表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

176/215

桜木の先輩 その176

「ところで、藤波君は瀬戸山のどこが好きなのかな?」


「ええっと、人として尊敬できて、責任感もあって、立派な人物だと思います」

(アハン、俺だって適当に話をはぐらかせることができるんだぜ)


俺はドヤ顏で葉月を見る。


 栃原部長代理はにたりと笑い、葉月を見て聞いて来た。


「藤波君、行動パターン 137ーΓーDL3 って何? わかりやすい言葉で教えて」


「ああ、葉月の行動パターン 137ーΓーDL3 はですね。131から149までは俺が……。」


突然、葉月が右腹を突いて来た。


 見ると、首を横に振っている。


「先輩だからって、信用しちゃダメ」


「あははは、藤波ぃ、お前、ダメダメじゃん」

「なぜ? その辺が解んねぇんだよ」


「俺の何が解らないって?」


 その時、目の前に車が停まった。白いハイエースだ。


「おい! 桜木!」


どうやら、車を出してくれる事になった、桜木の先輩達のようだ。


 我々は、オカ研の先輩達に挨拶をした。桜木と運転手の佐藤とは面識があるようだが、もう一人とは初対面らしい。学校もクラブも違い、佐藤先輩の大学での友人らしいのだ。

名前を矢嶋と言うらしい。


 ハイエースのリアハッチドアを開けて貰い、俺たちは撮影機材を積み込んだ。


 運転手が佐藤先輩、助手席が桜木。

二列目、右側が俺、中央が矢嶋先輩、左が葉月だ。

三列目、右側が富士見さん、左側が栃原先輩だ。


 目的地は、栃木の廃病院。栃木の廃病院と言えば、そっちの方の人には有名らしい。桜木情報によるので、信憑性は定かではないのだが。


「藤谷はどうしているんだ?」


「今日は、相模川にカバを追いかけに行っています」


「オカルトは、足で調査するのが基本だからな」


佐藤先輩は、藤谷部長の事も知っているようだ。


「この寒いのに、東京にカバがいるのか? ああ、神奈川か」


矢嶋先輩が絡んできた。


「目撃情報がネットに有るのですよ」


「無い、無い。夜は最低気温は氷点下だぜ。裸のカバが生活出来るかよ」


「だから、オカルトなのですよ」


「ばっかじゃね。今日も、これ鏡面世界からの侵略って無い無い無い」


「それが、これも報告が数件上がっているのですよ」


「佐藤、お前も、お前の後輩もやっぱり馬鹿だな」

「魔法だ。宇宙人だ。幽霊だ。って、ちゃんと目を覚ませよ」


どうやら、矢嶋は俺と同じ何の能力も無いらしい。


 矢嶋が、車内の空気も読まずに愚痴っている。


「このまま遊びに行こうぜ」

「なぁ、なぁ、君も遊びに行きたいよな」


矢嶋が葉月に、ロケは止めて遊びに行こうと誘ってくる。


「幽霊なんて居ないって、正体見たり、枯れ尾花だって」


「矢嶋先輩、行ってみないと解らないじゃないですか?」


桜木が遠慮がちに抗議している。


「行かなくても分かってるよ。幽霊なんて見た事あるか? なあ佐藤」


「矢嶋、見えないけど、居るんだよ」

「それを撮りに行くのだよ」


「お前、二十歳にもなって、何言っているの?」

「オカ研って笑うわ」

「何を研究しているんだよ」


「それが、証明できそうなのですよ」

「霊魂が映るカメラを手に入れたのです」

「矢嶋先輩、今度の動画を楽しみにしていてください」


「桜木、やったなぁ。この前の動画は、凄かったよな」

「俺も見ていて興奮したよ」


「で、取り憑かれないように彼女同伴なのか?」


「ええ、あれ以来自由に取材に行かせて貰えないのですよ」


「君はあの時、取り憑かれてたものな」

「矢嶋、この子達は全員魔女だよ」

「こいつの安全を守る為について来ているんだよ」


佐藤先輩は、桜木の動画を見ているようだし、色々と過去の事も知っているようだ。


「ええ? 君も魔女なの?」


矢嶋先輩が葉月に聞いて来た。


「ええ、まあ、一応」


「じゃあ、夜中に箒にまたがって空を飛ぶんだね」

