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189/215

だから除霊だってよ その189

「なんだ、今日は儂が見えんのか」

「まあ、元々はひとだった奴は連れて行こう」


「…………。」


「元々人だった悪霊は連れて行ってくれるって」


「なんだぁ? 儂の声も聞こえてないのか?」


「そうか、爺さん、悪いなぁ」


「藤波ぃ、だからそっちじゃないって」


もちろん、桜木にも声が聞こえていない。ビデオのモニター越しに光る粒子の塊を見ているのだ。だから、場所や形は判るが、会話などは出来ない。


「その小鬼は置いておいてください。その子の式神らしいので」


葉月が、細かい指示を出している。


 集まっていた信者達が、何やらお経をあげている。皆、御使いにしろ、死神にしろ、三途の川の渡しの船頭にしろ、何年も修行していて初めて見るのだ。

 それを、目の前にいる少女が呼び出して、テキパキと仕事を依頼している。


 その助けになろうと、自分達が信心する不動明王に縋っているのだ。


「…………。」


俺は、冬の超日本家屋の日本庭園の庭に突っ立っている。

 何も見えない、何も聞こえない、周りに怪しい物など存在しないのだ。

なのに、このへたり込んでいる子は何かに怯えているし、葉月は誰かと話しているし、桜木は何かを撮り続けている。いや、ここにいる多くの者が何かを見て、聞いているのだ。


 いつもの事だ。気にするのも馬鹿馬鹿しい事だ。見えない者には見えないのだ。


「勇人、終わったよ」

「お爺さん、帰っちゃったよ」


葉月が話しかけて来た。


 つまり、矢嶋先輩の除霊と悪霊の浄化が終わったという事だ。


「蛟の噛みカスと小鬼のミンチは置いて行ったけど」


「市の清掃局職員だな」

「次の生ゴミの日はいつだ?」


「やめなさいよ。持ち主がそこにいるのよ」


「朱雀ぅ〜」

「あなた達、一体どういうつもりよ!」


葉月は、喜美絵って子に泣いて抗議されている。


(俺達が悪いのか?)


