発進! その164
俺は、ウェストポーチから、屋上にシャトルを出す。このウェストポーチの口から、コンテナの様な大きなシャトルが出て来るのだから、魔法って解らない。
「うおぉー!」
「きゃあ!」
「勇人!」
龍山部長達が口々に悲鳴をあげる。
俺は、それらを無視して、シャトルの後方に回り、出入り口のランプドアを開ける。扉横に付けたテンキーを操作するだけだ。このテンキーは俺のオリジナルだ。ドラマにはない設定だ。他人に勝手に使わせないために付けて有るのだ。
プシュー。
「どうぞ、入ってください」
俺は、入り口の操作盤を使って、最低限の照明を点ける。
「何よ、これ!」
「だから、シャトルだよ」
「まだ、製作中だから、黙っている様に言ったのに、桜木め」
「これが、飛ぶのか? シャトルだから」
翼が付いていないので、不思議と言うか、どう言う乗り物なのか理解出来ないでいる龍山部長が聞いて来た。
普通、日本人がシャトルと聞いて想像するのは、NASAのオービターだろう。
普通は、まさかアルミのコンテナが飛ぶとは思わないだろう。
「ええ、一応飛びます」
「未完成で、危険だけど」
「勇人、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃ無いから、断ったのだけど」
俺は、中に入って、壁のパネルを外し、中の発電機を起動させる。
クゥーン
小さな唸り音を立てて、発電機が動き出した。
発電機が動き出して数秒後、シャトル内のLED照明が点灯する。フワッと天井から暖かい風が吹く。エアコンも動き出したのだ。
「コンピューター、リアゲートを閉めろ」
「リアランプを閉じます」
うぃぃぃぃん、プシュ
リアゲートを閉めるように命令すると、AI風コンピューターの音声が復唱してリアランプドアが閉まった。因みに、作動音は演出で鳴るようにして有るのだ。
なぜなら、扉開閉の動力は魔法なので、本来は音がしないのだ。
「勇人、私、ここに来た事がある」
葉月が、突然言い出した。
「私も、来た事があるわ」
蘇我さんも、一度来た事があると言っている。
「ああ、文化祭の時な、桜木の一件で」
「あの時は、まだ、サイドバイサイドの転送が難しかったので、一旦ここに収容したのさ」
「葉月、前右に座って、蘇我さんはその後ろ」
「龍山部長は、後ろの予備椅子の方へ」
「その、同心円のところは空けておいて下さい。転送されて来ますから」
「ええ」
「ここ?」
「ああ」
「コンピューター、栃原先輩と立花さんを二名転送」
シャトル内中央部にある、同心円の描かれた床の上が光り出して、二人の女性が実体化する。
栃原先輩と立花と名乗った女性だ。
「きゃあーぁ~ぁぁ!」
立花さんが悲鳴を上げている。
俺は無視して、着席を勧める。
「栃原先輩は左前、あなたはその後ろに座って下さい」
「大丈夫よ。ここに座って」
葉月と蘇我さんと栃原先輩が彼女を落ち着かせている。
「コンピューター、秋山さんと靏見さん、桐崎の三名を転送」
続いて、三人が現れる。
「コンピューター、日向と山本と藤谷を転送」
「うぉぉ」
「ぐわぁぁぁぁ」
「どっ」
口々に、多分悲鳴を上げている。
「後ろに行って、立っていて下さい」
「その円を描いてある床から退いて下さい」
「コンピューター、胡桃さん、富士見さん、高安さんを転送」
「ぎゃあぁぁぁ~~」
胡桃さんが走っている姿勢で転送されて来た。どうやら、次々に転送されて行くクラスメートを見て、パニックになって逃げ出したらしい。
俺は、体勢を崩して倒れそうになる胡桃さんを左手で抱えて、立たせてあげる。
「ヒィ~、ヒィー! これって、エイリアンアブダクション? みんな誘拐されたの?」
「俺達と一緒に行くんでしょ?」
「ここはUFOの中?」
「いや、さっきのビルの屋上」
(ファーストコンタクトかよ)
「残念ながら、エンタープライズの中でも無いよ」
「何それ?」
「じゃあ、行きますか?」
「コンピューター、前部モニターオン」
「三百メートル迄浮上、北北西に進路を取れ」
シャトルはゆっくり上昇し、下方に緩いGを感じる。
「あの、藤波くん? はじめも連れて行ってあげて」
「チッ!」
「コンピューター、桜木を転送」
カメラを構えて天井を見ている桜木が転送されて来た。
「どこか後ろの方の床にでも座っておけ」
俺はぶっきら棒に言い放つ。
俺は、最前列のシートの間に立ち、シャトルに指示を与えて行く。
「高度維持、時速300km/hまで加速」
「ところで、俺は行き先を知りませんよ。行き先を教えてもらえませんか?」
「え? だって、今、北北西って」
葉月が不思議そうに聞いて来た。まるで、俺が行き先を知って居るかのように、不思議そうな顔をしている。
「さっき、上空に上がった時に、大体の方向の目安を付けていただけだ」
結局、栃原先輩と葉月が道案内をしてくれることになった。大まかな方向しか分からないと言うことなので、真北に進路を取り、三箇所で、大まかな目的地を調べて、三角法で場所を特定した。新潟県魚沼市の山の中だ。正確に言うと、魚沼市かどうかも分からない。長野市からは東北になり、魚沼市よりは西になる。
飛行中に、俺はシャトルに結界を三重に貼った。用心には用心をした訳だ。
「サザン、シャトルのモニターとトリコーダに霊視を掛けてくれないか?」
俺は、サザンに霊視の魔法を掛けて貰うように頼んだ。空中で撃墜されないために、相手の位置を知る必要があるからだ。
蘇我さんが、霊視の魔法が使えない者に霊視の魔法を掛けてくれる。呪文も唱えないし、身振りも無い。全くの無詠唱で次々に対象者の肩に触るだけで掛けて行ってくれる。
俺にも掛けてくれた。先程の魔法は、もう切れているからだ。
俺は、水晶球の御守りを魔法を使えない奴らに渡して行く。
先ず、立花さん、それに、サッカー部の三人、龍山、日向、山本だ。
桜木に、オカ研の部長の藤谷部長、剣道部の高安さん、オカ研の胡桃さんだ。
全部で八個。
シャトルが秩父の山の脇を抜けた頃には、辺りの景色が白くなって来た。
灰色の雲は低く垂れ込めて、雪が降っているところは、白い柱と言うか、カーテンがかかっているようだ。
高度は上げていないので低く、国道に沿って山を迂回している。自衛隊のレーダー対策だ。無線機も武器も遮蔽装置も付いていないのだ。高度を上げて見つかるわけにはいかないのだ。
因みに、速度は状況に合わせて落ちている。シャトルのゴーレムAIが判断して、安全な高度と速度を計算している。
「針路0度、山並みに合わせて高度を上げろ」
俺は真北に進路を取るようにシャトルに指示を出す。
今より、少し東に進路を変えていく。ここで、一旦進路を北に取り、もう一度目標点を調べるのだ。
「栃原先輩、俺が合図したらこのコンパスを目標に向けて、出た数字を呼んでください」
俺は、栃原先輩にコンパスを渡して、感じる蛟の位置を見るように伝えた。
これは、船舶で使うハンディコンパスだ。オイルの中に磁石が浮いていて、目標物を見れば、方位が分かる仕組みになっている市販品だ。特に魔法の品ではない。
すいません。
飛んでいた話を修正しました。
154話を追加しました。