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172/215

伝馬船 その172

 辺りの雪を舞わしている風が俺に向かって吹いて来る。

風の中に、10cmぐらいの小さな女の子が、シースルーの服をなびかせて飛んで来る。風の妖精だ。

向こうの山から、こちらの山から、前の山から、後ろの里から、俺に向かって吹いて来る。飛んで来る。

そして、矢の矢束を縦軸に、周りを回り始めて小さな竜巻を作る。


チリリリチリチチリチリチリリ!

パサパサパパパサパサパパパパサ!


 普通、竜巻は中心付近が吹き上げる風だが、この風は、矢を吸い込む様に吹いている。


そして鈴が揺れ、お札がはためいている。


(ダイソンかよ!)

(お札が千切れるわ!)


グゴッーーー!


 サザンに強化して貰っている俺の体でも、立っているのがやっとの状態になって来た。

鬼の様な腕をした巨大な妖精が後ろに何十人と立っている。風の神さん、いわゆるジンだ。


ガン!


「前部防御シールド60%消失」


サザンは、この状況でまだ遊んでいる。


(スライムって冗談をするんだ)


俺は素直に感心した。

 冗談は、本来ある常識と違う事をワザとして、その可笑しさを楽しむものだ。つまり、サザンは人間の常識を学習していると言う事だ。


 俺は、破魔矢の後ろに、指輪を使って水を作成した。

もちろん、このままでは作られた水は地面に落ちる。

なので、落ちる前に、


「光子魚雷発射!」


俺は弦から指を離し、フェイザー銃を最強で発射した。


 俺のフェイザー銃は、光弾が50発連射し、人の目の残像利用してドラマの様な光線銃に見える様に作ってある。


 指に引っ掛けている弦を離し、水に向かってフェイザー銃を撃つ。光弾数発で水は蒸発し、水蒸気になり、その水蒸気に光弾が当たる。通り過ぎた光弾は魔法障壁に当たって跳ね返される。跳ね返ったエネルギーは、また水蒸気の分子に当たる。

 水の分子は高温高圧になり、そこに、次々と光弾が撃ち込まれる。水は気化すると、体積は1700倍にもなる。しかし、物理障壁で覆われているために、破魔矢を押して広がるしかないのだ。

つまり、水蒸気爆発を利用して、破魔矢の推進力にしたのだ。


 しかし、実在する物を動かすには時間がかかるのだ。そこに光弾のエネルギーが供給され続ける。高温高圧高エネルギー状態になり、電子が陽子から離れる電離が起こる。いわゆるプラズマ化という現象だ。

温度は一万度と言われ、あまりにも高温の為に光を発する。


 破魔矢は、真空状の竜巻のガイドの中、目の前1m程の距離にある青く錆びた真鍮製の鏡に向かって飛んで行く。

キラリ! と白く光る光が、音も無く斜め前に落ちて行く。


ガワンッ!


