講義 その191
今日は、バレンタインデーだ。
クラス中の男子生徒が浮き足立っている。
本命チョコを貰えるやつは、どうでも良いことなのだが、そう言う女性が居ない男子には、義理チョコと言うのは大切なチョコレートなのだ。
これは、クラスやクラブ、バイト先での自分の好かれ具合を表しているのだ。いや、嫌われていないと言う安心のバロメーターなのだ。
まあ、正直言って、本命チョコが欲しい。校舎裏に呼び出されたり、下駄箱の前で後輩に渡されたい。そう言う気持ちは常に心の奥底にある事は有るのだが。
しかし、その様な夢ばかりを見ているのではない。義理でいいのだ。100円の板チョコでいいのだ。この日に女性から貰うと言うことが大切なのだ。
朝の教室のホームルームの前の時間、教室の前の方で歓声が上がっている。
蘇我さんがチョコレート配りだしたのだ。
クラスで一番の人気者が、チョコレートを手渡しで配っている。明治ミルクチョコレートに包装して、リボンのシールを貼ってあるだけだが、男子にしたら、蘇我さんからチョコレートを貰ったと言う事実が大切なのだ。
クラスで人気者の、いや、学年で人気者の女子が、自分にチョコレートをくれたと言う事が大切なのだ。
蘇我さんが、俺の机に来た。
「わかってるわよね」
そう言ってチョコレートをくれた。
何をわかってると言う意味なんだろう。
チョコレート自体は、数千円もする大人の味のチョコレートだ。それに赤い包装とピンクのリボンがかけてある。
これをもらうと、何かをしないといけないのか? 怖くて貰うわけにいかないのだが。
秋山さんも、チロルチョコレートをくれたが、何か機嫌が悪い。
俺にはさっぱり分からない事が起こっていつようだ。
放課後、秋山さんと蘇我さんがグランドの方に向かった。
そこでは、サッカー部が練習前のファンサービスの集会を行なっていた。
単に、女子がチョコレートを受け取って貰おうと集まって来ていて、全く練習になっていなかっただけなのだが。
野球部やラグビー部同様、華のある運動部の代表の為、女子の集まりも多い。
特に、他の部に比べて、中等部の女子が目立つ。
秋山さんは、日向を見つけて手を振った。それを見つけた日向は、その時周りにいた女子に断って、秋山さんの方に駆けて来ている。
蘇我さんは、二人に気を使って、少し離れた場所に立っていた。
それを見つけた龍山部長と山本が、蘇我さんの元にやって来た。
龍山と山本は、両手に紙袋をいっぱい下げている状態だ。
「やあ、元気だったかい?」
「ええ」
蘇我さんはにっこりと笑って返した。
「今日はどうしたのかな?」
「ええ、彼女の付き添いかしらね」
蘇我さんは、秋山さんの方を見て笑う。
本当は逆で有る。秋山さんが蘇我さんの監視をしているのだ。
蘇我さんが、葉月と藤波の邪魔をしない様に見張っているのだ。
「ああ、これね。今日はバレンタインデーだからね。中等部の女子が持って来るんだ」
「あの頃の女子は、年上に憧れがあるのだろうね」
龍山部長が両手の紙袋を見せて笑っている。
「そうね。私もそうだったわ」
そう言って、持っている紙袋を覗くと、明治ミルクチョコレートの板チョコが一枚あるだけだった。
「悪いけど、残り一枚しかないわ」
「喧嘩しないで、二人で分けてね」
蘇我さんは、そう言って踵を返して立ち去った。
グランド脇に残された二人に、女子中学生達が群がった。
俺は、下駄箱の前で葉月を待っていた。
昼休みが終わった五時間目の授業中に葉月から、下駄箱の前で待って置くようにラインが来たのだ。
(全く、なにをしているんだ。授業中に)
俺の下駄箱には、俺の靴しか入っていない。男の淡い期待も、見事に崩れさった。
まあ、底辺の俺が告白されるとは思わないし、少なくとも葉月はくれるだろうし。
今年は二つで諦めよう。いや、秋山さんのチロルチョコを入れると三つか。
バタバタ! ドタバタ! バタバタ!
