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各部屋の撮影 その178

 桜木が、奥の廊下側で作業をしているので、鏡に映る様に移動して声を掛けておく。


「桜木、俺が鏡に映ってるか?」


「何? ちゃんと写っているけどどうした?」


「お前は写っているか?」


「この角度なら写るわけないじゃないか」


「そりゃそうだな。今の事をよく覚えておけよ」


「はあぁ」


「あら、また藤波君が可笑しなことをし始めたわよ」


「彼の事は放っておいてください」


藤波は、意味が解らないって感じの顔をしているのを見て、栃原先輩は葉月に笑いかけた。


 桜木は、カメラと照明のセットが終わると、院内を撮影に行って来ると言うので、俺は留守番をする事になった。


例のカメラの電源を入れて、ファインダーの液晶を覗き込んで驚いている。別に、外部モニターでも同じ物が映っているのだが、彼は色の再生や明るさが正確だと言い、内臓モニターの方が好きなようだ。


「おわっ、おお、すげぇー。こんなに居たのか」


「桜木、何が映っているんだよ」


佐藤先輩が、ビデオカメラに写っている物に驚く桜木に、興味がわいて、ビデオカメラを覗きに来た。



 院内の待合室には人サイズの光の塊や、子供サイズの光の塊が歩いていた。また、ソフトボール程度の光の塊も浮いている。


「これが、あのカメラか?」

「おぉわっ! こんなに、この辺りに居たのか?」


「佐藤! これは、何が映ってんだよ!」


「向こうの生き物たちとか、ここで亡くなった方々の魂だよ」


「なんで、こんなものが映るんだ。これは本物か?」


もともとが高感度カメラのなので、院内の様子は良く映っている。そこに、光の粒子の蚊柱の様な物が映っているのだ。それを、桜木と佐藤先輩、矢嶋先輩と三人で外部モニターを覗いて驚いているのだ。


「普通の映像はな、物に当たった光が反射してきてカメラのレンズに入って来て、屈折してCCDに合焦して、CCDが光の強弱や色を判断して、記憶するんだ。それを画像エンジンが映像として並べるわけだ。それを時間ごとに変化して表示したのが動画なんだよ」

「しかし、幽霊も俺たちには見えない光エネルギーらしき物を出しているんだ。霊能者はオーラとも言うが、実は何か分かっていないものだ。それを、このカメラはレンズで拾って、CCDで光として反応しているんだ」


