秋田来たーっ! その199
「ええ、こっちに行くのか
ワイヤーとか張ってないよな」
もちろん宇宙船のシャトルで有る。
ワイヤーカッターとかシャア専用ザクの飾りは付いていないのだ。
「ワイヤー?」
「ああ、高圧線とか材木の運び出し用の」
「知らないわよ」
そらそうだ。普通は知らないよ。
だから困ってるんだって。
俺はシャトルにBー1の形の物理障壁を張る。ワイヤーに当たった時のために用心したのだ。
川沿いの道を登って行くと、突き当たりが温泉旅館になっている。
そこが、吸血鬼達の根城になっているらしい。
その数キロ手前の集落が、今の戦場らしい。
夜半を回った頃に俺達は着いた。
地図上では、この下が集落のはずだ。
ガンッ!
左の翼に何かが当たった。
速度が遅いと言っても、時速にして40km/hは出ている。
「あ、何か当たったね。
何か見えた?」
誰も何も答えない。
それはそうだ。この辺りまで来ると真っ暗なのだ。目視で飛べないから、スマホの地図を頼りに飛んでいるのだ。
俺はシャトルのセンサーを、人や妖魔まで映る様に設定して、Bー1の形の外装を消す。
そして、シャトルの外部照明とサーチライトを点灯させる。
暗闇の中に、白色の機体に「USSー1701D」と書かれた機体が浮き上がる。
四角いコンテナのような機体の下部に、青いプラズマイオンエンジン風の照明が点っている。
サーチライトに映し出された地面付近では、複数の者達が戦っている。
建物も数件見られるし、道にもバリケードが設置してある。
前方モニターの左半分を下方カメラの映像にして、集落の上空を旋回しながら、状況把握に努める。
「あの、黒い服の集団が吸血鬼かな?」
「さあ? どうかしら」
栃原先輩の気の無い返事が返ってくる。
まあ、この中の誰も吸血鬼など見たことも話したことも無いのだ。当然と言えば当然だ。
しかし、映し出された多分吸血鬼と多分人間側の誰もがこちらを見上げている。
戦いを中断して、上空の我々を見ているのだ。
もちろん、シャトルの底にも「USSー1701D」と書いてあり、照明で照らしているので、暗がりの中では目立つのだ。
「あれ、ゾンビじゃない?」
蘇我さんが、後ろの席からモニターを指差している。
そこには、バリケードの向こうからゾロゾロと歩いてくる人々が映っている。
「ああ」
遠くで見る限りは、匂いもないしグロくもない。下の方で、ウサウサと動いているだけだ。
たまにこちらに光の球が飛んでくる。数発目で、シャトルが攻撃されていることを悟った。
「コンピュータ、魔法障壁を展開」
俺は、シャトルを防御する。単純にアルミのコンテナだから、いくら光弾を撃たれても、何の心配もないのだけど。
集落の上空をぐるりと周り、着陸する場所を決めた。
集落を流れる川沿いに、少し下った所の道に皆車を停めているところがある。
その勝手駐車場に縦列駐車でシャトルを下ろして行く。
ゴツリ
音を立ててシャトルが着陸する。
着陸用スキッドにサスペンションは付いていないので仕方がない。
皆は立ち上がり、自分の荷物をまとめている。
辺りから、ボコボコと音がする。下船準備を始めたようだ。
俺は振り返らず、前方モニターを船外360°ビューに変える。
画像は歪んでいるが、一度に大体の様子は把握できるのだ。
白い顔に黒いマントを被った女性が飛んで来る。いや、本当、文字通り飛んでくる。
「あれかな? コレが吸血鬼?」
「さあぁ?」
俺がモニターを指差して聞くが、やはり、誰も答えられない。
「直接聴くしかないなぁ。
後で聞くな」
俺は、リアゲートの開口部にフォースシールドを張る。もちろん、物理障壁と魔法障壁だ。
青くて薄いガラスのような物が、一面に張られている。時折、ランダムな場所に、黄色い光の粒が光っている。
我ながら、見事な演出だ。
プシューゥ。
リアハッチゲートを開けると、数体の吸血鬼らしき者が立っていた。
因みに、空気が抜けるような音は、後で付けた効果音だ。気密性は雨が盛らない程度だし、開閉の動力は魔力なのだ。空気の抜ける音はしないのだ。
ゲートが開き切ると、黒いマントを被った女性が三名立っていた。
ゲートが下がると、それがランプになっているのだ。ドラマでは、シャトルがシーズン毎に小変更があり、どのモデルを採用するか悩む所だ。
勇人が作ったのは、後ろから乗り降りするタイプだ。
そのうちの一人が、ランプを登って来てフォースシールドを触る。
「ギャァーッ!」
悲鳴を上げて手を引き込め、腕から先を反対の手で抱えて苦しんでいる。
ニヤリ。
俺は悪い顔で笑う。
「どうしたの?」
慌てて葉月が聞いてくる。
「ふふふ、フォースシールドは破ろうと触ると、強い苦痛を味わう事になるのさ」
こんなにうまく行くとは思わなかった。自然と笑みが溢れてくる。
「どうして?」
「防御魔法と一緒に苦痛も掛けて置いたからさ」
「ドラマじゃ、ボーグですら出れなかったんだ。
そのフォースシールドをだなあ、再現する為に、破ろうとすると苦痛を味わうと言う……。」
「いいから、早くしなさいよ。
聞くんでしょ」
葉月は、俺の話を打ち切って、苦しんでいる奴に吸血鬼か聞けと言う。
「よし!」
わははは、俺の時代がきたとしか言いようがないだろう。
俺は、銀の指輪を右手の中指にはめて、フェザー銃を麻痺に設定する。
麻痺と言っても、光弾を、普通なら麻痺する程度に弱くしてあるだけで、強い奴には効かないし、弱い奴なら死ぬこともあるだろう。
俺は、シャトルに命令する。
「コンピューター、リアゲートのフォースシールドを解除」
リアゲートに張られていた透明な、時々黄色く光る何かがパッと消えた。
ブックマークをありがとうございます。
読者の方には関係ないのですが、ブックマークは人気の指標になっているのです。
100件未満が底辺作家と言われるのです。
で、百件を超えると、底辺卒と言われるのです。
まあ、数万件集める人気作家にはなれないので、いかにこれを超えるかが大切なのです。
現在103件です。
終わるまで、保てたらいいな。