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162/215

蛟を閉じ込める162


「ぎゃあああぁぁぁぁの、、あああぁぁぁぁ!」


よくもこんなに声が出るものだと思う。


 ぐっと内臓の込み上げ感を我慢して、葉月を強く抱き抱える。この高さで離れてしまうと、地上まで巡り会うことが出来ないからだ。


 宇宙という感じはしないが、八王子上空と言うより関東上空と言う感じだ。遠くの山々までよく見える。

その中を、北部の方から伸びて来ている、蛟の身体が発するマナの光の帯が見える。方向的には、長野か新潟、富山という感じか?

多分、本体があちらの方にあるのだろう。


 真下から蛟が登って来ている。

凄い執念だ。


(15キロ上空なんて、他に生物がいないぞ)


俺は、蛟の誘導に成功した事に喜んでいた。


 地表の対流圏は極付近で10キロ、赤道付近で17キロだ。日本付近で15キロと言えば、もう成層圏だ。

気温はー70℃。この付近を生活拠点にしている生物はいない。そして、ここまで上空に来ると、寒波の影響も受けないのだ。


 この何も居ない空間に、蛇か水の妖怪の蛟が登って来る。水分が無いので、上空は辛かろう。

そこが狙いだ。


「結界!」


俺は四角柱の形に結界を張った。蛟を閉じ込めたのだ。


 サザンの結界は、蛟の胴を切る事が出来ることを確認済である。

 サザンの結界は、蛟の力では突破出来ない事を確認済である。

 蛟の身体は、物質的質量を持たない事を確認済である。


 よって、サザンの結界に閉じ込めることが出来るのだ。


 俺は、葉月を抱いたまま、頭を下げて落下して行く。左手で葉月を抱きしめ、右手は身体の横に伸ばす。

足も揃えて伸ばしているので、葉月が抱きついて、足を俺の足に絡めている。


「くぅあああああぁああぁぁ」


葉月の髪とスカートがはためいている。


 俺たちは体をひねり、落下コースを変えて、蛟が閉じ込められている結界の横を落ちていく。


 落下が始まって数秒で蛟とすれ違う。俺は徐々に結界の幅と奥行きを狭くして行き、底を上げていく。

ただし、天井は、俺が落ちていく速度と同じだ。


 四角柱の結界の中を蛟が登って来ていたが、今度は俺たちを追いかけて下って来る。

別に物質の体が有る訳でないので、方向転換も素早く行って来た。


 マナの光を発しながら立っている蛟の胴体の横を、俺達は頭を下に垂直落下をしている。


 この成層圏の辺りは空気が薄いので、空気抵抗が弱く速度が出るとは聞いていたが、十秒もすれば首が折れんばかりの力がかかって来る。

 俺にはサザンが憑依しているので平気だが、これでは葉月の首がもげてしまう。

俺は、俺たちの前に、つまり下方に、半径70cm程の半球状の物理障壁を作り、後ろに円錐状の物理障壁のカバーを長さ10m程で付けた。

巨大なバドミントンのシャトルの中に居て、その中を落下する様なものだ。そうして空気抵抗と言うか、空気の衝撃を葉月に受けないようにした。


 しかし、これが悪かった。空気抵抗が少なくなって、ますます速度が速くなっていった。


「ぎゃあああああああぁぁぁぁ・・・」


(ん? 葉月が落ちたか? 声がやんだな)