「はあ?」


「はあじゃねぇよ。これは凄い事なんだぞ。俺達の大学でも、まだ開発出来ていないんだ」

「それを、桜木に作られてしまったんだよ」


佐藤先輩が、熱く矢嶋先輩に解説している。


 俺を除く六人で院内の撮影に出かける事になったので、俺は荷物番をする。

丸いテーブルの机と椅子の埃を払って、そこに座った。


「ねえ、ねえ、君も何か、あの光の塊見たなものが見えているの?」


矢嶋先輩が、また葉月に絡み出した。


「私には人の姿や動物の姿で見えていますよ」


「え? 光の粒粒に見えていないの」


「ええ、ちゃんと人の姿をして、日本語で話しかけて来ますよ」


「……。」


「おい、矢嶋、出発するぞ」


俺を置いて、六人は他の部屋の取材に出かけて行った。


「おい、矢嶋、その娘はやめとけ」

「何度も言うが、お前、あいつに殺されるぞ」


「あんな、この間迄中坊だったガキにかよ」


「この廃病院で、幽霊が居るのが分かっていて、件の鏡の前で、一人で留守番する男だぞ」

「俺なら皆んなについて来るよ」


「でも、俺には何も出来んさ」


「問題だけは起こすなよ」


佐藤先輩と矢嶋先輩が、俺を振り返りながら、喋って行った。


 富士見さんが、廊下を歩いている。

桜木始め、スタッフが後ろ向きに先に歩いて居る。

病院の概要や歴史を話している。ネットで調べて書かれた原稿だ。


「では、中に入って見ましょう」


診察室のドアを開けて、中に入る。


「 あ、すいません。ちょっと、撮影に来てまして」


富士見さんが中待合の誰も居ない長椅子に頭を下げて挨拶をしている。

桜木が、ビデオカメラを向けると、二体の光の粒子の塊が映っている。


 ドアの中は、中待合になっていて、その向こう側が診察室だ。

一応、車椅子が通れる大きさには開くようになっている。


「こちらの方達は、未だに診察をして貰うのを待っているようです」


富士見さんがカメラに向かって話しかける。


 そう言って、足元を確認しながら、奥の診察室に入って、ぐるっと回りを確認して、カメラに向かって何かを喋ろうとした時、後ろを何かが通った。


桜木は、光の粒子の塊が通っていくのが見えていた。

富士見さんは、慌てて振り向いて、その何かが移動するのを確認していた。


 そして、カメラの方を振り向いて、


「ここも、特に異常は無いようですね」


と言った。


「嘘だ! 今、何かを見てたじゃねぇか!」


「矢嶋、黙ってろ! 撮影中だ!」


照明係の二人が喋り出した。矢嶋先輩と佐藤先輩だ。


「え? 霊体が二体そこに座っているのと、今、後ろを誰かが通って行っただけよ」


富士見さんが、思わず素で返している。


「止めてくれよ。何年撮影してるんだよ。素人かよ」


桜木が怒ってキレている。


 勿論、桜木には、計算尽くで喋ったのだ。桜木のカメラの映像には光の粒子の塊が映っている。それを富士見さんが見ていたのだ。非常に説得力のある映像だ。

そこにあのコメントだ。矢嶋先輩の突っ込みも入っている。

もうこの映像で、この病院に霊がいる事は、視聴者は信じ込んでしまうのだ。

ツカミの映像としては十分だった。


 それから、各診察室と点滴室、救急外来と救急処置室を回ると、処置室と外部との扉は鎖と南京錠で厳重に閉じられていた。ここに数体とその奥にある、家族と残念な事になって退院する患者の待合室では、何体かの霊が待っていた。


 小さな病院では、霊安室とかは作られていないのだ。

頼んだ寝台車の来るのを、家族とここで待つことになる。


「特に怪しいところは見られませんでした。本当に、この病院で、鏡面世界からの侵略が行われているのでしょうか。次は、二階を周って見たいと思います」


富士見さんが、視聴者に報告している。


 全員で一塊りになって、階段のある辺りまで戻って来ると、照明で待合室の方が明るい。その奥で、俺が座って勉強している。


 桜木が持っているカメラには、待合室をふらふらと動き回る光の粒子の塊が映っている。


「おい、藤波。そっちは何も無いか?」


「ああ、静かなものさ。おかげで勉強が捗るよ」


桜木が心配して声を掛けて来た。


「俺たちは二階に行って来るぞ」


「おう!」


俺は軽く手を上げて答えておく。


「あのお爺さん達は、勇人には見えないし聞こえないから大丈夫よ」


「本当だ。幽霊の横で手を振ってやがる」


葉月と桜木は、笑いながら納得した。


 撮影班は二階に上がる。手術室とICUと事務所だ。実は、病院では手術中に亡くなる人は少ないのだ。

一旦、手術が終わり、ICUで過ごしている時に、容態が急変するのだ。


 その為、使われなくなった手術室はオドロオドロしいが、意外と霊体は少ない。逆に、ICUの方が霊体は多い。

自分の死を受け入れられずに、そこに居続けているのだそうだ。


 二重になっている扉を開けて、手術室に入る。間の部屋は、ストレッチャーが入る大きさがある。

ここからは清潔区域だが、自動ドアも開けっ放しになっており、当時の面影は無い。

壁に、どこかの馬鹿が肝試しに来て、書いて行った夜路死苦の落書きが有る。


 手術室の中も、特に異常が無かった。ヘルメットを被ったライダー姿の男が立って居ただけだ。

 勿論、そんな姿で手術をするはずがなく、亡くなった時の格好では無い。

彼が、ライダーだった事を訴えているのだ。誰も来ない廃病院の手術室で。


 富士見さんは、マルッとそれらを無視して、特に異常がないと言い切っていた。


 次は、ICUだった。

壊れた二重の自動ドアの隙間から中を覗くと、取材を拒否した。


「やめておきましょう。ここは、タチの悪い霊がいます」


と言い切った。

栃原部長代理と瀬戸山さんも、中を覗いて同意した。


「はじめ、ここはダメ。入ったら、取り憑いて来るわよ」


「なんだ、残念だな」


桜木が一通り室内を映して帰ろうとしたら、矢嶋先輩が言い放った。


「どうした。これを取りに来たのだろ」

「ヤバイからと止めていたら、良い絵は撮れないぜ。もちろん俺には何も見えないがな」


矢嶋先輩が煽ってきた。

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