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170/215

応援 その170


「ぎぃぃー!」


高安さんの目の前に大鷲が現れて鳴いている。全長4.5m、左右の翼長が9mにもなる。


 この大鷲は実在しているのである。先ほどの犬達とは違うのである。

魔法で、ちゃんと生成されて、実在された物質でできている。

体が大きいので、発声器官も大きく、鳴き声も自然に低音になる。そこは失敗だった。鷲らしくないのである。


バッサ! バッサ!


雪の中を二、三歩歩んで、大地を蹴った。翼長9mの翼を羽ばたいて浮き上がる。


 雪を巻き上げ、翼端では舞い散る雪が渦になっている。しかし、すぐには体が浮き上がれない。

これだけの大きさがあると重いのだ。

鳥が飛べる限界はアホウドリぐらいの大きさが限界だ。

それでも、滑走して勢いを付けて崖から飛び降りるのだ。鳩や雀の様にはいかない。


 空を飛ぶ物には、二乗三乗の法則というものがある。

大きさが倍になると、翼面積が四倍、重さが八倍になるのだ。


よって、この大鷲は物理法則だけでは飛ばないのである。そこで、魔法の飛行を掛けてある。つまり、羽ばたかなくても、ホバーリングや垂直上昇が可能なのである。


 その大鷲が、バッサ、バッサと羽ばたき、地面効果を使って、低空を滑空して行く。

蛟の神泉深山玉水姫之命と名乗る女性の頭ギリギリのところを飛んで行く。


 彼女は嫌悪感を丸出しで大げさに避けた。

蛇は、人から見れば強くて怖い生き物だが、以外と天敵が多いのだ。

猫科の大型獣や猛禽類は、蛇の天敵なのだ。その為、自分より大きな猛禽類が自分の頭上を飛ぶ事は、恐怖以外の何者でもない。


ビイィィー!


