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グルグルマップ その198


 科学部の鈴木との約束が有るので、浅草橋をトンボ返りだ。

俺は大量の花火と弓矢の矢を購入した。


 急いで帰ったが、結局、鈴木に橋本駅まで持って来てもらった。

クッションのプチプチ(気泡シート)に包まれて、紙袋に入れらている。


「使う時は、これを使え」


そう言って鈴木は、使い捨てのプラスチック手袋と革の手袋を付けてくれた。


「お前ら、何の取引をしているのだよ?」


「内緒だよ」


「藤波、あとこれな。言われた通り大量に入れておいたぜ」


鈴木は、紙袋に入れておいたiーpadを渡してくれた。どちらかと言うと、こっちが本命だ。



「ニンニクか?」


桜木が奇妙な事を聞いて来た。


「なにそれ? オレ、料理しないし」


魔の抜けた問答になった。

 それから、俺達は家に帰って明日の準備をするために別れた。


 自分の家に向かっていると、葉月から、LINEがひっきりなしに入る。


『何処にいるの?』


『連絡下さい』


『何してるの』


『電話に出なさいよ』


まるで親か姉のようである。


「もしもし、俺ですけど?」


「何しているの?」


「塾に行く準備」


「どうして? 聴いてなかったの?」


「何をでしょう? 俺は何も聞いていないよ」


「今晩から、森野ちゃんところに行くって言ってたじゃない」


「誰が?」


「栃原先輩が」


「俺、いなかっただろ」


「居たわよ」


葉月は、何かを勘違いして、俺を責めてくる。


「で、用件は?」


「早く来なさいよ。みんな待ってるわよ」


「先に行っておいてよ」

「明日、追いかけて行くよ」


俺は、さも面倒くさそうにいった。


「勇人が来ないと、みんな出発出来ないでしょ!

 早く来なさい!」


俺は、4日分の着替えと装備とコンビニで買ったおにぎりとお茶をウェストポーチに入れて、家を出た。


 日が暮れたのに、辺りはまだ暖かい。確実に春の気配が近付いている時期になった。

もう梅は散って、桃が咲いて、散り始めているころだ。天気予報では、桜前線の予想が発表されている。


 春分の日の一週前。もう、日はだいぶ長くなってきているが、夕闇はさり、どっぷりと夜である。

 夜の帳も降りて、なんて言われる時刻に、学校前に到着した。


(どうしてだよ。新横浜じゃないの? 在来線で行くの?)


「みんな待っていたのよ」


葉月の「みんな」は、いつも俺には責任のない「みんな」だ。


「どうしてだよ。

 俺に、そんな親しい友人は居ないよ」


「みんな、森野ちゃんの為に集まってくれたのよ」


(じゃあ、礼を言うのも、謝るのも俺じゃないよね)


「判ってるの?」


「あん?」


(判っているけど、つまり、俺のためじゃ無いのだよな)


「『あん?』って何よ。

 早く、こっちに来て謝りなさい。もう」


俺は、皆が待つところに引っ張られていった。


「お待たせ」


俺は挨拶をするが、周りは待っていた様子も無い。


蘇我さん、

秋山さん、

靏見さん、

桐崎、

葉月、

俺、

魔法部の栃原先輩、

剣道部の高安さん、

オカ研の藤谷部長


の九人が揃った。


 その後、桜木が何処からか走って来て、十人全員が揃った。


合計10人だ。


 皆それぞれに、数日分の着替えとケプラーの防具とポリカーボネイトの鎧を持って来ている。

それを手持ちぶたさに触るものだから、ボコボコと音を立てている。


 通常、神奈川県から秋田県まで、新幹線をつかっても4時間かかる。

それも秋田駅で4時間だ。いったい秋田の何処なのか? そこからどれだけ山に入って行くのかわからない。

 普通なら、盛岡か秋田で一泊と言うところか? しかし、この人数で泊まれるのか?


