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181/215

高級なコード その181

 何度も言うが、高校生の受験勉強はどれだけ丸暗記出来るかと言うことだ。

研究や過去の分析から考察して、新たな研究を行うのは大学に入ってからだ。

その為、俺の勉強も丸暗記、そして、正確に回答する事の練習だ。


カリカリカリカリ


俺の、ノートに回答して行くシャーペンの音だけが聞こえている。


「聞いてるのか?」

「この男の事はどうなっても良いのだな?」


カリカリカリカリカリカリ


桜木が、器用にカメラの向きを変えて、矢嶋先輩を撮影している。


 彼は気づいたのだ。

カメラのモニターに映る天井には、ベッタリと光の粒子がへばりついて、その天井から光の粒子の紐が降りて来ていて、彼等の頭や胴、手足に付いているのが映っている事を。そして、自分たちは、多分それにコントロールされている事に。

 彼等6人は、まさに操り人形状態だったのだ。


 今、矢嶋先輩が身体を乗っ取られて喋っているが、一人称では無く、自分を三人称で呼んでいる事にも気付いていた。


 それらの事を、唯一自由が効く藤波に伝えようとしたが、コントロールが効かない状態では、伝える事が出来なかったのだ。


「ぎゃああァァ! いてぇよー!」

「見ろ! この男の目を掴んでやったぞ」


カリカリカリカリカリカリ


矢嶋先輩が、自分の左手の指を左目の中に突っ込み出した。

悲鳴も、天井の何かに言わせられているのだろう。説明的な悲鳴を上げている。


カリカリカリカリカリカリ


「さあ、この男の左目を取り出したぞ」

「グワァー、ああああああああ」


カリカリカリカリカリカリ


矢嶋先輩が、声にならない悲鳴を上げている。


「こいつは、自分の左目を喰いたいそうだ」

「具をぐぎゃおおおぉぉいい」


ごくっ


悲鳴の後に、嚥下時の喉の音が響く。誰も、一切音を立てていない静寂の中だからだ。ある音を除いて。


カリカリカリカリカリカリ

パサリ


ノートに回答を記入する音と、ノートか問題集なのか、ページをめくる音がした。


「…………。」


矢嶋先輩が黙ってしまった。


「こいつの腕は美味いのか? ああ?」


矢嶋先輩が、今度は左手を見て喋り出した。


「ううううギィいい」


グチャくちゃくちゃ

クチャ、クチャ、クチャクチャ

ゴクッ


口を塞いだ状態で悲鳴を上げたような音がして、何やら行儀悪く咀嚼して、嚥下している音がする。


カリカリカリカリカリカリ


先程から全てを見ていた富士見さんの顔色が悪い。

 体は微動だにせず、マイクを握りしめているが、顔は恐怖に引きつっている。


「グオォ、ウオォ、おおおぉぉ」


クチャクチャ、クチャクチャ、ゴクッ


「グオォ、おおおぉぉ、グおおおおおぉぉ」


クチャクチャ、ギィ、クチャクチャ


ゴクッ


「ぎゃぎいい、イテェ、グフゥ」


クチャクチャ、クチャクチャ、クチャクチャ、クチャクチャ、ゴクん


「あははは、生きた人の肉は美味いぜ」


カリカリカリカリカリカリ


「グオ、がメロ、ぐうう」


クチャクチャ、クチャクチャ、ゴク


ピッピッピッピッピッピッピッピッピッ


訳の分からぬ悲鳴と咀嚼音の中、俺のスマホのタイマーの音が響いた。

50分が経過したのだ。


 俺は立ち上がって、桜木の元に歩み寄る。そして話しかけた。その時も、決して鏡の方を見ないようにしている。


「おい、鏡面世界からの侵略は楽しんだか?」

「堪能したのなら、そろそろ終わりにしないか。このまま放置したら、お前の先輩の友達は死んでしまうぞ」


俺は、カウンターの方に振り返り、桜木に話しかけた。


 桜木は涙目になりながら、目玉を上下させている。


「分かったよ。終わらすぞ」


俺は、桜木の目の動きを承諾と判断して、葉月のそばに歩いて行った。


 葉月の頭は、俺の胸の高さになる。彼女は、音声用のバッテリーを肩から提げて、ずっと立っていたのである。

 そこで、俺は優しく抱きしめてやる。


 隣では、矢嶋先輩がグチャグチャと自分の左手を食っている。

前腕の中央付近は橈骨と尺骨しか残っていない。その為、手首がブランブランと揺れている。運動させる筋肉も神経も血管も無いので当然だが。

 そして、足元には血だまりが出来ている。


 俺は、葉月の右肩を左手で、左腋を右手で抱きしめた。

若い女性の汗には、男には堪らないフェロモンが含まれている。いわゆる、性的に興奮させるのだ。

 俺は、動けないでいる彼女に、背中を丸めて顔の高さを合わせて、鼻を噛む。ここでキスは無いだろうと思ったからだ。

 彼女は身体は動かないが、顔の表情筋は動く様で、葉月が「どうして?」って顔をしている。

 俺、何か間違ったか?


 そして、、次に葉月の左耳を噛む。

数十秒、葉月の耳をハムハムと甘噛みを続け、満足したので、本題に入った。


「お願いが有るんだ。葉月、葉月は詠唱しなくても魔法が使えるだろう」

「あの鏡を、どんどん冷やして行って欲しいんだ。ー40度ぐらいまで」


俺は、小さな声で囁いた。


 俺は、ムーンウォークで鏡の方に移動する。別に練習もしていないので、単に後ろ向きに歩いているだけになってしまっているが。


 後ろ向きに鏡のそばに来ると、5分ほど待って、ウエストポーチからシャワーヘッドとカランを出す。以前、浅間山大迷宮で使った魔法の道具だ。

 湯の温度を最高に上げて、鏡の前に少し離して湯を出して並べて行く。直接、鏡に湯がかからない様にする為だ。


 鏡に向かって左側から、シャワーヘッド、カラン、カラン、シャワーヘッドと並べて行く。もちろん、俺は鏡に背を向けて作業している。


まあ、作業と言ってもウエストポーチからシャワーヘッドを出して床に置き、湯を出すだけだ。

4つを出しても1分とかからない。


2、3分待って、俺は両手を打った。


パン!


「さあ、皆さん、もうあなたの姿は鏡に映っていませんよ」


「ぎゃあぁああぁぁ、いてぇー!」


矢嶋先輩が悲鳴を上げた。

そらそうだろう。橈骨と尺骨だけになるまで、自分も腕を食ったのだから。


「矢嶋!」


「矢嶋先輩!」


佐藤先輩と桜木が矢嶋先輩の所に走って行く。


富士見さんが、倒れて四つん這いになっている。


「瀬戸山! 止血!」


栃原部長代理は、葉月に指示を出して、自分は回復魔法を使っている。


「はい!」


葉月は、直ぐに治療に取りかかった。


 俺が鏡を振り返ると、シャワーから出される湯の湯気で、ほぼ一面が曇っている。


「大丈夫か?」


俺は、目の前でうずくまって倒れている富士見さんを支えて、テーブルの椅子に座らせた。

そして、アルミケースの中から、何かのコードを一本持って、矢嶋先輩の所に行き、桜木に渡した。


「上腕を思いっきり縛っておけや」

「その腕、どうせ、もう使い物にならねぇだろう」


「お、おう」


桜木はコードを見て、嫌な顔をして、矢嶋先輩の腕を、思いっきり縛った。桜木は、コードの断線の心配をしたのだろう。

何か、大切な高いコードだったのだろうか。

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