 落下速度がますます上がって行く。

この様な形状では、エリアルールが有り音速は出ないが、ジェット旅客機並みの速度が出ているのでは無いかと思う。

 今、葉月を抱えている手を離すと、フリーフォールが出来るんじゃ無いかと思うが、意識を失っているし、吸い出されても困るので、考え直しておく。


 十数秒後、ドンと衝撃が走り速度が落ちて行き、シャトルの羽? の後ろに雲が発生している。雲は20m程で消えている。

 成層圏から大気圏に入ったのだ。

 落下速度が落ちると共に、雲は短くなり、発生しなくなった。


 しかし、この速度でも蛟は付いて来ている。この探知能力は素晴らしい。


 この速度で落ちて行くと一分もしないうちに地上に激突するので、本題に入る。

蛟の閉じ込めた四角柱の結界を、縦2cm、横1cm、奥行き3mm程度に小さくして、輪切りにした水晶柱に入れる。


 偽物のラフノールの鏡である。

偽物なので実体の有る者は入れられないが、霊体なら閉じ込められる。

今回は水晶を薄く切って、せめて形状だけでも本物に近づけて見たのだ。


 もう、八王子の街が目の前に迫って来ている。そろそろ限界だ。

体を起こして、水平にする。

物理障壁のシャトルが狭いので、背を丸め、脚を縮めた。

俺は胸の紀章を叩いて、命令する。


「コンピューター、二名転送シートに転送!」


辺りの景色が、八王子上空から雑居ビルの地下の廊下に変わる。


 四つん這いになっている俺の下で、葉月が仰向きで寝ている。手は俺の背中に回し、足は俺の足に絡めている。


 俺は、背中を丸くして、胸の位置にある葉月の頭を抱いた。


「葉月、もう大丈夫だよ。終わったよ」


 葉月の顔や髪の毛、服に霜が付いていく。多分、俺の顔も同じだろう。

ここから転送して一分二分しか立って居ないはずだが、身体は相当冷えていたらしい。


「葉月、大丈夫だよ」


再度、俺は葉月に呼びかける。


「ぎゃあああああさあああはあふぁあぁぁぁぁぁ」


意識が戻った葉月が悲鳴をあげる。


「もう、大丈夫だよ。葉月」


俺は頬擦りする様に、より背を曲げて葉月の顔に俺の顔を持っていく。


バタン!


部屋の扉が開いて、栃原先輩、蘇我さん、秋山さん、龍山部長が飛び出して来た。


 そこには、スカートがはだけてめくり上がり、股の間に俺にのしか掛かられて、腰を動かしながらキスを迫る俺から、悲鳴を上げて逃げる瀬戸山さんが居た。様に見えたのだろう。

肩まである髪は霜が付いて真っ白で、バッサバサに乱れて、涙目で悲鳴を上げている。


「大丈夫か! 瀬戸山!」


栃原先輩は駆け寄って来る。


「何やってるの!」

「葉月!」


火球が二発、俺の背に当たった。


「お前ぇ!」


俺の額には、サッカー部のエースストライカーの蹴りが命中した。


 思わずのけぞった俺の胸に、数発の氷柱と数発の火球が命中して、再度、蹴りが飛んで来た。

その間に、栃原先輩によって、葉月は救出された。


「何これ? 瀬戸山、大丈夫? 誰か瀬戸山を暖めて」


「お前、こんな時に何やってるんだよ。ふざけるなら帰れ!」


 葉月は栃原先輩に連れられて、部屋に入って看病されている。

俺には、龍山部長が見当外れの説教をして来る。


(だから、初めから、帰るって言ってるじゃん)


 扉の横で、俺たちが転送する前からカメラを回している桜木が笑い転げている。


「あはは。藤波、やったな。倒したのか?」

「と、エッチは二人の時にしておけ。それに、無理やりはダメだぞ。あはは」


「やっていないよ。ここに閉じ込めてある」

「コバヤシマルだからな。初めから勝てないのさ」

「で、葉月には何もしていないよ。何もしていないから、ああなったのだが、あんな環境で、あんな者と対峙して居たんだ。事前に説明したらやつに聞かれるしな」


 俺はサザンが憑依していたおかげで、火球やエースストライカーの蹴りの被害がないが、皆から信頼がない事が証明された。


 俺は、部屋に入った。歩きながら、水晶に結界を三重に張り、物理障壁と魔法障壁を張る。

そして、水晶自信を強化魔法を掛ける。


 占いの受付に並んでいる干支のお守りストラップの中から、蛇を選び結ぶ。


「それも売り物だって」


占い師の優子さんが言って来る。


「これをやろう。魔力が切れたらでて来るけど、だいぶ先だと思うよ」


「要らないわよ」

「どうするのよ。そんな物」


占い師の優子先生は、忌み嫌うようにこちらを見ている。


「桜木、オカ研の宝物にしとけよ」


俺は桜木に水晶を放り投げた。


「蛟を封印して持っているクラブなんて、探したって他にないぜ」


「無いのは、使い道がないからだろう」


桜木が迷惑そうに笑っている。


 俺は、壁を背に床に座り込んだ。

参考書とノートを取り出し、先ほどの勉強を続ける。


 回復した瀬戸山さんに何かを言われた栃原先輩がやって来て、静かに囁いた。


「藤波君、財布を出しなさい」


「はあ、如何してですか?」

「恐喝ですか? お金なんて持っていませんよ」

「なんなら、ポケットに手を入れたまま飛びますよ」


「ポケットに手を入れていちゃダメじゃない」

「音がしないでしょ」

「今騒ぐと瀬戸山が恥ずかしい思いをするわよ。彼女の下着代よ」

「楽しいところまで行って来たらしいじゃないの?」


「魔法協会の銀行カードを使って下さい」


俺が素直に財布を差し出すと、二人して出て行った。



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