 俺は、桜木が撮っているビデオモニターを覗き込んで聞いた。


「死んでいないのだろう?」

「元に戻るのか?」


「そうね。時間が経って、体にマナが溜まってくると、自然に回復するわよ」

「小さくて、まだ、弱いから、十年か二十年かすれば、数百年もかからないと思うわよ」


「よかったな、死んでいないそうだ」

「数十年もすれば回復するらしいぞ」


「私が婆さんになるわよ」


もっともな苦情だ。確かに人の寿命は妖魔や妖に比べて短いからだ。


「桜木、隣で暗く光ってるのは何だ」


「あれが、その式神のミンチだよ」

「富士見さんのクーにやられて、息も絶え絶えなんだ」

「噛み砕かれて、咀嚼されたからな」


「隣で光ってる奴は?」


「知らねーけど、この間の蛟の一部じゃねぇの?」


「あれは光ってるって事は、マナがいっぱい溜まっているんじゃないか?」

「元は、水の女神の眷属だし、あんな弱い式神のマナより多いだろ」


「そりゃ、ピカピカ光っているからな」

「でも、どうやって食わすんだよ」


「えっ? 食わすのか?」


「えっ、違うのか?」


「いや、知らん」

「知り合いにスライムはいるけど、式神は居ないんだ」


「普通はいねぇーよ」


「私がやってみようか?」


何か思うところがあるらしく、俺と桜木のいつもの掛け合いに、栃原先輩が言い出した。


「おお、さすがは部長代理だ。お前とは違うな」


「俺は部長じゃないよ」

「うちの部長は、今頃、カバの撮影に行ってるよ」


「だからやめなさいよ」


「瀬戸山さん、藤波君、手伝ってくれる?」


「嫌です」


「勇人!」

「先輩、なんでも言って下さい」


「おい、今、お前、即答で断ったな」


「いい話じゃ無いのは、すぐに解ったからな」


「じゃあ、藤波君、この蛟を切れるカッターをだして」


俺の返事を軽く無視して、栃原部長代理は俺にアイスラッガーを出せと言う。


「どうするのですか」


「少し、小鬼にマナを補充して貰おうかと思うの」

「小鬼の口は、私達で治すわ」


「口だけですか?」


「あんな物、全身治せないわよ」


「勇人、式神は人間などよりはるかに強いのよ」

「全身治していたら、こちらのマナが足らなくなるの」


「人間より弱いと、使役する意味が無いしね」


「どうして?」


桜木は、会話の内容が理解出来ていなかったようだ。


「弱い式を使うより、直接殴った方が強いだろ」


「えっ? お前、凄いな」


「昔、ある漫画家がな、『超能力でスプーンを曲げるより、手で曲げた方が早い』と言っていたのだよ」


「いや、そりゃそうだけど」


 俺は、指輪からスライムのサザンを出して、俺に憑依させる。

右手の指に嵌めた指輪から、サザンが出てきて、俺を包み、肌に吸収される。


「グオぉー! お前ら何やってるんだ?」


喜美絵という子が遂に切れ出した。

 すでに、俺たちを見る目が人を見る目じゃ無くなっている。


 俺は、サザンに頼んで、結界のお札を作ってもらう。形状は、底面の一辺が、極端に短い二等辺三角形の三角錐だ。それに円柱形の柄が付いている。

イメージは柳刃包丁だ。


そして、ノートに魔法陣を描いて葉月に渡す。


 これで、今日の俺の仕事は終わった。

 俺は、部屋の隅に戻って、おにぎりを食いながら、勉強を続け行く。


 葉月は栃原部長代理の肩を左手で押さえて言った。


「三回目です」


そして、俺から貰ったノートに書かれた魔法陣を読む。片手で身振りを付けて、ゆっくりと読んでいる。

 次に、ノートを見ずに声に出して唱えた。

そして、右手も栃原部長代理の右肩に添えて、何やら詠唱した。


 葉月を中心に、半径3m程が暗くなり、異世界の空間が開いた。

中は暗く、何も見えない。

葉月も栃原部長代理もその穴に落ちる事はなく、立っている位置は変わらない。

変わった事といえば、その暗闇からマナが吹き出していることぐらいだ。


 葉月の髪は、下方より吹き上がるエネルギーによっては逆立ち吹き上がっている。また、体が眩しく光り、栃原部長代理に触っている腕も眩しく光っている。


 なんと、葉月は、大地のマナを吸い上げ、栃原部長代理に誘導しているのだ。


「おい、おい、おい、藤波!」

「大変だよ。こっち来いよ」


ビデオのモニターを覗いていた桜木が大騒ぎしている。


「なんだ? 何かあったか?」


俺は、おにぎりを左手で持ったまま、桜木の方へ近づく。


「おい、地面から凄い何かが出ているぞ」


「前も蘇我さんがしていただろう」


「そうか? そうなのか? 俺は初めて見るぞ」


「なあに、俺にも何も見えて居ないさ」


 今度は、栃原部長代理と葉月が呪文を詠唱している。


キュゥーパーン!


突然音がして、天使が現れた。


 全長4m超の全裸の男性だ。ギリシャ彫刻のような筋肉質で、背中に片翼3m程の翼を持っている。

その翼をユッサユッサと羽ばたかせて浮いている。


 俺にも、「パーン!」と言う音は聞こえた。大きなラップ音のようだった。

もちろん、その後は何も見えないし聞こえない。


「お、おい、何か出た。何か、何か出た」


 ビデオには、空間が縦に裂けて、中の光の異空間が見えたと思ったら、眩しく光った途端、すごい音と共にその男が現れていた。もちろん、ビデオには、光の粒子の塊として映っている。


「藤波、何だあれは?」


「しらねぇよ」


俺は、ビデオのモニターを覗いて言った。


「大きなトンボじゃねぇ?」


「動いてる様子は、ウスバカゲロウだな」


佐藤先輩が、モニターを覗き込んで言っている。


「尾が有るから、ウスバカゲロウじゃ無く、ただのカゲロウだろう」


俺が、佐藤先輩の意見に修正をかける。


「馬鹿、御使よ。天使様」


栃原部長代理が、俺達を叱っている。

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