「じゃあ、出して」


葉月が、俺の知らないものを出せと言って来た。


「はいぃ?」


「早く出してよ」


「何を? 何処に?」


全く心当たりの無いものを出せと言われて、思わず聞き返してしまった。


「あれよ。コンテナ」


「シャトルね」


葉月の言い間違いを栃原先輩が横から言い直す。


 こいつら、やけにのんびりしていると思ったら、シャトルで行くつもりだったのか?


「ねぇよ」


「ウソよ」


「本当さ」


「ウソッ!」


突然、葉月が俺に抱きついて来た。


(??????)


俺は、一瞬何が起こったかわからないまま葉月を抱いた。

 頭に回した手で、葉月の毛をかき上げる。女性特有のいい匂いがする。


 そしたら、葉月は俺の腰に回していた手を前に回し、ウェストポーチの中に手を入れた。


「これでも無いし、それでも無いし」


「葉月、判ったから、ここでは出さないでくれるかな」


「どうしてよ。勇人が出さないからでしょう」


「こんなところで出してる所を見られたら、大騒ぎになるじゃないか」


俺は、夕方間もない時間に、シャトルを出そうとする葉月を嗜めた。


 校門には、監視カメラが付いており、門扉に警備会社のシールが貼ってあるからだ。


 校舎の中は、まだ灯りが点いている部屋もある。職員室などに、先生方が残っているのだろう。


 俺は転送シートを取り出して、コミュニケーターを貼り付ける。

いつもの転送シートとは違い、3mほどの丸い筒が付いている。


 俺は、全員にコミュニケーターを配り、胸に付けるように指示した。

そして、自分の胸のコミュニケーターを叩き、指示を出す。


「上陸班、一名転送」


俺の体は光の粒子に包まれて、校舎の屋上に物質化した。


 相手先が分からない転送は、緊張するのだ。向こうにある何かと体が融合すると大変だからだ。それこそ、「FLY」の世界になってしまう。


 そこで、トリコーダーで念入りに地形と言うか、屋上の位置と形状を調べてから転送するのだ。

そして、ここでシャトルを出して、転送シートと皆を回収するのだ。


 俺は、シャトルの電源を入れて、空調を動かし、照明を点ける。


 俺は、発電機がヒュルヒュルと動き出し、ブーーンと定格運転するまでの間が好きだ。死んでいた機械が生き返っていくように感じるのだ。


 俺は、シャトルに皆を次々に転送して、ゆっくりと上昇させる。


 俺は最前列のシートの間に立っているし、桜木はリアシートの間の床に座っている。


 シャトルをゆっくりと北北東に飛ばすが、まずはセンサー全開だ。


 シャトルのセンサーと言っても、性能は俺が持っているトリコーダーと同じだ。製作者が同じサザンなのだから仕方がない。


(秋田って基地があったよなぁ?

 青森って米軍基地も有るし)


そんな事を考えながら俺は外部の照明を落として、物理障壁をシャトルに張った。


 俺は、東北本線の上空を飛ぶ様にシャトルに指示して、高度を下げた。

出力の弱い蒸気機関車が列車の先頭で引く限り、C型なら六輪、D型なら八輪の動輪の鉄の車輪と鉄の線路の粘着抵抗だけで貨車を引くので、線路は勾配を強く作れないのだ。


 つまり、旧い鉄道は、割と安定して平らな作りになっているのだ。


 俺は、センサーでトンネルがないか? 山は近くにないか? それを確認しながら飛んでいる。


「ところで、秋田のどこに行くの?」


俺は葉月に聞いてみる。


「ここ」


葉月は住所を書いた紙を見せてきた。


(それだけで行くつもりだったのかよ)


グルグル地図で調べると、マタギの温泉のずっと上の方。

すでに地図にも載っていないところだ。


 「くま料理が出るのか?」


「知らないけど、もう冬眠終わってるかな?

 子熊の丸焼きを食べるの?」


「……。』


可愛い子熊など食えるわけがないが、それ以前に、そこにどうやっていくのだ?


 グルグル地図を見比べながら、低空をゆっくりと進めて行くと、道は山奥に分岐した。



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