少年はその世界で間違いなく最弱だった。
なぜなら彼には『魔力』がなかったから。
魔法が全ての世界。
ありとあらゆる要素が魔法によって成り立つ世界。
誰もが当たり前のように、程度の違いはあれども生まれたての赤ん坊ですら魔力をその身に宿し魔法を行使するそんな世界。
力がないのなら魔法で肉体を強化しよう。
寒いのなら魔法で火を生み出そう。
喉が渇いたのなら魔法で水を生み出そう。
暑いのなら魔法で風を生み出そう。
暗いのなら魔法で光を生み出そう。
眩しいのなら魔法で闇を生み出そう。
怪我をしたら魔法で傷を癒そう。
五感で足りないのなら魔法で感知しよう。
必要な事象を必要な時に魔法で起こそう。
そんな世界で魔法を行使するための燃料たる魔力を持たない少年は間違いなく最弱であった。
けれど、それは仕方のないこと。だって、彼は元々『魔力』などという概念の存在しない世界の住人だったのだから。
だから、彼は最弱であり、底辺であり、無価値であり、虐げられるべき存在だった。
そして、そんな彼は。
いや、そんな彼であったからこそ。
――――『最凶』となった。