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「小学校の全校集会を思い出しますね」
オワリは誰に言うでもなしに呟く。
校長が前に登壇しても小学生はすぐには静かにならない。中には自分から声を発し静かにするように言う校長も居るのだろうが、オワリが通っていた小学校の校長は生徒が自発的に静かになるのをじっと待つタイプの校長だった。
ちなみに静かになるまで待ったあとで「はい。皆さんが静かになるまでに三時間かかりました」とボケるまでがワンセットだった。死ぬほどウケてなかった。
もちろん小学校の全校集会と死刑囚たちが王城に集められるのでは何もかもが違う。
しかし、たしかにその場には小学生の全校集会に通じるものがあった。面白いくらいに静かにならないのだ。だが、冷静に考えてもみればそれは当然とも言える。
この場に居るのはどれをとっても一級品の極悪人ばかり。世間の事にはさほど興味を持たないオワリですら耳にしたことのある極悪人もざっと見ただけで何人かは居る。そんな者達がたかだか一国の王が目の前に現れたくらいで反応を示すはずもなかった。
「……」
国王はただ黙って待っている。
仮にこのまま待ち続ければそれこそ「皆さんが静かになるまで三時間かかりました」は現実のものになるかもしれない。
しかし、そうはならない。
オワリはそれを知っていた。国王の事をよく知るオワリには考えるまでもなく次の展開が読めていた。国王が、私欲の為なら他人の命などなんとも思わない男が他人の為に時間を使うことなどあるはずがない。
それなら次に国王がとる行動は……。
「……おい、そこのお前」
「……? なんですか?」
国王は一人の監視役の男に声をかけた。突然一国の主に声を掛けられた男は少し驚いた様子をみせながらも言葉を返す。
そんな男に国王はこう続けた。
「死刑囚を殺せ。できるだけ派手にな」
「…………は? ……え?」
男は言葉を理解できないのか。あるいは理解してそのうえで理解できないのか。
どう答えればいいのか分からないといったように固まった。
「……あーあ」
オワリは思った。
それは悪手だと。
国王は役に立たない者はすぐに切り捨ててしまうから。
「……はぁ。もういい。お前も死ね」
次の瞬間、監視役の男と監視していた死刑囚の頭が弾けた。熟したトマトが弾けたみたいに赤い液体をまき散らす。
そして、数秒もしないうちに体は立っていられなくなったのか崩れ落ちるように倒れた。