何の修行だよ その8
翌日、爺さん達と工房を見学に行く。
作業服にヘルメット姿の刀工が働いている。
受付のお姉さんにヘルメットを渡されて見学コースを回る。
人が居ないのか? 用事が無いのか? 受付のお姉さんが案内役も務めてくれる。
日本刀といえば、鍛造で、金槌で叩きながら日本刀の姿にして行くのが有名だが、今は機械で叩いて作るらしい。
金槌でトンカントンカンと叩くのは仕上げの時らしい。
プレス機の様な、先にハンマーが付いている機械でガガガと叩く。すぐに炭に入れて、ふいごをって、ふいごも電動送風機だ。
ちょっとイメージが違うな。
蘇我の爺さんが、またしてもここの社長と揉めている。昨日、仲良く酒を飲んでたじゃ無いか。仲悪いのかよ。
「ミスリルなんていくらすると思ってるんですか! 昨日会ったばかりのガキに、そんな物は鍛えられませんよ」
「そこを頼んどるんじゃ無いか!」
顔をつき合わせて怒鳴り合っている。
(ミ、ミスリルって本当に存在するんだ。ゲームの話じゃないぞ。第一、人に物を頼んでる態度じゃ無いし。どうするんだよ。すごく顔を出しにくいんだけど……。)
「あ、見学させて貰ってますぅ~」
軽く頭を下げる。
(早く通り過ぎよう。知らんふり、知らんふり)
が、蘇我の爺さんに捕まった。
「ほれ、お前もこっちに来て頭を下げろ」
いや、あんたが頭を下げないから揉めてるんでしょう。第一、刀なんか要らないし。俺は、魔法が使える様になりたいんだよ。
「あ、こんにちは。ええ? 私の刀ですか? 必要ないので作っていただわなくて結構ですよ」
「そんなの持って歩いていたら、警察に捕まってしまいますし。泊めていただいた上に、工場まで見学させて頂いて十分です」
と、やんわりお断りしたつもりだった。
「俺の刀は要らんのか?」
「ええ、必要有りません」
んん? 地雷を踏んだのか? ちょっと待て、どこで踏んだ?
「そうか、必要ないのか?」
しまった。しまった。フォローしないと。
「あ、じゃあ、木刀が折れてしまったので、代わりが欲しいので、後でホームセンターに連れて行って欲しいのですが」
「何を買うのだ?」
「ええ、今度は折れないように鉄パイプでも買おうかと」
「鋼材ならここに幾らでもあるわーっ!」
しまった、俺は両足で地雷を踏んで、タップダンスでも踊った気分だ。
(しかし、鋼材って、建築現場じゃあるまいし。第一、玉鋼で鉄パイプを作るのかよ)
「わははは、じゃあ要らんな。鉄パイプを買いに行こう」
なぜか、蘇我の爺さんが大喜びだ。
昼食後、刀を一振り作ってくれる事になった。
(本当に要らないんだけど)
それって、確か警察に届けて、所持許可が必要だって聞いたけど、どうするの?
