オカ研の取材 その175
栃原魔法部部長代理は、自分の倶楽部をそこそこに、剣道部で練習していた。
この前の一件により、高安さんと親しくなったので、練習にお邪魔している様だ。
瀬戸山さんも槍か薙刀の練習をしている。あの長さの物を振り回すには剣道場が適切だからだ。
が、なぜ? 桜木と俺がいるのかはわからない。
俺は、科学部と機械工作研に、この間の反省も含めて、武器の製造の依頼を出していた。
科学部の鈴木は、こう言う話の飲み込みが早い。もちろん有料だが、こちらの意図を汲んだ完成予想図を示してくれる。
その話の途中に、桜木に剣道部道場に呼び出されたのだ。
桜木はまだ剣道の練習をしているのだが、俺は先日有った大学共通試験の問題を解いている。今日で10回目を超えており、もう一問一句暗記している。
「藤波ぃ、お前はどうしてこんなところに来てまで、勉強しているんだ」
小休止を取りに来た桜木が、俺に話しかけてくる。
「桜木ぃ、お前はどうして勉強している俺を、こんなところに呼び出すのだ」
噛み合わない会話で、お互いの相手の非難が続く。
「いや、実はこの週末に、以前言っていたロケに行くのだよ」
「OBの先輩が車を出してくれる事になったんだよ」
「で、」
「そのロケにな、優希が付いて来ることになったんだ」
「そしたら、瀬戸山さんも付いて来るって言い出して」
「じゃあ、お前もどうかな? って思ってさ」
「断わる!」
「第一、葉月は自分からその様なところには行きたがらないのだが」
「お前ら、何か言っただろう」
「鏡面世界からの侵略だぜ! そんな所に行く、自分の彼女の事が心配じゃ無いのかよ」
「だから、葉月に何か言っただろうって」
「それに、鏡の向こうに異次元なんて無いから。荷物持ちなら、お前のところの部長を誘えよ」
「駄目なんだ、今、カバを追ってるんだ」
「相模川で、カバの目撃情報が数件上がってるんだよ。今、それを追って、昼夜張り込んでいるんだ」
「え?」
「不思議だろ。一月の神奈川県だぜ。アフリカ原産のカバが居るはずないんだよ」
「灯台元暗しだな」
「え、何か知っているのか?」
俺は高安さんを指差して言った。
「今度、いつ泳がすのか聞いとけよ」
「どうしてだよ?」
「何を泳がすのだ?」
「その時に撮影に行けば良いだろう」
「今、相模川で泳いでいるカバの話をしているのだろう」
「何を言ってんだよ。週末、来るだろう」
会話は聞かれて居ないはずなのに、指をさされた高安さんが笑っている。
そして、またいつものメンバーで行くことになった。
冬の夕暮れは早い。とっぷりと日が暮れても、まだ5時過ぎだ。
俺達は、橋本駅のロータリーで待ち合わせをしている。事前に学校に寄り、オカ研から撮影機材を取って来ている。
俺と桜木と富士見さんは、両手両肩にアルミコンテナを持っている。
栃原先輩と葉月は遅れている。自分達のクラブがあるので、遅れて合流予定なのだ。別に遅刻しているわけではない。
「重いな。ところで、お前のところの部長は?」
「今朝から、相模川で張り込みをしているよ」
「今日こそ見つかるような気がするのだって」
「剣道部の高安さんは?」
「は? 知らないけど、クラブだろ」
「今日も空振りだな」
「どうしてだよ」
突然、富士見さんが聞いて来た。
「藤波君は、瀬戸山さんのどこが好きなの?」
「どこ?」
「どう言うところか聞いてるのよ」
「クラスメート?」
「クラスメートなら誰でも良いの?」
「違うよ。どう言うところに惹かれたの? って聞いてるのよ」
「俺の護るべき対象で、俺のことを好きになってくれたから? かな」
「護るべき対象って言うのも解らないし、好きになってくれたら誰でもいいの?」
「いひひひぃ、ひいぃ、ひいぃ」
「藤波に、そんな質問は無理だよ」
「感情を分析されて、答えられるぞ」
桜木が腹を抱えて笑っている。
「ふん、そうだな。初めはクラスメートと言う理由だけで守ったのだが、今はもう、護るべき人になっているな」
「出会った時は、誰でも良かったが、この地球上で、俺の事を好きだと言ってくれる人は葉月一人だよ」
「どこが好きかって言うのも、葉月の行動パターン、137ーΓーDL3の時に、俺への愛情を感じるんだよ。これは絶対だよ」
「何? その行動パターンって」
「俺なりに、葉月の行動パターンを簡潔にまとめたものだよ」
「ヒィ、ヒィ、シヌゥ~」
「簡素なのに137パターンもあるのかよ」
「人の思考は複雑だからな」
「それでも、ざっと250から400パターンにはまとめられるぞ」
「馬鹿じゃないのこの男、どうして、この男を好きになれるのか理解出来ない」
その時に、遅れていた栃原先輩と葉月達がやって来た。
今、魔法部は大人気で、入部ラッシュなのだそうだ。特に、中等部からの入部が多いのだそうだ。
魔法部の出場する大会は、大きく四つ有る。
魔法使いの弟子
これは、掃除、洗濯、調理を手を使わずにこなす競技だ。
魔法調理
これは、調理を手を使わずに魔法で行うのだが、味付けも採点対象だ。
チンカラホイ
これは、アルミのパイプをラケットにして、紙で出来た正六面体をバトミントンの様に打ち合う競技だ。
魔法道
これは、魔法の杖を使って、魔法で相手を倒す格闘技だ。
魔法部の部員は、これらの競技の練習と、魔法の修得、向上に努力している。
しかし、校内外でアルバイトに行く事もあり、クラブの活動費の捻出を行なっている。
「どうしたの? 何を騒いでいるの?」
「こんにちは」
栃原先輩が俺達に挨拶をしている。
「こんにちは」
葉月が富士見さんに挨拶をしている。
「 あ、先輩、こんにちは」
「違うんですよ。この男がおかしくて」
「あら、藤波君がおかしいのは普通じゃない」
「……。」
「そうよね」
葉月は絶句し、富士見さんは納得していた。
「瀬戸山さんのどこが好きなのかを聞いたら、行動パターンの百何番って言い出して」
「あら、それなら普通じゃない」
栃原部長代理は、至って真面目な顔で答えた。
「藤波君はそんな子よ」
「ねっ」
「ねって……。」
「ひとにそんな恥ずかしい話しないでよ」
栃原部長代理の回答に不満そうにしていた葉月は、俺を一人呼び出して叱り出した。
「聞かれたから」
「聞かれても答えちゃダメ」
「適当にはぐらかすの」
「解った?」
「ああ」
俺が解放されたら、栃原部長代理が聞いて来た。
2021/10/07/4時に第170話を追加しました。
スマホから投稿すると、話が飛ぶなぁ。
ブックマークをありがとぷございます。
この頃は毎日登録して頂いています。
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