はなんですか?」

 ザハード家。

 かつて異世界よりこの世界に来訪し、魔法が全てのこの世界において神に与えられた他を圧倒する絶大な力を用いて誰も幸せになることのできない戦乱から世界を救った伝説の英雄の末裔。

 数えきれないほどの年月を経た今もなお、その力は衰えることを知らずに受け継がれている。

もはや同じ種族なのか疑わしいほどに豊富な魔力。

あらゆる魔法を特別な訓練すらすることなくほとんど初めから使いこなす圧倒的な魔法に対してのセンス。その才覚は魔法だけにとどまらず、容姿から身体能力に至るまで死角はない。挙げだせばその血統の優秀さにはキリがない。

しかし、ザハード家の優秀さについて説明する場合において最も具体例に挙げられるのはやはり『魔眼』である。

ザハード家の者は皆その右目に金色に輝く魔眼を持っている。

その目の力が使われることはそれ以外の彼らの優秀さも手伝いほとんど起こり得ない。

しかし、それでも魔眼はザハード家への畏怖と尊敬の象徴であった。ザハード家を知る者は同時に知っているのだ。その目を使う時、相対した者に「死」以外の未来が存在しないことを。

凡人には何が起きたのかも理解できない。分かるのは敵対した者の死という結果だけ。

結果、誰もがその目を恐れ、そして崇拝する。

だからこそ、オワリはそれだけの力を秘めているはずの魔眼をまるで隠すようにしているシオンに尋ねた。

一体、どうしてそれが存在するだけで敬われるには十分な魔眼を隠しているのかと。

おそらくそうなのだろうと予想をつけておきながらそう尋ねた。

「……お前に、教える義理はない」

「……あらら」

 松明の火が照らす通路ですら薄暗い。それよりもなお暗い牢の中で光が二つ灯る。その正体はオワリが気だるげに開いた目。

光と呼ぶにはあまりにもか弱く冷たい、闇そのもののような底なしの暗さを持ったそれにほんの一瞬シオンはたじろぎ右目に着けた眼帯に触れた。

「……僕が今日、お前に会いに来たのには理由がある」

「でしょうね。そうでもなかったら誰が好き好んでこんな罪人に会いに来るのやら」

 シオンの仕草に薄く笑みを浮かべたもののそれ以上オワリが何かを言うことは無い。そのことに内心ほっとしながら、シオンは逸れた話を本題へと戻そうと試みた。

 そんなシオンの気持ちを知ってか知らでかオワリは少しばかりオーバーな身振り手振りを交えてシオンの言葉に同意を示す。

 その手足はすでに鎖から解放されていた。


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