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敵は その167


 玉の結界は、桜木の武器類と同じで呪いがかかって有る。

玉を手に持って、中の文字を読み上げると呪いがかかるのだ。結界の呪いが。

その為、魔法の道具を使える素質が無くても、結果的に結界を張れるのだ。


 俺は、立花さんがドームに入る様に、桜木にもっと寄る様に、手で合図を送る。


 次はサッカー部達だ。


「義」


と龍山部長が唱える。


「礼」


と日向が唱える。


 日向の横には秋山さんが寄り添っている。秋山さん自身は、心霊ごとは不得手らしく、一切口を挟んで来ていない。


「智」


山本が唱えた。


 これで、立花さんには、四重の結界が掛かっていることになる。


次にオカ研の藤谷部長だ。


「忠」


高く、玉を上げてくれているが、どれだけ手を上げてくれても出来るドームは半径2mなのだが。


「信」


次は、剣道部の高安さんだった。


「孝」


オカ研の胡桃さんが唱える。


 最後は、立花さん本人だ。

もう、七重に掛かっているので、呪いが発動しても見つからないだろう。


「悌」


立花さん自身が唱えて、ドーム状の結界が張られた。


 そこに、全体に何やら秋山さんが魔法を付与している。


 足元は膝ぐらいまで雪に埋まっている。サラサラと微かな音を立てて雪が降り積もる。

八人と俺は、そこに立ちつくす。する事がもう別に無いのがその理由だ。


 俺は、左手のひらを上に向けて、「さあ、どうぞ」と栃原先輩に合図を送る。


 栃原先輩が祝詞の詠唱を唱え始める。葉月が横で鈴を両手に持って神楽を踊っている。その後ろで、蘇我さんが祝詞を栃原先輩に付いて唱えている。


(葉月、その鈴はどこから出した? ニャンコポーチを使い倒しているな)


 桐崎が俺達の前で、刀を抜いて、俺達を守っている。その後ろで、靏見さんが桐崎の補佐をしている。


それらが、桜木の撮影しているカメラのライトに照らされて、雪のわずかに出来た凸凹の陰影に浮き上がっている。


 全て、俺には理解できない世界だが、それぞれが自分の能力にあった仕事をしているのだ。


 15分が経った。冷気がシンシンと足を伝わって身体に上ってくる。

俺達は八王子に占いに来ただけなので、制服なのだ。長野だか新潟だとかの山中に居る服装では無いのだ。

革靴は水を通し、ズボンのすそは湿って来ている。女子はパンストだけなので、もっと寒いだろう。


「おい、藤波。俺たちに出来ることはないのか?」


我慢出来ずに桜木が聞いてきた。


「無いよ。だから、始めから何も出来ないって言ってるじゃないか」

「黙って、見てろよ」

「無能な俺たちには何も出来ないのさ」


「そうか……。」


桜木は、また黙ってカメラを回している。


 桐崎が蛟から出てくる巨大な蛇を切っている。別に切り倒しているわけではない。ただ、攻撃してくる蛇を切って寄せ付けないのだ。

 飛んで来る蛇に刀を振り回して体に切り付けている。歯は立たないが、それでも切った所は鱗が飛び散って、傷になっている。

それで、蛇がこちらに来ないように牽制しているのだ。


 俺は桜木に話しかける。

「桐崎の奴すげえな。野神とは言え、神の眷属を切ってやがる」


「え?」


「稲荷社の狐や毘沙門天のムカデ、大黒天のねずみを切ってるようなものだ」

「普通は切れないぜ」


「そうなのか」

「野神って野良の神か?」


「違うよ。田畑や山の自然信仰のような神だ」

「伊勢神宮や出雲大社などより格が落ちるだけだ」


桜木は、ビデオに映っている、巨大な光るミミズに切りつけて、火の粉のような光の粒が飛び散っている映像を眺めている。

もちろん肉眼では、蛇の鱗が飛び散っているのが見えているのだ。


「強い、強い、とは思っていたが、あいつ人類最強じゃないのか?」


「そうなのか……。」


「ああ、最強の霊能者の作ったガーゴイルが一瞬で食われた奴だぞ。それに切り付けているんだ」

「そんな奴、普通居ねーよ」


「じゃあ、桐崎なら倒せるのか?」


「それは、無理だろう」

「レベルが違いすぎるだろうし」


 俺達は、まったく責任の無い傍観者だ。責任も権利も、いや、まったく実力の無い者達だ。

足が冷えてくる以外は、まったくのお荷物だ。


「どうする?」


しつこく桜木が聞いてくる。


「何も出来ないよ。来る前からそう言ってるだろう」


俺達は、蛟との交信に困っている栃原先輩を眺めながら無責任に話している。


「ですから、彼女はあなたの供物ではないのです。あなたの供物は、もう何十年も前に死んでいるのです」

「美鈴さんに言われても困るのです。彼女には責任が無いのです」


そりゃそうだ、事件があったのは大正時代。昭和、平成とゆうに90年は過ぎている。

今頃、責任を取らされても困るのだ。


「我は神泉深山玉水姫之命なり」

「我が供物を連れてきたのなら、ここに差し出すが良い」


 この15分の間、話がかみ合っていなかったらしい。


その時、池の方から声がする。


「我は千日坊なり。我を騙し、殺した善次の一族を七代祟ってやるぅ~」


「弱っ」


俺は、僧侶の亡霊の発言に、つい本音が口に出てしまった。


「え? 藤波? 七代だぞ」


「藤波君、彼等を刺激しないで」


「勇人、黙っていて」


「藤波、この状況を解っていないの?」


口々に窘められてしまった。


「七代だぞ」


桜木が小さな声で囁いて来た。


「あはは、昔は十代で結婚して、五人から七人ほど子供を産むだろう」

「じゃあ、ざっと百四十年前の出来事だろう。もっと昔かもしれない」

「多分、江戸時代末期か明治初期の話だろう。苗字を呼んでいないので、大体合っているだろう」

「で、一人につき五人の子を持つとすると、

二代目で五人、

三代目で二十五人、

四代目で百二十五人、

もう昭和なので、五代目を三人にすると、

五代目で三百七十五人、

六代目は一人っ子かな、

三百七十五人だ。

で、七代目、立花さんで三百七十五人。

合わせて、千二百八十一人を殺してきたことになる」

「まあ、あの弱さじゃ、病気で死んだ奴や天寿を全うした奴も多かっただろうけどな」


「ああ」


桜木が頷く。


「最初に善次を殺しておけばどうなる?」


「あ、善次一人で済むな」


「まあ、一人殺せば、その子孫は生まれないから、正確な数字じゃ無いけど、千人も殺さなくて済むんだ」


「七代祟るって、大変なのだなぁ」


桜木が感心している。


「馬鹿だから出来るのさ。ちょっと、ここが足りなかったのさ」

「はは、何が千日坊だよ。残念坊だよ」


俺は人差し指で頭を叩く。


「……。」


俺の話を聞いていたのか、千日坊が黙り込んでしまった。




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