葉月達が走って来た。んん? 「達」?
「時間がないの! 急いで!」
葉月は、俺を下駄箱の方に押して下足に履き替えろと急かせている。
桜木と栃原部長代理は、それぞれの下駄箱に走って行く。
バッサバッサ!
「ああん、もう!」
「急いでいるのに」
栃原部長代理は、下駄箱を開けた途端にチョコレートが落ちて来て、苛立っている。
さすがに、彼女は女子にも人気があるのだ。怪しい意味で。
俺が靴を履き替えていると、
「駅まで走るわよ。時間がないの」
「どこに行くの?」
「知らない」
「ええ?」
「急ぐわよ!」
と言って、葉月が俺の手を引いて走り出した。ただし、校門あたりまでだが。
文系女子の体力では、駅まで走り続けることは難しかったのだ。
桜木はアルミのカメラケースと小さな三脚を担いで走っている。
俺は、葉月の手を引いて走っているが、もう限界だろう。葉月の足がもつれ掛かっている。
学校の最寄駅から橋本駅に出て乗り換える。再び調布で乗り換えて、新宿に出て飯田橋駅で降りる。
まだ、サラリーマンの帰宅時間には間があるので、空いていると言っても飯田橋である。橋本駅のようにはいかない。
日は、少し傾き、青空の明るさは昼間のそれとは違う。しかし、夕刻には、まだ間がある。
冬の関東地方は、乾燥して晴れることが多いが、それでもちらほらとすじ雲が見える。
「ここから、大学まで速足で直ぐだ」
桜木が何気に説明してくれる。
「どこに行くのんだよ?」
と聞くと、
「おう、中世の魔法の原点の公開が有るのだ」
「それの見学に行くんだよ」
「中世の魔法って、黒ミサだろう」
「良いのか? そんな物を公開して」
「良いんじゃ無いか? 金も取るのだし」
キャンセルが出て、抽選に当たったんだ」
行く理由はわかったのだが、場所が不明だった。しかし、その後直ぐにわかった。少し歩いた先の大学だったのだ。目の前に大学があり、さすがに迷子になりようが無いのだ。
指定させれた校舎に着くと、「市民講座『民俗学の誘い「呪いと祈り」中世編』」と立て看板が上がっていた。
階段で校舎の三階まで上り、教室に入る。
講義室の扉の前に、パイプ机を置いて、「受付」とかいた紙を貼って有る。
そこに居た大学生風の男に、桜木が8万円を払っていた。
(え? そんなにするのかよ。他のことに使った方が有意義じゃ無いか?)
俺はそう思った。
講義室は階段教室になっており、教壇に向かって弧を描いて机が設置されている。
途中に太い黄色い線がひいてあり、係の者に、
「こちらから後ろで、開いている席に自由にどうぞ」
と言われる。
席は、全部で150席から200席は有りそうな感じだ。その席が、もう8割がた埋まっている。人気の講義のようだ。
席は、奥から葉月、俺、桜木、栃原部長代理となった。
俺が葉月を先に勧めたら、栃原部長代理に次に座るように勧められたのだ。
桜木は、一番手前の席が、撮影に都合が悪かったのだ。単に、前にでかい男が座っていたのだ。
結局、カメラは、俺と桜木の中間に、小さな三脚で固定された。
前方の一段高くなった教壇が広いし、奥行きが有る。有るってものじゃない、正四角形の舞台かと思わせるぐらい有る。
ここで、簡単な実技や展示が出来るようになっている。
黒板の前と教壇の手前に、OHP用のスクリーンが巻き上げて有る。講義内容によって使い分けているのだろう。
すいません。たぶんこの章の性的表現で削除されたのだと思います。
その為、大幅に削除しています。
話も面白くないし、辻褄も合いません。
良かったらどうぞ。