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157/215

何者かが その157


 前方の方が騒がしい。ジャンケン大会が催されて居るようだ。

サッカー部の連中が、誰から先に観て貰うか揉めて居るようだ。15人も居ると、一番最後は何時間後になるか分からないからだ。


 しかし、ここは日向と秋山さんからだろう。何故、独り身の山本や龍山が騒いでるのだ?ここまで来て観てもらえないなんて、何の罰ゲーム?


カカカカカカカカッ!


突然背後から階段を走って下る音がする。


 くたびれた蛍光灯に照らされる大理石柄のリノリウムの床材の階段を、滑り止めに足を取られながら走って降りて来る音がする。などと文学的表現が似合わない女性が降りて来た。


 ベージュのコートに踵の低いパンプスに大きなリュックサックを担ぎ、紙袋にお札や破魔矢を入れて走って来る。

 背中まであろうかという髪を振り乱して、「助けて下さい!」とすごい表情で叫んでいる。


 瀬戸山さんは、彼女をチラリと見ると、その奥の壁を見ている。先ほど前を通った、ガネーシャ像が置いてあった壁だ。

栃原部長代理とオカ研の富士見さんも同様の方を向いている。顔の表情が強張って眼を向いているので、俺には尋常じゃ無いことが起こっているとわかった。



「どうされましたか?」


蘇我さんが戻って来て、その女性に聞いた。


「逃げて! 逃げて! 逃げて!」


「中に、早く! 逃げて! 早く!」


 瀬戸山さんが右手で俺の手を引き、左手で逃げる彼女を押している。

 栃原部長代理は、桜木を押して、突き当たりの部屋に入る様に促して逃げ出している。振り返り、振り返り、走り出している。

富士山さんが、女性の声を聞いて此方にやって来た蘇我さんを、元来た方へ戻る様に突き飛ばして、桐崎達を奥の突き当たりの部屋に入る様に叫んでいる。


「奥の部屋に逃げなさい! 早く!」

「男子! 部長! 早く奥の部屋に逃げなさい!」


 見えないもの達にとって、必死の形相の女性が走って逃げて来たからと言って、一緒に逃げる事など出来ないでいたのだ。


パリン! ガラン、カラン。


壁際に置いてあった陶器のガネーシャ像の置物が割れて床に落ちた。


 振り向いていた者は、何かがそこまで来ている事を悟った。飾り棚に飾ってあった像が先に割れて、破片が床に落ちたのだ。

ただ、尋常じゃない事が起こっている事は理解出来たのだ。



 ここは地下一階なので、出口の階段が後ろにしかない。前の部屋に飛び込んだとて、袋小路には違いないのだが、人の心理としては扉がある部屋の中が安心出来てしまうのだ。

 そして、15+1人は廊下の正面に見えているへやに飛び込んだ。扉の横には、「本日の占い『優子』先生」と書いてある。


バンッ!


「ちょっと、失礼します」


龍山部長が思いっきり扉を押し開けた。


「誰? 予約を入れられている方かしら」


受付嬢が、次々に入って来る若者を落ち着いて諌めようとしていた。


「良いのです。早く中にお入りなさい」

「貴方達は、一体何を連れて来たの?」


 青いヒジャーブを被りニカブを着ているが、金糸で星座の刺繍をして飾ってある。そして、紫色のインドのサリーのような物を上から羽織っている女性が何か遠く廊下の向こうを見つめている。

多分、この人がここの主人の優子さんだろう。もちろん顔立ちは、極東のモンゴロイドだ。


「ここは、結界で守られた清浄な空間です。何人も禍々しい物は入って……。」


 俺は、閉めた扉を右足と両手で押さえた。っとその時、グワングワンと地震が来た。ビルが、ビシッと音を立てて歪んで悲鳴を上げる。鉄筋コンクリートの柱にヒビでも入ったのだろう。


 その、多分優子さんと栃原部長代理と瀬戸山さんと富士見さんの4名が天井の奥、多分、一階と二階の間辺りを何かが移動しているかの様に見上げている。ゆっくりと首を回し、明らかに同じ何かを見ている様子だ。


「うおっ! デカイ! 大きなミミズか?」


桜木がビデオカメラを天井に向けて叫んでいる。


「はじめ! 静かに。」

「静かに、動かないで」

「黙って、騒がないでください」

「…………」



「蛇よ」

富士見さんが答える。


「蛟よ。蛟様ね」

瀬戸山さんが答える。


「神様よ。蛇の神様。所謂、蛟様ね」

栃原部長代理が桜木に解説までしている。


(そんなに、ミミズと間違えた事が嫌なのか?)


