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占いの館 その156


「藤波! 昨日はどうして俺を放り出したんだよ」


昼休みに桜木が文句を言いに来ていた。


「先輩とお前に貸したコミュニケーターを返せよ」


「ああ、後で持ってくるよ」

「ところで、あのカメラ、スゲェのが映ってたんだよ」


「ああ、頼むよ」


俺は、参考書に目を移しながら、生返事をしている。


「あのさぁ、ホームの下から手が伸びて来るところも映ってるんだぜ」


「ふん」


俺の気の無い返事が続く。

 参考書の気になるところに付箋を貼り付ける。付箋には日時と重要度のマークを書き込んでいく。


「でな、ヒヒに見えた向かいのサラリーマンに付いてたやつ、ヒヒじゃなかったよ」

「どうしてだろうな? ヒヒに見えたのに」


「人が見る映像は脳内で変換されるからな」

「知的で狡猾そうならヒヒ、自然霊ならイノシシ、騙されそうならキツネかタヌキ、恐ろしく命に関わりそうならヘビ、人間の味方ならオオカミだな」

「どこかでその様な話を聞いているので、その様に見えるんだ」


俺は、下を向いたまま話している。


「悪いな、藤波。退いてくれ」


顔を上げると、和田がまだカバンを持ったまま話しかけて来た。


「おはよ~」


俺は挨拶をして席を立った。


 俺と桜木は、教室の後ろの席で話して居たのだ。もちろん、ここは和田の席だ。俺の席は群衆に埋もれている。


 他教室どころか、二年、三年の先輩達も蘇我さんを見ようと、出来たら話をしようと集まっているのだ。

俺の席なんて居られる筈がなかった。


 教室を見ると、桐崎もカバンを持ったまま前の方の机に座っている。

俺の前の席だったので、自分の席にたどり着けなかった様だ。


「じゃあな、お前、もう自分の教室に帰れよ」


俺は桜木に自分の教室に帰る様に促した。


「おお、放課後にまた来るわ」


「来るなと言ってるだろ」


その時、朝の予鈴がなった。あと五分で本鈴が鳴って朝のホームルームが始まる。


 我が校の学期始めの二日間は、実力試験になっている。試験範囲は、今まで習って来たところ全部だ。

試験結果が、内申点や通知表には反映されないが、学年内の自分の順位が分かるのだ。

その試験前がこの風景である。みんな舐めきっていると言っても良いだろう。


 放課後、授業が終わると桜木がコミュニケーターを二つ持って来た。栃原先輩と自分の分だ。


「ああ、ありがとう」


「此方こそ、昨日は送って貰ってありがとう」


「じゃあ」


「じゃあじゃねぇーよー、どうしてだよ?」


「何がだ? まだ、用事があるのか?」


俺は机の周りを片付けて、必要な物を鞄に詰めている。


「このカメラに映っていたものに興味が無いのかよ」


「無い。共通試験が近いんだ。直前対策授業が有るんだよ」

「昨日はお前の所為で、講義のビデオを見ただけだったんだよ。今日はちゃんと受けさせてくれ」


「ああ、悪かったな」


桜木は、何かしょぼんとして帰って行った。



 翌日、10日の放課後、学校の最寄駅に、皆で集まり八王子に向かう。

今日は、クラブの有る者はいない筈なのだが、数人が遅れている。

クラブ活動はもう始まっているのだが、いや、冬休みから活動しているクラブが多く有るのだが、9日、10日の二日間は、試験中の為にクラブ活動を禁止されている。

しかし、闇クラブ活動を堂々と行なっているクラブもあり、10日なら空いていると答えた神経を疑う。


 俺は、授業が終わると、葉月と駅に急いだので時間通りに着いている。

魔法学科一年一組の連中も一緒だ。全員で誘い合わせて出て来たのだ。


 しかし、オカ研とサッカー部の連中が来ない。

少し待っていると、オカ研と剣道部の高安さんが一緒に並んでやって来た。


「お待たせ」

「待たせたね」

「待たせちゃったわね」


各々、各様に謝ってくれている。


「いやあ、すまん。すまん」


サッカー部の三人が走ってやって来た。


「マネージャーの奴らが気付いちゃってさ、帰らせてくれなくってさ。逃げて来たんだよ」


山本が言い訳をしている。


 結局、クラブをサボっていた様だ。

秋山さんとしては、日向さえ居ればことが足りてたと思うのだが。


 栃原先輩も走ってやって来た。新入部員の面倒を見ていたらしい。

あのビデオのせいで、参加したクラブの何処でも新入部の生徒と見学者であふれかえっていたのだ。


 一行は、八王子行きの電車に揺られて行く。桐崎が、背中の刀を前に回して持っている。


(桐崎、なぜ占いに刀がいるのか?)

 全員、これが桐崎のデフォになっているので不思議にも思っていないのだ。


 三代目マダモアゼル星子の館は、俺が通っている予備校の駅の反対側になる。

繁華街が終わった辺りの雑居ビルの中に有る。


 冬の夕暮れは早い。まだ日が高いとはいえ、日差しに赤みがかかって来ている。ビルの隙間から見える筋雲も、やや赤みがかかり始めている。


 オカ研の富士見さんが先頭になって、皆を引っ張っている。サッカー部の山本が予約を入れると言っていたので、音頭取りはてっきり山本だと思っていた。


「早く! 早く! 遅れると置いていきますよ」


富士見さんが幼稚園の遠足の時の先生のようになっている。


「助かるな。遠慮なく置いていってくれ」


俺が呟くと、瀬戸山さんが睨んできた。


「何してるの? 遅れてるわよ」


「遅れたら、置いていってくれるって、助かったね」


「何言ってるの! 問題集を読むのを止めなさいよ」


 俺達は、一番遅れて「三代目マダモアゼル星子の館」に着いた。

 外観は六階建ての雑居ビルで、怪しげな占いの看板が壁に貼ってある。

二カーブで良いのか? 紫色の被り物をした女性が水晶球を前にして、此方を見ている写真がメインだが、背後に星座やタロットカードが描かれている看板だ。

しかし、四柱推命や姓名判断の文字も見られる。

ビルの一階には、占いの道具やグッズ、雑貨やアクセサリーの店が入っている。

 魔法の砂やお守りも売っており、運気を上げたり、恋愛成就に効果がある本物だと富士見さんが紹介していた。


 ビルに入ると、手前の階段を降りて行く。いや、もう、階段の壁や手摺の装飾が可笑しい。占いに関する装飾がして有り、何座と何座が相性が良いとか、何座は今商機が訪れているとかが分かるようになってある。


「ここに来たら、占ってもらわなくて良いじゃん」


「早く行くわよ」


まっ、そんなことを言っても葉月に簡単にスルーされる訳だ。


 これがまた、地下一階の廊下の壁がカオスだ。まず、宗教はやっていないが、色々の国の神々が描いたポスターが貼ってある。

マリア像の絵も有れば黒魔術のミサの絵もある。

廊下の端にガネーシャの置物が座っているし、役行者もいれば、安倍野晴明も居る。

一体、どこの国と言うか宗教を目指して居るか分からない。


「大丈夫か? ここ」


俺はキョロキョロ壁に貼られたポスターや置物を見 ながら、瀬戸山さんに聞いた。

「当たるとか当たらないの前に、頭がおかしいのじゃ無いのか?」


「しっ! 占い屋なんて、だいたいこんなものよ」

「占いに来る人のイメージに合わせてあるのよ」


いや、それにしても、イメージはアラブかインドかジプシーか。



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