除霊 顛末 その190
そう、俺達が羽根だ、尾だ、と騒いで居たのは、腕と脚だったのだ。
天使は中世の宗教画を思わせるような、筋肉質で脂肪が付いていない。
そして、大きな羽根をバッサバッサと動かしている。
このサイズの哺乳類がホバリングで浮く事は出来ない。重過ぎるのだ。
まあ、サイズといい、形状といい、出現方法といい、地球上の哺乳類と違う事は明白だ。
その巨大な天使は、葉月が作り出した黒い穴の上に浮いている。そこで、吹き出すマナを受けて、手を前下に差し出して、手の平を小鬼に突き出して、発光させている。
その光を浴びて、ミンチ状の小鬼の顔が発達して大きくなって来た。
頭が、握り拳程度にまで成長すると、栃原部長代理は詠唱を辞め、巨大な天使に礼を言っている。
「有り難う、もう良いわ」
「あなたの支援を受けていると身体がもたないわ」
(ダメね。この娘の百分の一でも、たった数分でも身体がもたないわ)栃原部長代理は自分のふがいなさを攻めた。
「はい」
「わかりました」
葉月とて、大地から吹き上げてくるマナを全部吸収している訳では無い。大方、九割は逃している。
しかし、栃原部長代理は、葉月が支援している99パーセントは体外に放出して、自分の魔力に使えているのは1パーセントがせいぜいだ。
つまり、元々の大地より吹き出しているマナのエネルギーの千分の一も使えなくていたのだ。
桜木のビデオに映っている光の塊は、崩れるように霧散して行った。
それから、栃原部長代理は、俺が渡した、サザンが作った結界のお札を使って、結界のナイフを出した。
それを使って、蛟の霊体から長さ10センチ程の欠片を削り取り、やっと回復した小鬼の口に入れた。
すると、小鬼だったミンチが緩やかに解け、合わさり、ゆっくりと全身が回復して行った。
それを撮っていた桜木が言った。
「藤波、なんか寄り集まって来たぞ」
「一つの細胞が三つに分かれ」
「何言ってんだよ。分かれてねーよ」
「集まってきているだよ。見りゃ判るだろう」
「俺には見えねーよ」
それでも、全身が回復するのに、三十分と掛からなかった。
蛟のミンチは、もう一度「クー」に食べて貰って、後片付けも終わった。
「気になるんだけどさ、あれ、さっきより大きくなっていないか?」
桜木によると、回復後の小鬼が、回復前に比べて大きいと言うのだ。
「今は、一メートルも有るんじゃ無いか?」
「知らん」
桜木が撮っているビデオには、明らかに大きくなった光の粒子の塊が映っていた。
「あなた達、一体何者なの?」
「今まで、あなた達の事なんか聞いた事ないのに」
少し大きくなった朱雀を見て、喜美絵が言っている。
「あれ? magic girlsって知らない?」
「今度、検索して見てよ」
桜木が、さりげなくオカ研の動画を紹介している。無線で言うQSLカードの未記入の物を渡している。
本来は、動画の詳細説明欄のリンクから訪問し、話したり、情報交換した者に郵送する物だ。
未記入なので、特に価値はない。
いや、記入されて居ても、我が校のオカ研では価値はないだろうけどね。
栃原部長代理は矢嶋先輩と家族に礼を言われて、霊能力者の先生からは、敬われている。
佐藤先輩が車を回して来たので、皆で乗り込み家路に着いた。
桜木は助手席に座っている。
「お前のクラスメートは、すごいな」
「俺の時にも居てくれたら、絶対、良い映像を撮ったのにな」
「ええ、クラスメートじゃ無いですけどね」
「危ない奴らですよ」
俺は、彼らの話を聞くでもなく、夢の中で聞いていた。
途中、SAで仮眠をとったりしていると、全員が家に着いたときは朝であった。