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「大体、考えてみてくださいよシオン。仲の良い姉弟のコミュニケーションに他人が入り込むなんて無粋以外の何でもないじゃないですか」
「お前にはあれがコミュニケーションに見えたのか? どこからどう見ても捕食者が非捕食者に喰らいついているシチュエーションだっただろ」
「酷い言い様ですね」
嫌だ嫌だとは言いつつも、本気で突き放すようなことはしていない辺り、本人も言葉にするほど嫌がっているわけではないのだろう。
オワリはシオンの表情や態度からそれを推測する。
そしてそのうえで、だったらもっとうまく距離感を保てばいいのにと両者に対して軽く呆れた。
「では、皆さんが入れるようにバリケードに最低限の穴を開けさせていただきます。魔人がバリケードを破ろうとする恐れがありますのでできる限り早く研究所内に入っていただくようお願い致します」
などと生産性のない会話を二人でやっているうちに研究所前に到着した。案内役の男がもう何度も聞かされた説明を繰り返す。
「さて、それじゃあお仕事開始ですね。さくっと終わらせて帰りましょうか」
「簡単に言うなよ。相手の質も量も分かったものじゃないんだ。気を引き締めておかないと入った瞬間に殺されたっておかしくない」
「いいんですよ、シオン。こういう時こそテキトーなくらいでちょうどいい。命の危機は勝手に体を緊張状態に運んでくれる。むしろ過度な緊張はパフォーマンスを低下させることになるんだからこれくらいテキトーで充分なんです」
「…………それも、一理あるのかもしれないが」
「もー、シオンは心配性ですね。そんなに心配なら掌に人って書いて食べたらいいじゃないですか」
「それは何か違うだろ。そもそも僕はそういう迷信じみたものは信じない」
「面倒くさい人ですね。怖がりなんだから大人しく迷信に縋ればいいのに。というか私からしてみれば魔法も迷信みたいなものなんですけどね」
「んなっ!? 誰が臆病者だ! 僕はザハード家だぞ!」
「はいはい、誇り高きザハード家ですもんねぇ。ほら、行きますよ。あんまりのんびりしていると出遅れちゃいますからね」
「あ、おい待て! 今の言い方には悪意があったぞ! 取り消せよ! 今の言葉!」
「これから命かけるのに敗北者ムーブやめてくださいよ……」
バリケードに開けられた人間一人が入るのが限界に見える穴。
そこからぞろぞろと死刑囚と監視役が入って行く。
バリケードを開いた男にとってはお世辞にも大きいと言えないその穴でも十分に危機を感じる対象になり得るのか顔色が優れない。
オワリはシオンと会話をしながらそんなことを観察して考える。
「シオン様。こちらがシオン様専用のお荷物になります。そしてオワリ様。こちらが貴方用のお荷物になります。どちらの荷物にも食料や着替えなどの生活用品、その他にお二人が得意とする武器が入っています」
「これはこれはどうもご丁寧に。聞きましたか、シオン。死刑囚に対して様付けで名前を呼ぶなんて善い人じゃあないですか」
「こんな奴に敬称なんていらないぞ」
「むっ……」
「いえ、そういう訳にはいきません。外ではどうあれ、少なくともこのままバリケードの見張りをし続けていつかは魔人に殺されていたであろう私にとっては、この場に居る皆様は生きる希望ですから」
「…………っ」
「……」
見張りの言葉にシオンは言葉に詰まる。
そして、それを隠そうとするように一度息を吸う。
そんな彼の様子をオワリは見ていた。
「……そうか。……行くぞ。オワリ」
「はい」
シオンはおそらく実戦経験が乏しい。もしくはこれまで圧倒的な格下としか闘ったことがない。そんなことをオワリはこれまでのシオンの言動から分析していた。
だからこそ、研究所内ではシオンは戦力として数えるわけにはいかないと考えていた。
おそらくこれから中で起こるであろうことに肉体ではなく精神が先に悲鳴をあげてしまうだろうから。
だから、ひたすらにシオンを守り通さなければならない。そう考えていた。
けれどもその判断は早計だったのかもしれない。そんなことを思いながらオワリはシオンのあとに続いて穴をくぐる。