大鷲は上空を旋回し、鳴いている。


 俺は出来ることを全てし、ただ突っ立っている。

秋山さんや富士見さんと八人の仲間達も、ああ、高安さんが抜けたので七人の仲間達も成り行きを見守っている。

と言うより、出来る事が無かったのだ。


 新たに蛇が襲いかかってくると、犬達が襲いかかり、行き脚が止まると桐崎と高安さんが斬りかかる。


「凄いな、藤波ぃ」


「んん?」


「あいつら、切り続けてるよ」


「ああ」


桜木がカメラを回しながら、俺に話しかけてくる。


「俺達は、本当に何も出来ないのか?」


「ああ」

「出来ないどころか、本来なら見えないし、聞こえないだろう」


「ああ、悔しいな」


「あ、」


「なんだ?」


「有ったよ。出来る事が」


「なんだ、言えよ!」


「歌って踊るんだ」


「何だって?」


「歌って、踊るんだよ」

「盆踊りや踊り念仏と同じだ」

「花笠音頭やねぶた祭りで踊るだろう」


「ああ」


「踊るか?」


「踊るとどうなる?」


「栃原先輩や桐崎の力になる」

「やるか?」

俺は桜木と言うより、全員に聞いた。


「やろう」


桜木が返事をして、俺達は歌って踊る事になった。


 まずは俺から歌うことになった。

もちろん演奏は無い。アカペラで歌う事になる。そう、自他認めるところの大音痴の俺から。


 俺はみんなを見て、右手を上げて気合いを入れる。


「行くぞ!」


「おう!」

「おう」

「ほお」

「ヤーッ!」


 俺は返事を聞いて、息を大き吸った。


「ここで♫♪♩(自主規制中)」


「藤波ぃ!」


「ここでキス♫♪♩(自主規制中)」


「藤波!」

「踊れねぇよ」


「何?」


「どうしてアカペラなのにブルーハーツ歌うんだよ」

「踊れないだろ」


「え?」


「縦ノリのリズムが醍醐味の曲なんだよ!」

「演奏が無いと、お前が叫んでいるだけだろ」


「ああ、悪い、じゃあやり直すわ」

「行くぜ」


「…………。」

「雨に♫♪♩(自主規制中)」

「♫♪♩(自主規制中)ピックアップトラック」

「真冬の洗車場は♫♪♩(自主規制中)」


「藤波ぃ、藤波! 誰も知らない」

「誰のなんて歌だよ」


「え? 山口岩男のフローズンナイトだけど?」


「誰も知らないから踊れないじゃん」

「で、あの沈黙は何だよ」


「前奏だよ。あそこが良いんだよな。この曲は」


「良いけどさ、もっと、ポピュラーな奴なを頼むわ」


桜木がイラついている。


「ああ、そうか?」


「じゃあ、みんな行くぜ!」

「ついて来てくれよ」


「フェンスの♫♪♩(自主規制中)」

「投げ♫♪♩(自主規制中)」


「藤波!」


「♫♪♩(自主規制中)フォーリンラブ」



「いや、藤波!」

「さっき俺が言った事を聞いていたか?」


「どうして止めるんだよ」


「誰もしらねぇだろう」

「歌えないし、踊れねぇんだよ」

「解るか? 歌うんだよ。俺らも!」

「踊るんだよ。俺らも! 解るかな?」


桜木が相当切れて、文句を言っている。


「俺達も優希を助けたいんだよ」

「遊んでる暇なんかねぇんだよ」


「桜木君、そいつに何を言っても無駄よ」


秋山さんが、怒る桜木を諌め出した。


「葉月や真里亞がおかしいの」

「そいつの本性は、空気の読めない勉強馬鹿よ」


「私が歌うから付いて来て」

「踊りも一緒じゃなくて良いのよ」

「中学の授業で即興ダンスってしたでしょ。あれで良いの」


秋山さんが、皆に説明している。


「行くわよ」


「営みの、街が♫♪♩(自主規制中)」

「風が運ぶわ♫♪♩(自主規制中)」

「人♫♪♩(自主規制中)々の群れ」


秋山さんが「恋」を歌い出すと、俺と桜木以外の皆が、一糸乱れぬダンスを披露し出した。

もちろん、全員が歌っている。

そして、それを桜木は踊りながら撮っている。


 次が「恋するフォーチュンクッキー」だった。


「懐かしいね」


「俺、幼稚園で踊ったぞ」


など盛り上がっている。


アイコの「花火」、ミスターチルドレンの「hanabi」と続いた。


「次、私ね」


富士見さんが後を継いだ。


「カブトムシ」、「赤いスイートピー」、「絶対零度」と続く。


「次、わたしぃ!」


胡桃さんが言い出した。


 もはやカラオケ大会と即興ダンスバトルと化して、雪原の中で、九人は大いに盛り上がっている。


 立花さんが「遠くに行きたい」と「天城越え」を歌い終わった。

順番通り行けば、次は俺だった。


 右手を上げて、自分の順番だと主張する。


「じゃあ、次は俺が……。」


「藤波ぃ、あのさぁ〜」


「なんだ?」


「ノーボーダー!」


龍山部長が、突然歌い出した。「パラダイス・オブ・ノーボーダー」である。


「プップッパッパッ、プップッパッパッ」


口で、キーボードのパートを歌っている。


「チャッチャッパッパッ、チャッチャッパッパッ」


パーカッションを部分も器用に被せてくる。


「バッバッババッバッバッ、バッバッバッババ〜」


右手を軽く握り、上から左手を被して口に当てる、微妙に動かしながらサックスの声帯模写をしている。初めの方は音が甲高く外れていたが、直ぐに調整されていた。


 山本が手足や体を叩き出し、ドラムの音で入り出す。全身パーカッションだ。

日向がギターで入ると、いきなり盛り上がる部分だ。

富士見さんがキーボードで龍山のサックスと被ると、藤谷がベースを秋山さんがギターで即興スカパラダイスオーケストラになった。


 みんなハイテンションの曲に、演奏しながら、ノリノリに踊っている。


 桜木が悪い顔で笑ってくる。そして、皆の方を向き、撮影を続けた。



 見ると、秋山さんの体から、垂直に上に光が昇っている。

多分、ゴム紐ほどの太さの光で、明るい赤色、オレンジ色、これは1.5mぐらいはある。

黄色、緑色、青色は1mぐらい。紫色は50cmぐらいだ。

 足や胴からも昇っているのだろうが、実在する体と重なって見えない。


 富士見さんは、赤から黄色い光まで出している。

他の者は、暗い赤から明るい赤までで、登る光の長さも10cmと短い。


 桜木は、もっと短く、一番赤暗い。

音楽に乗っていないのだ。よそ事を考えているのだ。

それは、もちろんカメラのことだ。

 映像は感情では撮れないのだ。画角や露出の事で頭がいっぱいなのだ。彼には、もう出来上がった映像が見えているのだ。


 そして、俺には、赤暗い1cmぐらいの光が、ポツリポツリと昇っている。


2021/10/07/04時に追加しました。


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