取り合えず「鉄刀」も作ってもらう事になった。
ここにいる間、飯は白米が山盛り、鮎が数匹、赤身のステーキか焼肉、ホルモン料理かスジ肉の料理が出た。
体を鍛えるためには、その部位を食べるのが一番早いのだそうだ。
(絶対嘘だ! それ中国の思想で、『病気部分と同じ部位の肉を食う』って奴だろう)
翌日、工場で鉄刀を作る所を見学させて貰った。木刀に対する鉄刀だが、江戸時代にはあったらしい。
斬り殺す事ができない相手を殴り付けるのに使われたらしい。
せっかく岐阜に来ているのだから、ステンレス製にして貰った。
銀紙一号とかならかっこいいな。
形状は厚みもあり、木刀そのものだ。模擬刀の様ではない。厚みがあり、木刀をステンレスの鋼材で作った様な感じだ。格好は木刀だが、異常に重い。
刀身は艶消し白だ。
柄には、革のベルトを巻き、その上から組み紐を巻いて貰った。
鞘も作ってくれた。アルミ製で、刃の方が剥き出しの鞘だ。断面はU字状になっている。刃が剥き出しでも、ステンレス製の棒なので特に問題はない。 先端部分20cm程が筒状になっている。
そして、鍔に近い所15cm程が大きく深いU字状になっている。中にさらにU字状の金が付いていて、峰で押し付けると、カチッと閉まるようになっている。上から押さえると、少し刃の方にスライドして開く。
鞘は艶消しの黒色だ。
この鞘のおかげで、腰に下げても、忍者の様に背負っても抜けるのだ。
一番太っている鈴木のおじさんが、今日で同行はお終いと餞別にとステンレス製の鉄刀に「頑強」の魔法を掛けてくれる。
「明日から仕事があるので、これで失礼するよ。藤波君 頑張りなさいね」
「師匠、お先に失礼します」と最高齢の与里野の爺さんに挨拶をして帰っていった。
お礼を言って別れたが、正直、一緒に走っていただけの記憶しかない。
あの体型で、俺たちと同じ速度で走っていたので、超人には違いないのだろうが。
翌日、社長に挨拶をして工場を出る。
刀は出来上がると家に送っててくれるらしい。あんな日本刀をの郵送できるのかよ。警察来るよ。
昨夜遅くまで、奥さんが剣道の腕を見てくれていたので、挨拶に行ったら、
「うちの子(小学生の生徒達)たちの腕にはまだまだだけど、だいぶ良くなったわよ」と褒めてるのか貶されてるのかわからない言葉を頂いた。
4日振りに指輪の魔法を使って、敏捷と筋力をあげて、「サザン」を憑依させる。
東に向かっているが、高い山が見える。 恵那山か? 険しい山が続く。
一旦降りて、また登る。降りては登る。道は獣道に毛が生えた程度の物だ。時々見かける道標が道である証明になる。
今度の山は高い。山頂には雪が残っていた。
そして、ゴブリンを何匹か狩った。妖魔が出ると言う事は、人里は離れていると言う事だ。
鉄刀を抜かずに、金剛杖で叩いたら折れた。普通の木の杖なので当然だろう。
疲れで頭が回らなかったのだ。ついつい、手に持っていた杖で突いてしまった。
杖を突いて登れず、手を付いて登らないといけない所もあったので、その時に捨てた。って、道じゃないよね。ここ。山を直線的に登っている様な気がする。
2日かかって南アルプス市に着いた。
低酸素症に罹患している間も無く降りて来た。頭痛と吐き気が続いている。
サザンに状態異常抵抗がある為、すぐに回復するのだ。これはこれで、ある意味苦痛だ。
そして、木賃宿に泊まり、疲れを癒す。「ビジネス旅館」と書いてあるが、他に客の姿は見えない。
一体、誰が使っているのだろう。街中なら分かるのだが、本当に山を下っただけの場所だ。
昨夜は山の中で野宿だったので、家の中と言うだけで安心出来る。大きめの木の根元に腰を下ろしても、なかなか寝れるものじゃなかった。
「今のうちに、体をほぐしておけよ」
「はい」
「体が出来上がるまで、辛いけどもう少しの我慢だ」
「はい」
正直、「はい」しか言いたくなかった。長い文章どころか、一文節も喋りたくなかったのだ。
こうして、風呂と飯だけで幸せになれるなんて、今まで思ったこともなかったよ。
翌朝、朝食を済ませ、お弁当を持たせてもらって出発の用意をする。
「おい、これを付けろ」
蘇我の爺さんがリュックからカメラを出してくる。スポーツカムとか呼ばれる小さなビデオカメラだ。
言われた通り、カメラを側頭部にセットする。
「依頼を受けていたんだよ。ゴールデンウィークは馬鹿が多いからなぁ。増えるんだよ」
(何が増えるんだ?)
与里野の爺さん達は、これから樹海に入ると説明し出した。
「ゴールデンウィークにはゾンビ狩りにみんな来るんだよ。馬鹿どもが。でな、ミイラ取りがミイラになるのだが、それじゃあゾンビが増えて困る んだよ。
一応、緩く結界は張ってあるから、出て来る事は無いのだけどな。
それでも何かあると出て来て悪さをするんじゃ。
で、ゾンビ退治の依頼が出されるのだけどな、それを受けて来た」
最近は、ネットに画像を上げたいがために、撮影に来たりするらしい。
また、そこで襲われてゾンビの仲間入りす輩が多いるらしい。
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