爆音がして、一気に広がった水蒸気が漏斗状の竜巻に飲まれて行く。



「どぉうわぁつうぅ!」

「オオオォー!」


俺が断末魔の悲鳴をあげ、サザンの悲鳴が俺の頭に響く。


 矢は、錆びた真鍮の鏡を貫いて、矢束を半分まで地面に埋まって止まった。


「ぐぅわああぁぁー!」


俺は仰け反って、倒れて雪の中を悲鳴を上げて転げ回っている。


 矢が鏡に刺さった瞬間、神泉深山玉水姫之命消えた。断末魔の悲鳴がしたり、恐ろしげな表情をする事もなく、すうっと見えなくなり気配も消えた。


 中央部で折れて燃えている弓を持って、俺は雪の中を転げ回っていた。


「勇人!」


葉月が俺の方に走って来る。


「藤波君?」


栃原先輩が心配そうに声を掛ける。


「藤波!」


蘇我さんの声が聞こえてくる。


「……じょお〜れんのた〜き……。」


本日、3回目の天城越えが止まる。


「勇人! 何をしたの?」


葉月が、雪の中を走って寄って来た。


「熱い! サザンを、サザンを診てやって」

「俺は大丈夫」


俺の制服の上着とカッターシャツと下着のシャツが、前方部分が燃えて無くなっていた。


 両腕の内側と胸と顔が大火傷をしており、赤く皮が剥けている。

特に左手の親指と人差し指は骨が露出しており、先が無くなっていた。


 雪の中に倒れると冷たくて痛みが引く。

激痛の中、右手でウエストポーチから、医療用トリコーダーを出し、チェックさせる。

チャンネルを変えて、サザンを診断する。


一部炭化している様だ。


 憑依を解き、少し露出させ、そこに回復と再生のハイポスプレーを打つ。

その後、指輪に戻させた。


 次は自分だと用意してると葉月が来た。雪をかき分け、転びそうになっている。


「勇人! 動かないで!」


「ありがとう。これを使って」


俺は医療用トリコーダーを渡そうとしたら、水を掛けられた。


 俺の50cm程の上空に大量の水を生成してくれた。あとは自由落下するだけだ。


(積雪の山の中で水を掛けられたら、死ぬわ!)


「葉月! 葉月! 落ち着け」


「何? 大丈夫?」


「火傷に、いきなり水を掛けてはいけないよ。今回は問題ないけど、何の薬品かよく確かめないとね。症状が悪化することも有るんだ」


「え? 大丈夫?」


「ああ、気持ち良かったよ。この後は知らないけどさ」

「で、落ち着いたら、これを使って回復させてくれ。こっちの方が早いからね」


「本当? 大丈夫?」


プシュッ! プシュッ!


回復と再生のハイポスプレーを、今度は俺に打ってもらう。


 左手や胸や腕が光に包まれて、痛みが薄れて行く。


 俺は、まだ雪の上に上半身の前が裸のまま寝かされていたのだ。


「あいつはどうした?」


俺は聞いてみた。その後どうなったのか俺は見えていなかったのだ。


「消えたわよ。気配も何も」


「死んだのか?」


「さあ、分からないけど、消えてしまったわよ」


 灯りは、桜木のカメラのライトと、皆のスマホだけである。

桜木は、何かあるのかと思って、ずっと撮っていたようだ。


 辺りを見回しても、祠の辺りにも、背後にも、あの女性の姿はない。

俺は、堤防を駆け上がって、池の中を見ると黒い人影はまだ立っていた。

ただ、ワサワサと何やら動いて、おかれた環境の変化に動揺している様だ。


「栃原先輩?」


「何?」


「例の爺さんを呼んでもらえますか?」


「爺さんって、御使よ」


「三途の河の渡し人じゃねぇか。金をしっかり取るんだぜ」


 栃原先輩と葉月が何やら儀式を行っている。

俺は堤防に立って、池を眺めて居た。


「我は千日坊なり〜」


「じゃがましい! お前は阿呆陀羅経でも唱えてろ!」


火傷を負ったところがピリピリと痛いので、ついつい荒くなる。


「アホ……。アホ……。」


千日坊が口をワナワナと震わせている。


「ああーん、あほだらきょうは命日には、まだ出来て無かったですか? あーん!」

「今、送ってやるから黙っとけ!」


「……。」


ゴン!


俺の後頭部に、伝馬船の舳先がぶつかって、船底が俺の後頭部を擦る。


ギィイィー。


船体を軋ませながら行き足が止まった。


「クソジジイ、いつも、いつも、人の頭にぶつけやがって」


スカッ!


俺が、手で船を払うと、俺の手は空を切る。

俺の頭に船をぶつける為だけに、船の舳先を実体化させたのだ。


「藤波君、御使様よ」


栃原先輩が俺を諌める。

メンテナンス中にブックマークをたくさん頂いて有難う御座います。

メンテナンス中にはブックマーク出来ないか。


私も覗け無かったので、よくわかりませんが、よろしくお願いします。。

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