「あれって、ほら、女性の、気持ち良いことだって言うじゃない? 本当はどうなの?」

「気持ち良いの? 痛いの?」


「……。」


葉月は俯いて答えない。


「先輩、その娘の彼氏がここに居るので、気を付けて発言してください」


俺は、参考書から目を離さずに喋った。もちろん、葉月へこれ以上話ささないようにだ。


「え? おまえ、君が彼氏なの?」

「彼女は君じゃ満足していないってさ。もっと頑張ってあげなきゃ」


「大丈夫ですよ。十分満足していますよ」


俺は、答えるが、矢嶋先輩は俺を無視して葉月に話しかけている。


「うそ、うそ、だったら箒なんて使わないでしょ」

「俺と居たらいつでも満足させられるよ」


「葉月、そいつは桜木の先輩の友人らしいんだ。せめて、行きの車内は我慢してくれ」


矢嶋が葉月にいやらしく絡むので、俺は我慢するように、葉月に頼んだ。


「大丈夫よ。分かったから、行きの車内も、帰りの車内も、向こうでも、勇人は何もしないで」


「え? 何? 彼氏ちゃん、俺は向こうで、君に何かされるのかな?」


「ああ、桜木の話が本当なら、俺は何もしないよ」


俺と葉月は矢嶋先輩を無視して話している。


「矢嶋、止めろ! 子供相手に何をしている!」


佐藤先輩が止めに入る。


「先輩、止めてくださいよ。あいつ怒っちゃたじゃないですか」


「悪い。怒らせてしまったな」


「なにぃ~? 彼氏くん、怒ると怖いの?」


「殺されますよ」

「文字通り、瞬殺で」


後ろから、栃原先輩が声をかけて来た。


「人間、瞬殺なんて無理なの。分かる?」

「即死でも、本当は、少しの間は生きているんだよ」

「瞬殺って殺されて見たいな」


「大丈夫ですよ。勇人には何もさせませんから」


葉月が、矢嶋先輩に謝っている。


 俺は俯いて、何も答えない。

佐藤先輩が車を止めた。


「矢嶋、前に来い。桜木、後ろに行け」


佐藤先輩が、矢嶋先輩を俺達から離れさせた。


「矢嶋、お前、高校生相手に何やってんだよ」


「ああ、夜中に肝試しって、そう言うものだろ」


「肝試しじゃねーよ。取材に行くっつってんだろ」


「お前、幽霊って、マジ信じてるのかよ」


運転席と助手席で、佐藤先輩と矢嶋先輩が言い合っている。

桜木は、葉月と俺に謝っている。


 嫌な空気を乗せて、ハイエースは街中から山道に入って行く。

佐藤先輩は、件の廃病院を知っているようで、ナビも見ずにサクサクと車を進めて行く。


 時々、栃原先輩と葉月と富士見さんが一斉に同じ窓の外を見る事があった。桜木と俺には何も見えても聞こえても居ないので、三人の動きで気付くのだった。


 車は、山道からも外れて、傷んだアスファルトの道に入って行く。

両脇の木々は手入れされておらず、好き勝手に生え放題だ。


 少し進むと、中央が花壇になった広い空間に出た。もちろん、中央の花壇は草が生えており、低樹木が一本二本と生えている。


 ハイエースのヘッドランプに照らされて、始めてそこが病院の正面玄関だとわかる。

鉄筋4階建ての白い建物が建っていた。

 一階の玄関と窓は、全てベニア板で塞がれ、上から木の板が打ち付けたあった。


 車を正面玄関横に停めて、佐藤先輩が言った。


「桜木、着いたぞ」


「はい」

「藤波、機材を下ろしていてくれ」


そう言って、桜木は病院の外観を撮りに行った。


 俺達は六個のアルミケースを車から下ろして休憩する。


 佐藤先輩が車を病院から離して止め直した。

エンジンを切って、ヘッドライトとフォグライトを点灯させる。そして、ヘッドライトにタッパを貼り付けた。

食品を保存しておく容器だ。車のヘッドライトの灯りを乱反射させているのだ。


「良いだろう。これ。100均で作ったのよ」


「中が溶けませんか?」


「LEDだから、熱が少ないし、大丈夫だろう」

「実験では、15分は保ったぞ」


そう言って、佐藤先輩はフォグライトにもタッパを付けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