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高野山までやってきた。 その5


 中途半端な田舎の駅の改札を出て、いつの間にか、爺さん達は山伏の格好に着替えている。快速停車駅だが、降りる乗客は少ない。

もう、田畑は無く、と言って都会でもない地方駅だ。この駅で、関西空港と和歌山方面の電車に切り離されるので、通った人は多いと思われるが、乗降客は少ない。


(いったい何処で着替えたのだ?)


 杉の木製の金剛杖を貸して貰った。上の方が卒塔婆の様な飾りになっている。お遍路さんが持っているアレである。


 爺さん達は自分の物は、上の飾り部分が錫杖になっている杖を各自出して来ている。


(だから、何処から出しているんだよぉ)


「何をしておるんじゃ。さっさと準備をしないか」

「今日中に、橋本まで行くぞ! ちゃんと付いて来い」そう言うと、東に向かって走り出した。


 走る、走る。よく、あの歳で走っていられるものだと思う。俺も魔法の指輪で敏捷と筋力、持久力をあげて居なかったら置いていかれるところだった。


 しかし、杖が一本あると楽になるものだ。


って、山越えじゃないか?

まず、呼吸に来た。足は、魔法のおかげで筋力が増えて何とかなるが、心臓と肺は無理だ。足が働いた分は栄養と酸素を要求するのだ。

すぐに爺さんたちに置いていかれるようになった。

「ゼェーハァー、ゼェーハァー」と自分でも驚く様な呼吸音が聞こえる。


 徐々に、和泉山脈と言う山が大きくなってくる。別に標高は低い山だが、走って登る山ではない。余談だが、付近の小中学生が、遠足で登る山なのだ。


 山道に入ると、犬鳴き山温泉と言う看板が見えた。

旅館が何件かある様だったが、ここは素通りされた。

道を枝道に折れ、少し行くと急斜面になり、少し登ったところから脇道に逸れて崖下に下ると、お寺があった。


 まず、この犬鳴山で滝行をした。


「あと少しだ」と言われたが、もう体が動かない。

呼吸が続かないのだ。全く酸素が足らないのだ。


 犬鳴山は不動明王を祀るお寺の名で山の名前では無い。

 滝行も出来る設備があるが、この時期はまだまだ寒い。「禊ぎだ」と言われ、爺さん達と順番に滝に打たれる。行の最初に体を清めるのだそうだ。


「ここで、心身を清めて、無事故で終われるように祈願するんじゃ」


って言われるが、体が冷えて、もうこれが事故だよ。


滝の水が直接落ちて来ず、一旦岩に当たって落ちてくる様にはなっているが、人間にはきつい勢いだ。


 冷たい水に体温を奪われ、意識が何処かに飛んで行く。


「感覚が研ぎ澄まされ、自然と一体になる」なんてことは無く、単に体が冷えて意識がなくなって行った。


 意識が無くなる直前に爺さん達に引き出されたが、実際には1分と居なかったらしい。寒くて寒くて、滝から逃げ出さないといけないとか思考が回らずに、意識が遠くなって行ったのだ。


「お前、気が緩んでると、修行の最中に死ぬぞ!」


そう言われて怒られるが、意味が分からない。

俺が一体何をした?


 そして、またランニング。山を越え、粉河寺に着く。


粉河寺にお参りすると日が暮れて来た。


 ここは千手観音を祀るが、不動堂も有る。この寺には滝は無いので一安心だ。この地域は西に和泉の山があるので、日没前に暗くなってくる。

 空は明るいのだが、山の日陰に入って、あたりが暗くなる。

上空を筋雲が赤く染まる。大気中の水蒸気が日の光を乱反射して、雲間からの夕日の明かりが筋状に伸びてくる。空に雲の影が映るのだ。

そして、山の影が雲に写り、暗くなった。日没だ。


 国道の夜道を橋本へのランニングする。爺さん達は、国道だから楽だと言って笑っていやがる。

 日が落ちて、車のヘッドライトが眩しい。爺さん達は、マラソン選手並みの速度で走っている。俺は魔法で強化されていても付いて行くのがやっとだった。


 脚がヘトヘトのガクガクになって宿に着く。


「遍路、ビジネス、観光 旅館」と書いてある汚い宿に着く。


「おい、着いたぞ」


不愛想に、与里野の爺さんがやさしく声をかけてくれる。

 鬼畜だ。受験がなかったら、殺しているところだ。


 遅い時間のチェックインのため、片付けがあるからと早々に食事が始まる。爺さん達は精進料理だが、俺の方は肉や卵が多く使われている。


「体を作るには、高タンパクな料理が必要だから、しっかりと食え」と注意される。しっかりと食えと言われても、胃に物を入れると吐きそうになる。


 食後、湯船がタイル張りの風呂に入る。ここは昭和か? この旅館は時間が止まっているみたいだ。


 風呂に入ると、身体が生き返る。一緒に入って来た爺さんが「筋繊維が潰れて、修復し、太く強くなるから体をどんどん使え」とアドバイスをくれた。


「魔法で速く走れる様にはなっているが、自分の足の筋肉を使っている以上は足や腰に負担がかかる。しっかりと魔法に耐えられる身体を作るんじゃ」とも言われた。


そして、「明日は、高野山から大峰山に登るぞ」と予定を教えて貰った。


(えっげつなぁ〜)勇人は、心の中で、エセ関西弁で突っ込んでいた。

明日は山登りかーい!


 寝る前にスマホで調べると、大阪難波から高野山まで電車が走っていた。おいっ!

因みに、ここ橋本までは急行ですぐだった。


 朝、気持ち良い柔らかい陽射しが、挿す前に出発となった。


 まだ空は暗い。東の空がやや明るくなった頃に、旅館の前に立っていた。川面を渡る風が気持ち良く、の前に全身の筋肉痛が痛い。体がロボットのような動きになっている。


 橋を渡り、山の中の道を走ると、適当な間隔で石柱が建っていた。これが、高野山までの道しるべなのだそうだ。

 高野山は低い山だが、ずっと登り坂が続いている。息が上がって苦しい、「もっと空気をくれ!」と言いたくなる。俺の体は、体幹や手足に対して肺の機能が低い様に感じる。息をしても空気が吸えていない感じだ。

 確かに、高野山は決して高い山では無いが、走って登れる山でも無い。しかし、走っていれば、息が出来なくても当然だ。が、しかし、道が整備されていることもあり、最近は走って上り下りしている人もいる。最近流行りのスポーツなのだそうだ。人気があるらしく、そう言う人と何人かすれ違った。化け物か!

 彼らは両手に杖を突いて、熊野古道とか、登山道を走って行くのが流行っているらしい。爺さん達以上に化け物だ。



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