倒すべき武器 その171
つまり、俺は、桜木以上に乗れていないのだ。
未だに、奴をどうにかする方法を考えているからなのだ。
皆の応援をされている栃原先輩は、上空から明かりで照らされている。
裸電球の灯りの様な黄色がかった色あいの光だ。
桐崎や高安さんも照らされているが、栃原先輩程強くない。
応援というか、支援される側の能力も影響されるのだろうか?
曲は、いつの間にか「インザムード」に変わっていた。
ガサガサ、バサバサ。
前で、立花さんが踊っている。
背中に大きなリュックを背負い、右手に紙袋を提げている。
そう言えば、どうしてこんな事になったのだろう?
この立花さんと名乗ってる女性は、どうして占いの館に来たのだ?
俺は、最初から、ずっと考えてみた。
そう言えば、俺の後ろから、占いの館の階段を駆け下りて来たのだ。それも助けを求めて。
(栃原先輩や占いのおばさんに何か言っていたなぁ。何だったかなぁ?)
俺は、何か抜けている様な気がして、今までの事をずっと考えていた。
物事を時系列に並べて、有った事実のみを検証して行く。
(彼女は、橋本神社で宣託を授かったと言っていた。それに従って、今日、助けを求めて来たのだ。
いったい誰が助けるのだ?
このままじゃあ、可能性が有るのは高安さんか?
地上に降りた途端に、ガーゴイルのガーデアンを吹き飛ばされて、ああ、この人は、大晦日からの二年参りに並んでいたのだ。
それを葉月達が見ていた。今、思い出した。
あの時に、占いのおばさんに会いに行く様に言われたのか?
そして、今日、会いに来たら俺達がいて、こうなったのか?
じゃあ、俺たちが居なかったら、
誰が立花さんを助けたのだ?
占いのおばさんか?)
「一度だけの恋なら、君の中で遊ぼう」
いつの間にか胡桃さんが歌っている。
(いや、その曲はオタだろう)
俺は、余計な事を考えてしまった。
(橋本神社の祭神は天照大神、鳳神社に菅原道真公。なんだ? 大鳥か?)
バサバサ、ガサガサ。
立花さんが紙袋を持って踊っている。
ん? 紙袋の中のお札や破魔矢が光っている。
(あれ、自分で連れて来ているじゃん)
「立花さん、一つ借りますよ」
俺は、立花さんが持っている紙袋の中から、破魔矢を一本抜いた。
紙袋より飛び出た羽が一番光っている物を選んだ。
チャリン、
矢じりの方にお札と鈴が付いている。
朱色と金色の印刷物の札が鈴に当たって、濁った音を立てている。
やはり、橋本神社の破魔矢だった。
神様の分身と言うか、力のある神器を連れて来て居たのだ。
いや、守っていたのか? 初めからこの予定だったのか? 多分、また、そう言うものの掌の上で踊らされている。
右手で破魔矢を持ち、雪の中を祠に向かって歩き出した。
「サザン、結界張るけど、耐えてくれよな」
「ユウト、多分、三度しか耐えられませんよ」
「ありがとう、穏便に話し合うよ」
俺は、サザンが作ってくれたお札で結界を三重に張った。
「ちょっと、勇人、どこに行くの?」
葉月が聞いてきたので俺は、左手を上げて、返事を返しておく。
「藤波君?」
「ちょっと、藤波、どこ行くの?」
栃原先輩と蘇我さんが聞いて来た。どうやら、憑依とかコントロールされていないかを心配している様だ。
「ちょっと、話して来ますよ」
俺は軽く答えておく。
三人の横を通りすぎると、すぐに鳥居の真ん前に来た。
小さな鳥居だ。鳥居の高さは、俺の胸の辺りになる。
橋本神社の破魔矢を右腋に挟み、
二回、深くお辞儀をする。
そして、二回柏手をして、
もう一度お辞儀をする。
「神様、お願いがあります」
「何じゃ?」
(なんだ、こいつ喋るのか?)
「あなたの供物の末裔を許して、諦めて頂けないでしょうか?」
「あなたの供物だった人は、もう居ないのです」
「それは判っておる」
「だから、その血族を贄にしておるのじゃ」
「それをやめて頂きたく、こうしてお願いに上がっております」
「あれは、我の供物だからな。誰にもやれんのじゃ」
俺は栃原先輩の方を振り向いたら、先輩は首を横に振っている。
この一時間と少しの間、この不毛なやり取りをして居たのだろう。
「じゃあ、もう良いです」
「一応、警告というか、念押しの為に聞いただけですから」
「なっ?」
神泉深山玉水姫之命は不機嫌な顔をして、こちらを見ている。
俺はウエストポーチからアーチェリー用の弓を取り出す。和弓じゃないところが残念だ。
先に張っとけば良かったのだが、予定して居なかったので、今、この場で弦を張る。
土の地面で作業すると、弓が傷付きそうで、嫌な気分になる。
作業の間、神泉深山玉水姫之命は俺には何もして来ない。立花さんを隠しているわけでも、攻撃しているわけでもないからだ。
ただ、俺の後ろの方で、沢山の犬の鳴き声がしている。あちらへの攻撃は続いている様だ。
弦が張り終わると、ブン! ブン! と弦を引き、から撃ちをして調子を確かめた。
弓と矢を右手で持ち、左手で鳥居を左に倒す。鳥居の右の足は腐り落ち、左の足はボロボロに腐っているが、こちらはまだ付いて居たからだ。
神泉深山玉水姫之命は、ギョッと目を剥いてこちらを睨んでいる。
社の修理に来る者はいても、さすがに、正々堂々と壊しに来る者はいない。
「すまんね。人は自分達に都合の良い物を神と奉り、都合が悪くなると鬼、悪魔と罵るのさ」
「もう、あんたは、我々から見たら都合が悪いのさ」
俺は、蛟に状況が変わったことを説明した。
俺は、右足で雪の積もった小さな社を蹴り倒す。この様な湿気の多い所に放置されていたので社の柱が腐っている。屋根だけが後ろに飛び、壁はそのまま崩れた。
そこには、緑色に錆びた鏡と御飯(オッパン、ご飯を入れる器)と湯飲みが有った。
俺は矢をつがえて弓を引くと、矢が短かった。破魔矢と言うのは飾り用の魔除けである。俺の体格ならば、1.1mは必要なのである。出来れば、もう少し欲しいぐらいだ。
それに、破魔矢には矢尻に鈴やお札が付いているので、短い上に一杯一杯まで引けないのだ。
「葉月、風の精霊魔法をこの矢に掛けてくれないか?」
バコーーン!
神泉深山玉水姫之命が、眷属の蛟を飛ばして来たのだ。
「前部防御シールドが30%消失」
サザンがふざけている。
「艦をこのまま保持、光子魚雷装填」
俺は、指輪を使って、矢の後ろに円錐状の魔法障壁と物理障壁を作る。
そして、俺の方が底になるように円柱状の物理障壁を張る。
注射器かエンジンのピストンとシリンダーを想像して貰えると解りやすいか。
そして、ウエストポーチからフェイザー銃を取り出した。
右手で持って、弦を引く。フェイザー銃の銃口は、矢の後ろに作った円錐形の魔法障壁を狙っている。
葉月が、妖精王の右手を振って、魔法をかけてくれている。
(何だ? まだ持っていたのかよ。そう言えば、返してもらっていないね)