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最凶最弱の転生者  作者: 日暮キルハ


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「こっちのことには気付かれていますかね?」


「分からない。けど……そもそも魔人に知能なんてあるのか?」


「一応は人間をベースに作っていますからね。囲んで嬲り殺しにする知能くらいはありますよ」


「それは勘弁してほしいな。……来るぞ」


 オワリのこのタイミングにおいてはあまり喜ばしいとは言えない追加情報にシオンは頬を引きつらせる。

 そして、魔人の接近を告げる。


 次の瞬間、それは姿を見せた。

 魔『人』なんて言ってはいるが、それは本当に人から生まれた者なのか。そんな疑問をこの状況においてシオンに抱かせるほどにそれは異形の生命だった。


 まず、頭の数からしておかしかった。人に限らず多くの生物は頭が一つしか存在しない。

 しかし、魔人には大小二つの頭があった。中には三つの頭を持つ者もいた。

 そして、全ての頭にまるで魔族のように角が生えていた。目は白目と黒目が逆転しており、耳はとんがっている。肌は浅黒く、爬虫類を思わせるような鱗に覆われていた。


 人間とは似ても似つかない異形の怪物。

 しかし、そこまで人とは離れた存在にも関わらず、その生物を他の生物と見比べた時、それがもっとも近い存在はやはり人間だった。主のパーツが人間のそれだったからだろう。

 人間のパーツを寄せ集めて、その中に他の種族のパーツが不純物として混じったような、そんな怪物。

 おそらく、誰が見ても好意的な感情を抱かないであろうそれが周囲を取り囲んでいた。


「こうなってしまえば『サーチ』って役に立つのか疑問ですよね」


「……仕方ないだろ。反応が多すぎたんだよ」


 周囲には十体ほどの魔人。頭で数えるのか体で数えるのかで多少の数の増減はあるもののどちらにせよ数の不利は変わらない。

 そんな状況で余裕ありげにそんな皮肉めいたことを言うオワリに言い訳でもするかのようにシオンが反論する。


「……来ますよ。動かないでくださいね」


「×××××!!」


 オワリが呟いた次の瞬間、魔人たちは示し合わせたかのように聞き取ることもできない奇声をあげて襲い掛かった。


「考えながら闘ってくれるタイプの方が個人的には殺りやすいんですけどね」


 魔人の首から紫色の液体が噴き出した。

 袋に水をパンパンになるまで詰め込んで、袋を何か先の尖ったもので突いて破けば水が勢いよく飛びだす。

 それと同じにするにはどう考えても物が違いすぎるが、目の前に広がる光景にシオンが真っ先に思い浮かんだのはそれだった。

 ゆっくりと倒れていく魔人にようやくシオンは魔人の首から噴き出したものが血だったのだと思い知る。


「……」


「さ、行きましょうか」


「……囲まれると厄介とか言ってなかったか?」


「あれは囲まれたとは言いませんよ。殺しても殺しても肉の壁があるようなのを囲まれたって言うんです。それに、あれは魔人とは言っても出来損ないみたいなものですからね。失敗作ならどうとでもなりますよ」


「……そうか」


 オワリの両手に握られた短刀。それに付着した紫色の液体。今も魔人の死骸から流れている紫色の液体。

 それが無ければシオン現実から目を逸らしていたかもしれない。

 魔力を持たない最弱の人間が、最強と名高い一族の一員が認識することもできない速さと正確さで魔人を全滅させた。気付けば死んでいた。


 魔人が弱いのではないか。そんな錯覚を覚えるほどに一瞬の決着だった。


 それが間違った認識だということをシオンはよく分かっている。今なお研究所のあちこちに存在する魔人。それらから感じる魔力はたしかに強力で、シオンであっても複数体を一度に相手するのは避けたい相手に違いない。


 それをオワリは瞬きの間に目の届く範囲にいる全てを殺し尽くしたのだ。それもまるで弱点を知っているかのように一撃で。

 オワリは魔力を持たない弱者。それそのものがもはや疑わしい。


 しかし、それは真実だ。

 シオンは信じられないそれを信じるしかない。

 この距離で『サーチ』は、魔力を有するあらゆる存在を感知するその魔法は――すぐ隣にいるオワリを見つけることが出来ていないのだから。


「はぁ。にしても曲がりなりにも魔人ってだけはあってほんと硬いです。腕がしびれちゃいますよ」


 オワリが空中に投げたナイフが重力に従い寸分違わずバッグへと落ちる。

 その結果、空になった左手で右腕を揉むようにしながらそんなことを言った。


「……」


 圧倒的強者にはこれまで数多く出会って来た。

 なぜなら、自分の兄や姉たちがそれだったから。

 しかし、そのどれともオワリの強さは違っていた。

 底の見えない何か。油断をすれば誰であっても彼には勝てないのではないかと思わせる何か。

 オワリと出会って初めてシオンは知った。

 理解できないことは非常に恐ろしいことなのだと。


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