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「……あの、姉様」
「……」
「……あの、姉さ」
「お姉ちゃん、でしょ?」
「……お姉ちゃん」
「どうしたの、シオン?」
「いえ、その……お姉ちゃんは案内役なわけですよね?」
「えぇ、そうよ。それがどうかしたの?」
「だったら、もう少し前を歩いた方が良いのでは……?」
「お姉ちゃんに口答え?」
「ごめんなさい」
「お姉ちゃんの言うことは?」
「絶対です」
「洗脳の見本市ですか?」
王城の一室を出てから数分。
ひたすら進み、また別の部屋の中に。その部屋はまるで広大な迷路のようになっていた。そこからは道なき道を右へ左へと方向感覚が狂うほどに歩く。
その過程で気付けば案内役だったはずのローラはシオンとオワリの間に入り込み、べったりとシオンにくっついていた。
「それにしても……仲がいいですね」
「えへへ~、やっぱりそう見える? 私とシオンは兄弟姉妹の中でも一番の仲良しだからねー」
「羨ましいですね。私には兄弟なんて居ませんでしたから。もし、シオンみたいな弟がいたらそれはもう可愛がっていたでしょうね」
「…………君」
「……?」
ワントーン下がるローラの声。
何か失言をしただろうかと考えてはみたものの特に何も浮かばずオワリは首を傾げる。
「よく分かってるね! そう! シオンは世界で一番可愛いんだよ!」
首を傾げたオワリにサムズアップでローラはそう言ってのけた。
ほんの少し身構えていたこともあり、オワリは何事もないことに安堵する。
魔法の使えないオワリとしては無駄な体力の消費は避けたい。
相手がザハード家の精鋭ともなればなおのことだった。
下手すれば体力どころか命を持っていかれかねない。
「姉様……お願いですからもうやめて……」
そんなオワリの考えはともかく。
オワリとローラの会話に穴があったら入りたいとでも言うように顔を抑えシオンは呻く。
「シオンはねぇ、ほんとに可愛いんだよ!」
「そうですね。恰好が恰好だったら今頃勘違いしているところでした」
「もちろん見た目もなんだけどね。それ以上に、魔眼を制御できないのにめげないで誰よりも努力しているのがほんとに可愛いの」
「…………それは凄いですね。私なら不貞腐れてしまいますよ」
魔眼を制御できない。
ローラがそれを隠そうとしない辺り、おそらくそれはきちんと外での生活を送れている者にとっては特に秘密にされているような情報でもないのだろうとオワリは理解した。
「それにね、何が一番可愛いって、シオンはね本当は――」
「姉様!! ほんと、それ以上は怒りますよ!」
「怒っちゃってるとこも可愛い……」
「もう嫌だぁ……」
褒め殺すローラと真っ赤に頬を染めるシオン。
そんな二人にオワリは大体の関係性を把握した。
「あ、それじゃあそろそろ私は前に戻るね。もし、生きていたら今度はシオンの可愛いエピソード聞かせてあげるよ! えっと……」
「オワリです。ヒイラギ・オワリといいます」
「そう。それじゃあ楽しみにしてるね!」
「あはは。死なないように頑張ります」
シオンの体力を根こそぎ奪ってローラは居るべき場所へと帰って行った。