 俺は振り返るが、蛍光灯が明滅している以外は何も変わった事は起こっていないし、何も見えない。


 四人の視線が、一階の天井の壁際まで来た時、また、大きな揺れが襲って来た。


グワングワン


ビシッ、バキッ!


ビルが揺れて、壁か柱が悲鳴を上げている。


 瀬戸山さんが無詠唱で結界を張り直している。

部屋の四隅の盛り塩を順に指差している。


栃原部長代理も、結界を張り直している。此方は詠唱して、軽く身振りが付いている。


「結界ね。張り直すのね」


蘇我さんが、瀬戸山さん同様に四隅の盛り塩を順に指差して行く。

靏見さんと秋山さんがそれに続く。しかし、この三人は何も見えていないようだった。



「なぜ? 貴方達はなぜあの様なものに追われているの?」


一斉に、12人が、走って逃げて来た彼女を見る。


「俺達は追われていません」


と俺が答える。


「何にですか? 何が居たのですか?」


サッカー部の部長である龍山が答える。って、質問で答える。


「ああ、俺達は別です。占いに来ただけですから」


とオカ研の藤谷部長だ。


「静かにして! まだ、来るわよ」


栃原部長代理が、空気の読めない、能力の無い男共を叱りつける。


グヮガツン、グワングワン、グギュン。

バキッ、バキッ、ドン!


床が大きく揺れたかと思ったら、ビルが悲鳴を上げて揺れている。


「頭を下げて、しゃがんで!」


栃原部長代理は、手でしゃがみ込むように合図をして来た。


 何者かは分からないが、今度は地下一階の部屋の天井の高さを飛んで行く。

栃原部長代理の指導に従って、皆んなで道を開けている。

そこを、その何者かが通っているようだ。四人が天井を見ながら首を回して、目で追いかけている。


「大丈夫、結界内の物は向こうからは見えないから」


栃原部長代理が、皆を落ち着かせようと、声かけを行なっている。


「結界の外からだろう。中が見えないのは」


俺は、栃原部長代理の間違いを指摘する。


ガスッ!


瀬戸山さんが俺の脇腹にグーパンチを入れて来る。


「黙ってて。人を不安にさせないで」


グラグラと部屋が揺れる。

その何かが結界の外に出て言ったようだ。


四人と桜木の視線を見ていると、部屋の周りを大きく回っているようだ。


(そこ、隣のビルの地下か基礎なんだろうな)


俺はふと余計な事を考えてしまう。


グオングオン、ゆっさ、ゆっさ。


今度も大きな衝撃とともにビルが揺れる。


 今度は、低い高さを飛んで来る。人の肩の位置が奴の中心になる高さだ。


 見ると、瀬戸山さんが徐々に後ずさりしている。左右に逃げ回り、やつが蛇行して追い掛けて来ているのだ。まるで、首を左右に振りながら、何かを探しているような感じだ。それを諌めて、自分の方に誘導しているように見える。

 俺が見えているのは後ろ向きに歩く葉月と、それを見ている栃原先輩達の行動からの推測だけだ。

あの女性は、富士見さんと占い館の主人の優子さんが、守りながら手を引いて、逃げ回っている。


 俺は、体のステータスを強化して、手に魔刃を纏わりつけて瀬戸山さんの前に立ちはだかる。


「下がってろ!」

「………………。」


何も起こらない。


(あれ?)


 瀬戸山さんは、そのまま蛇行しながら下がっていって、こちらを見て笑っている。


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